わが国の危機に際して自衛隊が防衛活動するときに、国民の理解と協力、在日アメリカ軍との連帯が不可欠です。また、日ごろから、有事に備えて防衛施設の充実を図ることも大切です。
そのために、日本各地で、表舞台に立つことなく黙々と汗をかく人たちがいます。彼ら彼女らの苦労なくして、日本の防衛は成り立ちません。その活動の一部を、ここで紹介しましょう。地方防衛局員、ここにあり!
在日アメリカ軍の訓練移転をリポート
地方防衛局員の多種多様な仕事を紹介する前に、その1例として、在日アメリカ軍が航空自衛隊の基地へ移動して、空自との共同訓練を行う「米軍再編に係る訓練移転(通称ATR:Aviation Training Relocation)」が円滑に進むように、バックグラウンドで活躍した北関東防衛局員の業務に密着取材した。
現地対策本部を編成し、滞在訓練中にさまざまな対応を行う
今回のATRは、2021年12月13〜17日に岩国(山口県)に所在する在日アメリカ軍第12海兵航空群が航空自衛隊百里基地(茨城県)に移動し、第7航空団と共同訓練を行った。これに応じ1都7県(東京都、千葉、埼玉、茨城、栃木、群馬、新潟、長野各県)を管轄する北関東防衛局は12月3日に現地対策本部を設置し、万全の態勢で訓練に臨んだ。
現地対策本部は、自治体への情報提供やマスコミ対応などを行う調整班、周辺市町5カ所で戦闘機の騒音測定を行う騒音測定班、在日アメリカ軍に対する物資などの調達支援、事故などの初期対応を担当する業務班からなる。調整班は百里基地の協力を得て、自治体関係者への訓練公開を開催し、騒音班は全ての訓練飛行の測定を行った。
物資の支援をした業務班には「格納庫の和式トイレが使いにくい」といった想定外の要望もあり、急きょ仮設トイレの手配も行った。防衛局員は慣れない英語に苦労しながらも積極的に交流。訓練が円滑に終了できたのは、北関東防衛局のサポートが大きいのである。
「ATRの裏側で活躍する防衛局員」の巻
地元自治体関係者へ訓練の説明会を開催。ATRで夜間訓練は行わないという報告などが、地元住民の不安を和らげる。
ATRでは在日アメリカ軍第12海兵航空群よりFA-18戦闘機8機、約170人の隊員が百里基地に移動。訓練中は北関東防衛局員がさまざまなサポートを行う。
訓練中、FA-18戦闘機の飛行コースで騒音測定を実施。測定結果を整理・分析し、自治体へ報告する。
訓練に先立ち、百里基地内に現地対策本部を設置。在日アメリカ軍の撤収完了までここを拠点に活動する。
ATRの最後には日米双方の隊員が集まり式典を開催。会見の設定などを防衛局員が行い運営した。
訓練終了後、FA-18戦闘機は岩国基地へ帰投。交流を重ねた防衛局員も手を振り、彼らを見送る。
丁寧な説明と対応で信頼される組織となる
地方防衛局とは、防衛省の地方出先機関として全国8カ所に拠点があり、管轄地域の自衛隊・在日アメリカ軍と地方公共団体や地域住民をつなぐ“架け橋”となる活動をしている。その業務について扇谷治北関東防衛局長はこう話す。
「地方防衛局の主な業務は、①新たな装備品の配備時などに防衛施設周辺の住民や地方自治体の理解・協力を得る業務、②周辺地域との調和を図る施策、③防衛施設の整備や自衛隊の装備品の調達に関する業務、④防衛施設の取得・管理、訓練などに伴う各種補償など、自衛隊および在日アメリカ軍の安定的な運用を支える業務などです。
例えば防衛施設周辺においては町づくりに影響を与えたり、航空機の運用に伴う騒音などの障害で、不便や心配を掛けています。そのような不利益の是正や施設と地域社会の共存・共栄の観点から、公共施設の整備や住宅などの防音工事に対する補助をしています。また防衛政策などに関するセミナーの開催、在日アメリカ軍と地域住民との交流イベントの実施なども行っています」
地方防衛局は、国民の暮らしと国防の両面を支えるため、地道に業務を行なっているのだ。
(MAMOR2022年4月号)
<文/古里学 撮影/村上由美>