マモルではこれまで、自衛隊におけるメンタルヘルスケアが、部隊全体の活力向上や円滑な任務遂行に重要な役割を果たしていることを紹介してきた。では、実際にケアを受けた隊員たちは、どんな感想を持ったのだろうか。あるいはその効果の程は? 率直な意見を聞いてみた。
海外派遣に伴うメンタルヘルスケアを受けて……
【統合幕僚監部 首席後方補給官付後方補給室輸送班 髙塚雄一3等空佐】
2008年の3月から7月まで、イラク特措法に基づき、航空自衛隊が行ったクウェート~イラク間での外務省職員や国連、多国籍軍の人員、物資の航空輸送の任務にあたりました。当時は初めての長期の海外任務であることに加え、イラク国内の一部は情勢が不安定だったため、派遣前に十分に訓練の機会は与えられていましたが、自分の役割を果たさなければならないという重圧を感じていました。
メンタルヘルスケアは、出国前、派遣中の適時および帰国後と、複数の機会が設けられました。カウンセラーとの面談や、ストレスによる心身の症状や緩和の方法などの教育を受けることが主な内容でした。面談を通じ、自分が何を不安に思っているのかが明らかになり、その解決方法を考えることができたのが、有意義でした。また、現地で感じた心の動揺について、事前に知識を得ていたことで、驚きや不安を感じずに済んだこともありがたかったです。
飛行学生のときにカウンセリングを受けて……
【H隊員】
操縦士となるための教育を受けていたとき、思うように自分の技量が伸びず、思い悩んでいた時期がありました。操縦する際に失敗したくないという気持ちから緊張し、その緊張でパフォーマンスが悪化し、その結果さらに緊張するという負のスパイラルに陥っていたのですが、そのことに当時の自分は気付けていなかったのです。
そんなとき教官から勧められ、部隊に常駐していた心理士によるカウンセリングを受けたところ、自分の状態を第三者に話すことで客観的に認識することができ、フライト時も自分の緊張状態を俯瞰的に認識することで負のスパイラルに入ることを防ぐよう意識できるようになりました。自分の置かれている状況を俯瞰的に観察し、焦りそうなときこそ落ち着いてパフォーマンスを引き出すという習慣や考え方は、部隊で部下を率いて任務を遂行する機長になってからも役立っていると感じます。
「レジリエンストレーニング」を受けて……
【航空幕僚監部首席衛生官付 大江暢空曹長】
航空自衛隊で行われている「レジリエンストレーニング」は、それまで経験した、座学の一方通行の教育とは異なり、ヨガなどのエクササイズや呼吸法、問いかけやディスカッションなどがメインの、少人数トレーニングであるのが新鮮でした。
「あなたが戦闘で亡くなったら、ご家族にはどんな弔事を読んでもらいたいですか?」など、人生そのものを見直させるような刺激的な問いかけもあり、ただの教育ではないなという印象を受けた一方、最新のスポーツ科学などの今日的な知見も紹介されており、自分だけでなく家族にも活用してもらえると思いました。
実はトレーニング前までは、「折れない心=鋼のような心」と捉えていたのですが、トレーニングを受ける中で、「折れない心=柔軟な思考や楽観性、ユーモアを背景としたしなやかな心」であることに気付き、感銘を受けました。今では私も若い曹士隊員を指導する立場なので、従来の価値観にとらわれない柔軟な発想で、彼らを引っ張り、衛生員としては隊員に寄り添っていきたいと考えています。
<文/真嶋夏歩 写真提供/防衛省>
(MAMOR2022年2月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです