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     自衛隊におけるメンタルヘルスケアには、平時から心に不調をきたさないよう予防的に行われるメンタルトレーニング的なものから、精神的負担が大きい任務などに際して重点的に行われるメンタルケア、不調をきたした場合に心の傷を癒やし、健康なメンタルを取り戻させるためのケアまで幅広く実施されている。具体的にはどのような施策があるのか、紹介しよう。

    精神的負担が大きい任務などに伴う、事態対処時のメンタルケア

     災害派遣活動や事故などに伴う惨事ストレスにおいては、ケアも長期にわたる。惨事直後は対応に追われ、充分な睡眠を取れていない隊員も多いため、精神的に不安定になることが多い。

     無理をして任務を続行するよりも、適切なメンタルケアを受けることでより確実に任務を達成し、組織に貢献することができる。自衛官にとって、事態対処時のメンタルケアは個人のメンタルヘルスの保持だけでなく、任務達成のために非常に重要なのだ。

    災害派遣

    現場において隊員同士で心身の健康状態を確認し合い、惨事ストレスの蓄積を防止

    画像: 現場において隊員同士で心身の健康状態を確認し合い、惨事ストレスの蓄積を防止

     地震や台風などの自然災害のほか、CSF(豚熱)や鳥インフルエンザの発生に係る家畜の殺処分など、災害派遣活動に従事する隊員は、惨事ストレスを負うリスクが高い。そのため災害派遣の現場では、任務に従事する隊員が自分たちで行う「解除ミーティング」を実施している。1日の活動の終わり、小グループごとにその日の出来事を情報共有したり、互いに心身の健康状態を確認し合ったりすることで、ストレスの蓄積防止を図るのが目的だ。

     また、不幸にも派遣中に起こった惨事について受け止めきれず、自分を強く責めたり、悪夢などの症状に悩まされる隊員に対しては、個別にカウンセリングを行って体験を丁寧に聞いたり症状の説明を行うなど、手厚いケアが実施される。

    警戒監視任務

    高い緊張感が絶え間なく続く隊員の、心身の状態を確認

    画像: 高い緊張感が絶え間なく続く隊員の、心身の状態を確認

     緊急発進をはじめ、24時間365日、絶え間のない警戒監視にあたる航空自衛隊においては、隊員が日常的に強いられる緊張感はかなり高い。また、航空事故は1度起こると、その社会的影響も大きく、隊全体の任務にも大きな支障をきたす。そのため、警戒監視にあたる隊員については、定期的に基地の臨床心理士(心理専門職の民間資格を有する者)が部隊に出向き、直接、隊員の心身の状況を確認するなどの取り組みを行っている。

    海外派遣任務

    日本と異なる環境で、緊急を伴う任務にあたるストレスをケア

    画像: 日本と異なる環境で、緊急を伴う任務にあたるストレスをケア

     PKO国際緊急援助活動に伴う出発前のメンタルヘルス教育や、現地の巡回による情報収集、カウンセリングの実施、指揮官・管理者への助言などがケースバイケースで行われている。派遣規模によっては心理担当者が派遣部隊に編成されて現地へ同行し、隊員のメンタルヘルスケアを実施することも。各種メンタルヘルス施策を実施することで、予防から必要に応じた対応までを、円滑に実施することが可能になるという。

     また、現地のインターネット環境の整備、定期的な荷物の送付、留守家族支援なども、隊員の心の安定に結び付くため、メンタルヘルス上、有意な施策といえる。

    墜落事故

    事故に遭遇した部隊全員のケアを実施

     事故から1週間〜1カ月程度の期間をおいた後、心理担当者が部隊に赴き、希望する隊員だけでなく、事故に遭遇した部隊の全員から、心情や体調について話を聞きながらカウンセリングを進める。同僚隊員だけでなく、遺体や機体部品の収集など、現場での捜索活動に当たった隊員のケアまで、その範囲は広い。対応に追われ寝ていない隊員も多いため、まずは寝る時間を確保し休養をとるよう声掛けを行う。

     大きな心の傷を回復させるためには、抑え込んでいた感情の発露を促すことが大事だという。まずは隊員の悲しみに寄り添い、時には組織に対する不満や要望の声を拾い上げていく作業も大切だ。

    艦艇

    長期におよぶ、限られた空間でのストレスを解消

    画像: 長期におよぶ、限られた空間でのストレスを解消

     艦艇は一度出港すると長期間洋上にいることもあるので、相部屋などの限られた居住空間や家族と離れての暮らしがストレスとなる可能性が高い。そのため、家族との連絡手段を整備したり、トレーニングマシンを艦内で利用するなど、ストレス解消に努めている。

     また、2021年9月からは、艦艇部隊に公認心理師(心理専門職の国家資格を有する者)を派遣する施策の試行が始まった。艦内でのカウンセリング体験やメンタルヘルス講習などにより、隊員が抱える「相談することへの心理的な壁」を低くする効果が期待されている。

    新型コロナ対応

    未知のウイルスと対峙する、先が見えない不安と葛藤を軽減

    画像: 未知のウイルスと対峙する、先が見えない不安と葛藤を軽減

     自衛隊中央病院では、2020年4月以降、新型コロナウイルス感染症患者数が増加し、対応の長期化が危惧されたため、同月より精神科部長を長とするメンタルサポートチームを立ち上げ、病院全体に対するメンタルヘルス活動を行ってきた。相談窓口の設置、院内巡回、カウンセリング、心理教育などが主な活動内容だ。21年5月に運営が開始されたワクチン大規模接種センターにおいても、メンタルサポートチームが巡回し、勤務員のメンタルヘルスケアを行った。

    「惨事後に落ち込むのは通常の反応。休息を最優先に」

    画像: 「惨事後に落ち込むのは通常の反応。休息を最優先に」

    【海上幕僚監部衛生企画室 柴田寛子3等海佐】

     海外派遣先で起きた事故に関する現地でのアフターケア、艦船・航空機事故などに対するアフターケア、部隊でのカウンセリング、メンタルヘルス講習講師などを実施してきました。海自の特徴として、長期にわたる洋上任務にあたる隊員が多いということが挙げられます。

     狭い艦内での人間関係は密になりやすく、艦艇が1度出港すれば、隊員は24時間一緒です。家族同様かそれ以上の親密さが生まれる一方で、神経も使います。携帯電話などによる通信も陸上と同様とはいかないことから、ストレスもたまりやすい環境。少しずつインフラを整備し、家族や友人へ連絡や相談しやすい環境づくりを整えているところです。

     事故直後の混乱した現場に入る際は、隊員が大きな心の動揺や落ち込みを抱えている現実が「非常時における通常の反応」であることを、まずは指揮官などに伝えます。いきなりカウンセリングを行うのではなく、最優先の対応として寝る時間の確保や食事といった休養を勧め、できるところから介入し、次につながる活動を心掛けています。

    国守る隊員の心を守れ!

    <文/真嶋夏歩 写真提供/防衛省>

    (MAMOR2022年2月号)

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