自衛隊におけるメンタルヘルスケアには、平時から心に不調をきたさないよう予防的に行われるメンタルトレーニング的なものから、精神的負担が大きい任務などに際して重点的に行われるメンタルケア、不調をきたした場合に心の傷を癒やし、健康なメンタルを取り戻させるためのケアまで幅広く実施されている。具体的にはどのような施策があるのか、紹介しよう。
早期発見・早期治療に注力するメンタル不調時のサポート体制
メンタルの不調を感じた場合、できるだけ早い段階で相談、治療をすることが、悪化や再発の防止につながる。そのため自衛隊では相談しやすい環境を整備し、隊員に相談を促して早期発見に努めている。また、心の不調に本人が気付かない場合もあるので、上司などが、その不調に気付けるよう、日ごろからサポートしている。さらに、適切な治療や面談などを実施して、職場復帰をバックアップする体制が整えられているのだ。
職場復帰をサポート
メンタルの不調により休職した隊員を、復職まで多面的に支援
メンタルの不調のために長期療養せざるを得ない隊員に対し、自衛隊ではメンタルヘルスの知識を持つ専門スタッフを交えた復職支援チームを結成し、療養から職場復帰までのサポートを行う。陸上自衛隊では全国5カ所に「メンタルサポートセンター」を設け、精神疾患により病気休暇や休職を取得した隊員の職場復帰(復職)支援を行っている。
心理課程を修了したさまざまな職種の自衛官が勤務し、メンタル不調者本人の面談だけでなく、職場上司などに対して、復職支援計画作成の支援や、対応要領や休職制度などに関する留意事項の助言も行う。また、必要に応じて、家族からの相談や質問にも対応している。これらのきめ細かい対応により、本人も職場(組織)も納得できるような形での職場復帰や回復後の方向性を探ることを可能としている。
電話相談窓口
複数の窓口を設け、24時間体制で相談を受け付け
防衛省の主な相談窓口としては、各基地・駐屯地のカウンセラー室(呼称は基地・駐屯地による)や自衛隊中央病院、自衛隊地区病院のそれぞれに、窓口が設けられていて、気軽に相談することができる。
また、隊員とその家族を対象とした24時間体制の部外電話相談窓口を設置している。さらには、期間限定ではあるものの、若い世代になじみのあるSNS(LINE)を活用したカウンセリングを取り入れるなど、隊員が相談しやすいサポート体制を整えている。
部内カウンセラー
職場環境が分かるカウンセラーを配置
ソーシャルメディアの普及や学校教育の在り方の変化など、若者を取り巻く環境が変化する中で、若い隊員の中には、入隊当初、自衛隊ならではの集団生活や教育・訓練に強いストレスを感じる隊員が増えている。
また、近年寄せられる相談内容の複雑化を受け、職場内に職場環境を理解したカウンセラーを置くことで、より相談しやすい環境の醸成を進めている。部内カウンセラーへの相談件数は年々増加しており、メンタル不調の早期発見や状況の悪化防止に役立てられている。
ラインケア
知識を身に付けた上司が、部下のメンタル面をサポート
自衛隊のように指揮・命令系統がしっかりしている組織では、上司が「いつもと違う」部下に気付いて、相談・対応したり、職場の環境整備でメンタルヘルスを支援する“ラインケア”が非常に有効だ。メンタル不調のサインとなる変化や、相談者が話しやすい聞き方などを学ぶ部隊相談員講習を実施し、多くの隊員がメンタルヘルスに興味や関心、必要な知識を持つことにより、部隊の勤務環境の改善およびセルフケアに役立っている。
「再出発を果たす隊員の姿にやりがいを感じます」
【自衛隊中央病院メンタルサポートセンター長 満井美奈子3等陸佐】
私は防衛大学校を女子2期生として卒業し、施設科で勤務していました。10数年前に受けた衛生学校でのメンタルヘルスの集合訓練をきっかけに、勤務の傍ら心のケアに携わる「精神保健福祉士」になるための資格を取得。現在はメンタルサポートセンター長としての勤務と平行して、復職支援の研究を続けています。メンタルサポートセンターでは精神的な不調を抱えた隊員の職場復帰に向けた面談を行っています。
当初は顔色も悪く、つらい心情を泣きながら訴えていた隊員でも、部隊からいったん離れて休養し面談と復職訓練を重ねていくうちに、自分を振り返り、新しい自分を受け入れられるようになっていきます。視野が広がり、再出発を果たす姿を見ると、関わることができてよかったと感じます。自衛隊員として復帰する方が大半ですが、中には療養に専念したり、退職する隊員もいます。少しでも気持ちが楽になり、自分の人生を自分で選択していけるような支援ができるよう、目の前にいる方の“味方”になって聞く支援を大切にしています。
<文/真嶋夏歩 撮影/増元幸司 写真提供/防衛省>
(MAMOR2022年2月号)