•  自衛隊とアメリカ軍の協力関係は、部隊の共同演習、訓練だけにとどまらない。新しい技術や分野での開発・共同研究、そのための人材育成、さらには大規模災害への対処や民間への文化交流など、幅広い分野での協力体制を築き上げている。自衛隊とアメリカ軍の間でどのような協力を行っているのか、隊員・軍人らの声を交えつつ、分野ごとに解説していこう。

    1:教育、研究交流(Education and research exchange)

    幹部教育のため、アメリカ軍と自衛隊が留学生を交換

    画像: 陸上自衛隊の幹部学校(現:教育訓練研究本部)で行われた、他国軍人を招き安全保障について意見交換する多国間セミナーでの記念写真。前列左端が冨永3佐、右から2人目がウィルハイト少佐

    陸上自衛隊の幹部学校(現:教育訓練研究本部)で行われた、他国軍人を招き安全保障について意見交換する多国間セミナーでの記念写真。前列左端が冨永3佐、右から2人目がウィルハイト少佐

     サイバー、宇宙へと防衛領域が拡大していく中、新たなテクノロジーや人材の育成が求められている。現在、自衛隊とアメリカ軍とでは優秀な幹部をお互い交換留学生として定期的に受け入れ、知識、技術の習得や統合運用のための教育、研究を行っている。

    多国籍の集合でも共通の価値観

    「留学期間中は馬毛島や硫黄島を訪れたり、文化交流の一環で民間企業で研修をしたりと、思い出がいっぱいあります」と語るウィルハイト少佐

    【在日アメリカ軍司令部 政策・計画部(J54)政府関係 副課長 クリスタル・ウィルハイト アメリカ陸軍少佐】

     私は2016年12月から15カ月間、陸上自衛隊幹部学校で戦略や共同作戦などを学びました。100人ほどのクラスには私を含め9人の外国籍の学生がいました。国や文化的背景は違っても祖国への気持ちや国防に対する態度はみんな一緒。同じ価値観を共有できました。特に冨永3佐とは、幹部学校で培った友情が今も続いています。

    このつながりを大切にしていきたい

    ウィルハイト少佐の昇任パーティーやお子さんの誕生会などにも出席したという冨永3佐。「同期との交流を楽しく思う気持ちは国籍に関係なく同じです」

    【陸上幕僚監部 防衛部 防衛協力課付 防衛政策局 国際政策課 冨永麻美3等陸佐】

     ウィルハイト少佐とは、上級指揮官、幕僚となるための教育課程で同じ班でした。言語や文化が違う国にアメリカ陸軍を代表して来日し、日本人学生とともに積極的に教育に参加している少佐の姿はとても素晴らしく見えました。自衛隊・アメリカ軍双方の戦術などについて活発に意見交換ができ、この繋がりを今後も大切にしていきたいです。

    2:軍事・防衛技術(Military/defense technology)

    アメリカ軍と自衛隊が共同で最新装備を研究・開発

    防衛装備庁とアメリカミサイル防衛局が共同で開発した弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイル(SM-3ブロックIIA)のイージス艦からの発射試験

     防衛省・自衛隊は、「相互防衛援助協定」に基づき、アメリカ軍との装備・技術面での協力を推進している。アメリカ軍から装備品を調達するだけでなく、日本からも装備品や防衛に関する技術の供与などを行っている。また日米間で定期的な協議を行って、新たな防衛装備の共同研究開発なども進めている。

    困難な原因を究明し信頼関係を構築している

    弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイルの日米共同開発のプロジェクト・マネジャーを務め、諸外国とも共同研究・開発の国際装備・技術協力を行う

    【防衛装備庁 装備政策部 国際装備課 国際装備協力室長 杉崎五郎】

     高性能化、多様化する弾道ミサイルへの対処は、アメリカにとっても大変重要な開発です。アメリカ側は失敗事例でも前向きに評価し、柔軟な発想で問題を克服しようとします。実際に試験から学んだことは多く、われわれが困難な原因究明を解決するたびに評価をしてくれて、双方の信頼関係はゆるぎないものだと感じます。

    3:弾道ミサイル防衛(BMD=Ballistic Missile Defense)

    自衛隊とアメリカ軍が協力してミサイルを防衛

    画像: アメリカ軍がもつ弾道ミサイル探知・追尾用のレーダー

    アメリカ軍がもつ弾道ミサイル探知・追尾用のレーダー

     自衛隊とアメリカ軍は、弾道ミサイル防衛協力の強化のための取り組みを継続的に実施。BMDはアメリカが研究中の弾道ミサイルからの防衛構想で、現在は、自衛隊はイージス艦地対空誘導弾ペトリオットを統合的に運用し、アメリカ軍もミサイル防衛のために日本に部隊を展開している。

    4:宇宙・サイバー(Space/Cyber)

    日米で協力しながら宇宙分野の人材を育成中

    画像: アメリカ軍主催の多国間机上演習「グローバルセンチネル19」の会場。オーストラリア軍やカナダ軍など、参加国ごとにブースで仕切られ、宇宙空間の脅威に対処する演習を行った 写真/USAF

    アメリカ軍主催の多国間机上演習「グローバルセンチネル19」の会場。オーストラリア軍やカナダ軍など、参加国ごとにブースで仕切られ、宇宙空間の脅威に対処する演習を行った 写真/USAF

     現在、日米のみならず世界各国が宇宙・サイバー領域の防衛体制を整えている。自衛隊とアメリカ軍は、宇宙分野においては、政策的な協議の推進や、情報共有の緊密化、専門家の育成・確保のための協力などを行っている。サイバー分野においても、情報共有のあり方や人材育成、技術面における協力など、協力体制を築いている。

    国境のない宇宙空間で日本とアメリカが緊密な関係に

    「アメリカ軍人は、宇宙分野について、今、そして今後何をすべきかという信念と具体的な目標を各人がしっかり持っており、軍人としての凄みを感じました」と話す齋藤3佐(右)

    【航空幕僚監部 防衛部 事業計画第2課 齋藤拓也3等空佐】

     航空自衛隊はアメリカ軍主催の宇宙状況監視多国間机上演習に2016年から参加しています。この演習では、宇宙で発生する事象の監視・情報共有を演練するとともに、アメリカをはじめとした多国間連携に関する識能を習得しています。国境のない宇宙空間の安定的利用を確保する上で、2023年度からの宇宙状況監視の運用開始に向け、日本とアメリカは緊密な関係構築を行っています。

    5:大規模災害への対処(Dealing with large-scale disasters)

    大規模災害に備えて日米共同の防災演習を実施

    画像: 2015年に行われた日米共同統合防災訓練にて、負傷者に見立てた隊員をアメリカ軍機へ搬送する、自衛官とアメリカ軍人。協力して震災対処能力の向上を図った

    2015年に行われた日米共同統合防災訓練にて、負傷者に見立てた隊員をアメリカ軍機へ搬送する、自衛官とアメリカ軍人。協力して震災対処能力の向上を図った

     東日本大震災のときに在日アメリカ軍が展開した「トモダチ作戦」では、多くの人員、艦艇、航空機を投入し、多くの国民の賛同を呼んだ。以降自衛隊とアメリカ軍は関係官庁や地方公共団体などとも連携し、大規模災害を想定した防災演習を繰り返している。

    6:そのほかの軍事的協力(Other military cooperation)

    海洋監視情報の共有など多岐にわたり協力

     これまで紹介した項目以外にも日米同盟対処力強化のため、自衛隊とアメリカ軍は共同で情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動を実施している。ほかにも、国際法に基づく海洋秩序を維持するための海洋監視情報の共有、物品などの後方支援を提供し合うよう協定を結ぶ、演習場や港湾、飛行場を共同使用するなど、多岐に渡り協力体制を築いている。

    7:地方防衛局主催の交流イベント(Exchange event sponsored by the Defense Bureau)

    コンサートやスポーツで民間の日米交流

    画像: 山口県岩国市で行われた日米合同コンサート。県内外の小中学校やアメリカ軍岩国基地内の小・中学生、高校生たちが参加し演奏を楽しんだ

    山口県岩国市で行われた日米合同コンサート。県内外の小中学校やアメリカ軍岩国基地内の小・中学生、高校生たちが参加し演奏を楽しんだ

     地方防衛局では、在日アメリカ軍の駐留に対する基地周辺の住民の理解と協力を得るため、各地で日米文化交流事業をさかんに行っている。

    画像: 車力小学校の児童と車力通信所の軍人らが参加した、かかし作り。参加者は、協力して制作を行いながら、稲作文化についての理解を深めた

    車力小学校の児童と車力通信所の軍人らが参加した、かかし作り。参加者は、協力して制作を行いながら、稲作文化についての理解を深めた

     スポーツや音楽会、さまざまなイベントを開催し、子どもから大人まで住民を招き、アメリカ軍人やその家族と触れ合う機会を作っている。またアメリカ軍側も基地内に住民を招待し、日米間の友好関係を深めるよう努めている。

    地域住民と在日アメリカ軍の交流イベント一例(地域防衛局主催)

    (MAMOR2021年9月号)

    <文/古里学 撮影/荒井健(クリスタル・ウィルハイト少佐)>

    自衛隊とアメリカ軍の緊密な関係を探れ!

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