防衛省は自衛官としての任期を終えて民間会社などに就職する人材を「自衛隊新卒」と呼んでいます。自衛隊新卒は、在隊時に身に付けたスキルで即戦力として活躍できるといわれています。では自衛官はいったいどのようなスキルを身に付けているのか?経営者として活躍する元自衛官に話を聞いてみました。
災害への危機意識と備え。そのスキルが生きています
【株式会社フジムラ 藤村一人】
1967年東京都生まれ。85年、陸上自衛隊入隊。第1施設団第101施設器材隊に所属し、東京都の朝霞駐屯地で勤務。89年に陸士長で退職後、父親が創業した解体会社(株式会社フジムラの前身)に入社し、99年に代表取締役社長に就任。現在は代表取締役会長兼社長
自衛隊の中でも、より人の役に立てる部隊に行きたいという希望があった藤村さんは、災害派遣任務に出る機会が多い施設科に配属された。「器材の安全管理の徹底はもちろん、即応体制を整えることなどを学びました。これは今の仕事でも生きています」。
いざというときに備え、即実行する力、周囲との連携など、自衛官時代の経験が発揮されたのが2019年9月に発生した台風15号の影響で倒壊したゴルフ練習場の鉄柱撤去作業だという。
「13本の鉄柱が倒壊し民家27軒が損壊しました。自衛隊時代の災害派遣で行政との連携が重要だと学んでいたので、自治体とゴルフ練習場の所有者に連絡し、無償での撤去を申し入れました。作業は困難も伴いましたが、日ごろから技術を磨いていたので安全かつ素早く対応できました」
情報の整理・分析・報告は護衛艦勤務で培ったスキル
【株式会社FRONTEO CEO 守本正宏】
1989年に防衛大学校卒業後、海上自衛隊に入隊し護衛艦『ちとせ』、『くらま』などで勤務。94年に2等海尉で退職後、半導体製造装置メーカーを経て、2003年に株式会社UBIC(現・株式会社FRONTEO)を設立。独自開発のAIエンジンを活用した情報解析事業を展開
「『究極のフォロワーシップは究極のリーダーシップ。究極のリーダーシップは究極のフォロワーシップ』。これは私が護衛艦勤務から得た見地です」と話す守本さん。自衛官は同時多発的に起こる現象を整理・分析し、上官に報告する。その過程の全てがスキルにつながると続ける。
「上官が必要とする情報は何か、適切な言葉の選択と伝える情報の量、タイミングも見極めなくてはいけません。しかも任務は、緊迫した状況であることも多い。パニックを起こさない、冷静な判断力も身に付きました」
会社経営者として、組織を形成する上では、見極める力や判断力を備えた人材確保が重要だと守本さん。「多くの自衛官が、このスキルを身に付けています。経営者として、こうしたスキルを持つ人材育成を意識しています」。
自己管理能力の大切さを経営者として実感
【HotSprings株式会社 永井宏樹】
1983年静岡県生まれ。2003年に入隊後、第2高射特科群第302高射搬送通信中隊に所属し千葉県の松戸駐屯地で勤務。06年に陸士長で退職。その後大学に進学し、15年に光線銃を使った戦闘ゲームのイベント企画などを行うHotSpringsを設立。即応予備自衛官としても活動中
「自衛官時代、例えば5キロメートルの持久走などでは、徹底した自己管理と結果を求められました。自己管理とは、目標設定と、それを達成するための方法です。無謀な計画でけがをしてしまっては本末転倒。自分の体力や練習計画、練習や休息時間など徹底的に記録をすることを部隊で教わりました。こうした地道な努力が大きな結果を引き寄せると学びました」と話す永井さん。徹底的な自己管理スキルが大きな財産となっている。
「経営者として事業計画を立てそれを実行する工程は、まさに持久走で鍛えた現状の課題を知り、クリアするための計画を練る自己管理と一致します。また、自衛官時代に培った体力も、年齢を経るごとに得難い財産と再認識し、即応予備自衛官でもあるので、維持を心に決めています」
(MAMOR2021年10月号)
<取材・文/MAMOR編集部>