•  自衛官人生の3分の1は学校にいるといわれるほど、自衛官は年齢や階級、職種にかかわらず、常に教育、訓練を受けるシステムができている。そのシステムを、教育現場のリポートでミクロに説明しよう。

    部隊で活躍する隊員を育てる 自衛隊の教育現場に密着

    画像: 訓練場に集まった新入隊員らに対し、教官である班長が訓練の注意点などについて熱く指導する

    訓練場に集まった新入隊員らに対し、教官である班長が訓練の注意点などについて熱く指導する

     教育現場をリポートしようと取材班が訪れたのは、空の守りを担う隊員を育てる、航空自衛隊航空教育集団に属する教育部隊がある熊谷基地(埼玉県)。新入隊員に基礎教育を行う第2教育群と、通信全般、気象全般などの専門教育を行う第4術科学校から、自衛隊教育の現場を報告する。

    自衛官になるための基礎的な知識・技能の教育を行う:航空教育隊第2教育群

    自衛官としての基礎的素養と心構えを細やかに指導

    「『やる気・元気・負けん気』の3気精神は、航空自衛官として、全ての基礎になります」と、若手幹部教官の村上2尉

     航空教育隊に属する熊谷基地の第2教育群では、新人を育てる自衛官候補生課程や一般空曹候補生課程のほか、3等空曹へ昇任する空曹予定者課程(注)などを行う。その中で今回取材したのは、自衛官候補生課程に入校した隊員たち。

     この課程の目的は、航空自衛官としての基礎的素養や心構え、技能を身に付け、自衛官としての心構えを育成すること。敬礼や回れ右などの基本教練をはじめ、座学では防衛教養や自衛隊法などの諸法規を学ぶ一方、体育による体力練成など、約3カ月間、共同生活をしながら訓練漬けの日々を送る。その中で、団体生活における規律や行動の基礎を学ぶのだ。

    「この課程に入校する学生は、18歳から33歳未満と年齢的な幅があるうえ、中卒から転職組までと経歴も違う。再入隊の学生も少なくないため、習熟度はさまざまです。それぞれの個性に合った教育を心掛けています」と、教官として自衛官候補生や空曹予定者の教育に当たる村上仁彦2等空尉は話す。

    画像: 小銃携行時の扱い方を学ぶ「基本教練の執銃動作」では、班付隊員が姿勢や銃の角度など学生の一挙手一投足を細かく指導する

    小銃携行時の扱い方を学ぶ「基本教練の執銃動作」では、班付隊員が姿勢や銃の角度など学生の一挙手一投足を細かく指導する

     取材当日、基地内では小銃を取り扱う際、基本的な動作となる「基本教練の執銃(しつじゅう)動作」が実施されていた。学生たちは各人に貸与された小銃を受け取る「武器受領」の後、安全点検を行い、訓練場に移動。隊列を組み、銃を用いた敬礼の方法などの基本動作を繰り返し行っていた。

     学生たちの傍らに立ち、「銃を保持する角度は、体軸に対して30度で」など、細かな指導を行うのは、班付隊員の役割だ。彼らは隊舎で入隊間もない学生たちと共に暮らし、兄貴的な立場でメンタルケアにも気を配る。

    中堅教官の吹越昭裕2等空曹。「必死に訓練に取り組み、涙とともに部隊へ旅立つ学生たちの姿が印象的です」

    「上司である班長の指導を分かりやすい言葉で伝えたり、学生たちの声に親身に耳を傾け、常に相談相手となり、学生の不安や悩みを解消するようにしています。部隊で先輩にかわいがられるような後輩を育てたい」と話すのは、ある班付隊員。一方の新入隊員は、「厳しい側面はありますが、常に教官方の熱意と愛情を感じています。入隊してよかったです」と笑顔で話してくれた。

    「全力で努力し続ける大切さを学生たちに伝えたい」と語る、2教群の教官の職に就いて1年目の岡田直也3等空曹

     密接なコミュニケーションの中で、学生と教官とが信頼関係を築きながら教育が行われ、学生たちには強固なチームワークが養われていく。今回の執銃教練中、バラバラと聞こえていた、銃を扱う音、隊列を組む足音が、課程の修了を迎えるころには、全員の一糸乱れぬ動きにより訓練場に響き渡る足音までがピタリとそろうようになるという。彼らはやがて厳しい訓練を乗り越えた充実感を胸に、それぞれの部隊へと巣立っていく。

    (注)空曹予定者過程:空曹予定者に指定された航空自衛官に対し、空曹としての資質を養うとともに、初級空曹として必要な知識および技能を習得させるための過程。

    気象や通信など各職種のプロフェッショナルを育てる:航空自衛隊第4術科学校

    学生の能力・適性に合った専門性の高い教育を実施

    画像: 気象観測員の教育課程では、収集した気圧などの数値を基に、気象図を作成するなど高度な教育も行う

    気象観測員の教育課程では、収集した気圧などの数値を基に、気象図を作成するなど高度な教育も行う

     空自の隊員に各職種で必要とされる技術や知識を身に付けさせる術科学校の中で、通信機器の運用や整備、気象観測、気象観測器材の整備などの教育を行うのが、熊谷基地にある第4術科学校だ。職種としては、地上無線整備員、有線整備員、通信員、気象観測員など。入校する学生は教育隊を卒業したばかりの空士から空曹、初級幹部と幅広く、各課程に沿った座学、実習に加え、体育訓練も行われている。

    新田3曹は、「月並みですが、学生から『勉強になりました』と言われることが一番うれしいですね」と話す

    「現場で仕事ができる専門家を養成する教育であるため、カリキュラムが密に組まれています。詰め込み教育となる傾向にあるため、学生のモチベーション維持が課題」と話すのは、航空機を誘導するための無線通信システムに関する教育を行っている新田一郎3等空曹だ。

    「苦労して教えた学生が教官として戻ってきたときは、成長した姿に感無量でした」と、ベテラン教官の鶴田1曹

     気象部隊での経験を生かし、天気図解析などの授業を行う鶴田博之1等空曹は、「深く考えすぎる学生には単純に考えさせたり、反対に要領よくやろうとする学生には深さを追求させたりと、あの手この手で教育内容の定着を図っています」と話す。

     授業では鶴田1曹が、ポイントとなる解説を学生たちの頭にすり込むように何度も繰り返していたのが印象的だった。ここで学ぶ技術や知識は日本の空を守る任務に直結するため、「できない」、「分からない」では済まされない。教官も学生も真剣に取り組む、スペシャリストを育てるための教育が、ここにある。

    (MAMOR2021年4月号)

    <文/真嶋夏歩 撮影/近藤誠司>

    自衛官を育てる言葉

    This article is a sponsored article by
    ''.