•  普段は自衛隊員や地域住民の病院として活動し、いざ事が起きたらその能力をフルに発揮して多くの人々を助ける自衛隊中央病院。スタッフの多くが自衛官であることも、高度な危機管理能力を持つ理由の1つ。ここで働く病院スタッフたちの声をお届けする。

    「基本」を継続してきた取り組みの正しさを証明

    「危機を予測し、準備することは自衛官である私たちの任務です。あらゆる事態に常に備え、準備をしています」と話す上部病院長

     2020年は、自衛隊中央病院にとって激動の1年となった。新型コロナウイルス対応で注目を集め、メディアに登場する機会も多かった。病院長の上部泰秀防衛技官は語る。

    「今年、われわれはいろいろな経験をしました。当院で新型コロナウイルス対策に関わった医療従事者から1人の感染者も出さなかったこと、クルーズ船対応以降も多くの患者を受け入れられたことで、これまでの取り組みに間違いがなかったと考えています。

     報道を通じて一般の国民からの見られ方も変わりましたが、民間では対応が難しい患者を受け入れたことで、行政からの期待感も増したと感じます。私たちの役割と立場を自覚し、今後も国民からの期待に応えるべく努力し続けます」

    画像: 病棟内のスタッフステーション。日々緊張状態の続く中、医官・看護官たちはお互いコミュニケーションを密に取りながら診療にあたっている

    病棟内のスタッフステーション。日々緊張状態の続く中、医官・看護官たちはお互いコミュニケーションを密に取りながら診療にあたっている

     自衛隊中央病院のスタッフは、自衛隊医療の中枢にいる者として、「非常事態が今起こるかもしれない」と緊張感を持って業務に臨むことを「基本」としている。今日も国民の安心安全のため、そして全ての自衛隊員が力を発揮できるよう基本を守っているのだ。

    救急患者を多く受け入れ、より多くの症例経験を積む

    竹島1佐は、「救急患者の受け入れは地域貢献にもなります。高い技量を持つ医官育成のために取り組み続けます」と話す

     この10年で自衛隊中央病院が変わった点の1つは、救急患者を積極的に受け入れるようになったことだ。10年に救急車・救急患者の受け入れを始めたが、当初はその数も少なかった。

    「『自衛隊の医師は臨床に弱い』という批判がありました。閉じた環境にいるため多くの症例に触れられなかったのが理由です。そこで私は、自衛隊病院でも積極的に救急患者を受け入れるべきだと考え、働きかけました」

     こう語るのは、救急科医官として患者を診察する総合診療科部長の竹島茂人1等陸佐。16年に東京都の2次救急医療機関に指定された当時は約2000台だった救急車の受け入れが、19年には延べ6600台以上となった。

    画像: 近年急速に受け入れ件数を伸ばしている救急患者の症例をこなすことで、医官・看護官などの経験値は飛躍的に上がったという

    近年急速に受け入れ件数を伸ばしている救急患者の症例をこなすことで、医官・看護官などの経験値は飛躍的に上がったという

    「救急患者受け入れは態勢維持など苦労も多いですが、医官などは経験が積めます。ひいては、自衛隊衛生部門の強化につながると確信しています」

    質の高い医官を育成する。自衛隊中央病院の重要任務

    「昔から“衛生隊員のいない作戦はない”と言われるほど医官・看護官は不可欠。その重要性が高まっています」と話す伊藤1佐

     自衛隊中央病院は「医官を育てる」役割も果たしている。「管理型臨床研修病院」の指定を受け、多くの医師の卵を育てている同院。育成の重要性を、病院の各診療科のまとめ役、総括診療幹事の伊藤利光1等陸佐に聞いた。

    「自衛隊に医官や衛生科は必要不可欠ですが、演習などに参加しても、常に負傷者が出るわけではないので活躍の場が少なく、目立たぬ存在でした。それが災害派遣などで医官が活躍する場面が増え、『よい医療を提供する』ことがより期待されるようになりました。そのため質の良い医官を育てることが求められるようになったのです」

    画像: 防護衣を着用し、感染症病棟で新型コロナウイルス感染症患者の治療にあたるスタッフ

    防護衣を着用し、感染症病棟で新型コロナウイルス感染症患者の治療にあたるスタッフ

     医官の育成に力を入れたことで、災害時の医官の使命感も増したという。

    「医師として臨床で役立ちたいというマインドが、新型コロナウイルス感染症関連でも生かせたと考えています。質の高い臨床医の育成を続け、多くの人に役立つ医療の提供を追求したいと思います」

    半分白衣、半分迷彩服。自衛隊ナースとしての誇り

    看護部長の大石1佐は約1000人の自衛隊ナースのトップだ。「どんな状況でも、良い看護ができる人材を育成したいです」

     看護官は全国の自衛隊病院のほか、各部隊でも勤務している。

    「看護師としては民間病院と同じだと思います。もちろん学生時代から自衛官としての教育を受け、365日、事が起きれば任務を果たす覚悟は皆持っています」。と語るのは、自衛隊中央病院看護部長の大石真由美1等陸佐。自衛隊中央病院の看護官は病院で取り組む訓練のほか、看護部内で計画した、患者の状態を判断する訓練なども行う。

    画像: PCR検査を行う臨床検査技師。検体は、専用の検査室において、ウイルスが漏れないよう陰圧になっている安全キャビネット内で扱う

    PCR検査を行う臨床検査技師。検体は、専用の検査室において、ウイルスが漏れないよう陰圧になっている安全キャビネット内で扱う

    感染症病棟から持ち出すものは、たとえ廃棄用の箱であっても消毒をしてから処分をし、ウイルスの流出を防止する

    「自衛隊の看護師は、臨床の現場や部隊での看護経験を積んで応用力を身に付けます。そのため災害時や有事などでも対処できるよう訓練されています。教育課程でも学びますが、私たちは半分迷彩服、半分白衣の存在であり、それが誇りです」

    外部からも高い評価を得る自衛隊中央病院

    画像: 第18回「国民の自衛官」表彰式であいさつをする受章者代表の自衛隊中央病院の上部泰秀病院長ⓒ 産経新聞社

    第18回「国民の自衛官」表彰式であいさつをする受章者代表の自衛隊中央病院の上部泰秀病院長ⓒ 産経新聞社

     自衛隊中央病院の活動は外部からも高い評価を得ている。国際活動や災害派遣などで著しい功績のあった自衛官を表彰する「国民の自衛官」という顕彰と、同じ医療関係者から見た自衛隊中央病院の実力を紹介しよう。

    現役自衛官を顕彰する「国民の自衛官」に選出

     現場で日々、国民のために頑張る現役自衛官を顕彰する取り組みの1つが、産経新聞社、フジサンケイグループ主催の「国民の自衛官」だ。20年10月に18回目を迎えた表彰式では、新型コロナウイルス対策などで著しい功績をあげた自衛隊中央病院をはじめ、9人1機関を選出。

     受章者を代表し、上部病院長はコロナ流行下にあっても「与えられた任務を達成して、国民の負託に応えていく」と力の込もった言葉を届けた。

    自衛隊中央病院の医官は、規律正しく冷静沈着な印象

    香取勧(すすむ)。一般社団法人世田谷区医師会救急災害医療部担当理事。自衛隊中央病院の大量傷者受入訓練に参加し、連携を深めた

     一般社団法人世田谷区医師会救急災害医療部担当理事の香取勧氏は「優れた病院診療機能と災害即応能力を持つ自衛隊中央病院の存在は、医師としても、地域の病院と連携する医師会としても心強いです。今後も天災やテロに備え、一緒に訓練を行いながら連携を深め、地域の医療を支えていきたいと思っています」と語った。

    (MAMOR2021年2月号)

    <文/臼井総理 写真/村上淳>

    国民の自衛隊中央病院

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