•  2020年2月、クルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス号』で発生した新型コロナウイルス感染症患者をいち早く受け入れた自衛隊中央病院。

     自衛隊中央病院には有事の際に役立つさまざまな工夫がなされている。それは、設備に限らず、運用体制など広範囲にわたり、全国の自衛隊病院のネットワークと共に、いざ、に備えているのだ。

    自衛隊中央病院が備える万全の態勢

    傷病者を一時的に受け入れ可能な広いエントランス

    訓練で、傷病者の症状を確認する病院スタッフ。広くとられたスペースには患者を収容してもスタッフが活動できる余裕がある

     病院の正面玄関から入ると、広々としたエントランスが。ここはいざというときに大勢の負傷者を一時的に受け入れるスペースだ。負傷の程度を判断し、診察・治療の順番を決める「トリアージ」もここで行う。

    画像: 玄関外にも広いスペースを確保。病院に搬送されてきた患者を受入れる

    玄関外にも広いスペースを確保。病院に搬送されてきた患者を受入れる

     玄関外にもトリアージ用のスペースが確保されている。

    緊急時にはソファをベッドとして増床できる

    画像1: 緊急時にはソファをベッドとして増床できる
    画像2: 緊急時にはソファをベッドとして増床できる

     ロビーや待合室にあるソファの約半数は、背もたれを倒すことで簡易ベッドに。

    画像: 電源と酸素の供給、たんなどの吸引ができるポートがそれぞれ設置されている「災害対策用アウトレット」。通常はスライド式の扉で覆われている

    電源と酸素の供給、たんなどの吸引ができるポートがそれぞれ設置されている「災害対策用アウトレット」。通常はスライド式の扉で覆われている

     また待合室などの壁面には約40カ所、電源や酸素供給などが可能な「災害対策用アウトレット」がある。これを簡易ベッドと組み合わせ、増床できる。

    有事の際は会議室を指揮所として使用

    画像: 2017年の大量傷者受入訓練時の会議室。モニターや地図類が運び込まれ被害状況などを確認

    2017年の大量傷者受入訓練時の会議室。モニターや地図類が運び込まれ被害状況などを確認

     病院内に設けられている会議室は災害などが起きた際などは指揮所として使用。毎年行われる「大量傷者受入訓練」など、大規模訓練の際は、主要幹部が集合し病院運営に関する意思決定などを行う。

    災害の際、職員の子どもを預かる施設を開設

    画像: 東日本大震災や、新型コロナウイルス入院患者が集中している時期にも託児施設は開設された

    東日本大震災や、新型コロナウイルス入院患者が集中している時期にも託児施設は開設された

     別棟にある運動場などを使い、災害の際は職員用の託児施設を開設する。職員の子どもを預かる設備を設けることで、災害時に緊急出勤をした職員に安心して任務に取り組んでもらえるようにしている。託児施設は病院の職員などが交代で維持する。

    新型コロナウイルス対応でも機能した、感染症対策用設備

    救急外来入り口に感染対策用設備を完備

    画像: 感染症をはじめとしたさまざまな状況に対応できるよう対策された救急外来入り口。写真中央奥が「震災対処用救出セット」のロッカー

    感染症をはじめとしたさまざまな状況に対応できるよう対策された救急外来入り口。写真中央奥が「震災対処用救出セット」のロッカー

     救急車が到着する救急外来入り口には、サーモグラフィーなど感染対策用設備があり、検温などの結果によっては、患者を速やかに感染症病棟へ搬送する。

    画像: 救急外来入り口に感染対策用設備を完備

     また「震災対処用救出セット」のロッカーには、地震などで建物が被災した際の救助に使うハンマーやおのなどが入っている。

    感染症患者などを専用病棟に運ぶエレベーター

    救急外来や夜間入り口から直接、感染症病棟まで患者を運ぶエレベーター。動線を分け、感染拡大を防止する

     感染症患者の移動は、院内感染防止のため、ほかの患者と動線を分ける必要がある。感染症患者用に専用エレベーターがあり、一般の患者などと接触しないように運用することができる。

    役割が一目で分かる専用ビブス

    「トリアージ班 医官」、「救急室治療班 看護官」など、緊急時の役割が分かるビブスが並んでいる

     緊急時に各員の役割が一目で分かるよう色分けされた、職員が装着するビブス。救急外来入り口の壁に設置してある。ビブスにはそれぞれの役職においてやるべきことが書かれたカードが入っている。これを着用することで、スピーディーな診療体制を確保できる。

    有事に備える万全の態勢。他病院とは異なる設備

    「自衛隊の最終後送病院として、国民の皆さまの信頼を損なうことがないよう、設備面の強化も重要です」と大堀総務部長

     自衛隊中央病院の建物は、2009年の建て替え時に、感染症対策や有事への備えを強化。11年の東日本大震災、20年の新型コロナウイルス感染症対応でも有効に機能した。同病院の総務部長、大堀健事務官によると、有事の備えは設備面だけに限らないという。

    「おおよそ、発電用燃料は5日分、水は3日分、患者用の給食は5日分、医薬品は1週間分、一般的な消耗品は2~3週間分を確保しています」

     さらに病院の備蓄だけでは足りない場合は、近隣の補給処などから医薬品などをはじめ、必要な物品が補給される。また、災害発生後は約2時間で約6割の職員が出勤可能な即応態勢も整えている。

    全国16カ所にある自衛隊病院と、その中枢である自衛隊中央病院

    自衛隊中央病院は1956年に開設。現在は29の診療科をもち、病床数500、感染症専用病棟を備え、エボラ出血熱など極めて危険性の高い「一類感染症」にも対応する病院だ

     北は札幌から南は那覇まで合計16の自衛隊病院がある。陸・海・空3自衛隊の共同機関である自衛隊中央病院は、それら自衛隊病院の中核であり、自衛隊衛生の中枢。

     平時には隊員や地域住民の診療にあたり、隊員の健康管理、各種の研究や教育訓練を担当。そして有事の際には、自衛官である医師・看護師(医官・看護官)などを派遣し、全国の衛生科部隊の「最終後送病院」として、各病院で対応困難な重症者を受け入れ、高度な医療を供給する。総勢1000人ほどのスタッフが働き、うち約8割を自衛官が占める。

     同病院の任務で珍しいところでは官邸医療支援官という任務がある。これは、医官・看護官を総理官邸の医務室に派遣するものだ。

    医官・看護官を育てる機関、防衛医科大学校

    画像: 制服に身を包み、キャンパス内を行進する防衛医科大学校の学生たち。課業前は隊列を組んで整然と移動をする

    制服に身を包み、キャンパス内を行進する防衛医科大学校の学生たち。課業前は隊列を組んで整然と移動をする

     自衛隊の医官・看護官は、医師・看護師であると同時に自衛官でもある。そんな「自衛官である医師・看護師」を育成する機関が、埼玉県・所沢にある防衛医科大学校だ。全寮制で自衛官としての訓練を受けながら規律ある団体生活を送り、医師・看護師を目指す防衛医科大学校を紹介しよう。

    全寮制の学習環境で医師・看護師の免許取得を目指す

     1973年に開設された防衛医科大学校。2014年からは看護師を養成する看護学科も併設され、国家資格である医師・看護師の免許取得に必要な医学知識の習得、臨床についての教育と、幹部自衛官として任務遂行に必要な自衛官としての訓練などを行う防衛省の機関として活動している。病院実習は、隣接する防衛医科大学病院のほか、自衛隊中央病院などで行われる。

     学生たちは、在学中も手当を支給され、卒業後は全国の自衛隊病院や部隊で医官・看護官として勤務する。キャンパスは埼玉県西部の所沢市に所在。学生は幹部自衛官としてのマインドを養うため、学生隊を編成し、各隊の学生長の指揮下に自主的に運営された生活を送っている。

    (MAMOR2021年2月号)

    <文/臼井総理 写真/村上淳>

    国民の自衛隊中央病院

    This article is a sponsored article by
    ''.