• 画像: 災害派遣は自衛隊の「主任務」ではない…国防に支障をきたす可能性も

     地震、台風、土砂崩れ、河川決壊、噴火、急患輸送、鳥インフルエンザ、豚熱(CSF)、新型コロナウイルス……。東日本大震災からの10年で実施された自衛隊の災害派遣活動は合計4635件(注1)。サイバーや宇宙など国防任務の領域が広がる中、ほとんど変わらない人数で対応する自衛隊について、自身も予備自衛官であり、自衛隊に関する提言も多く持つ田上嘉一氏に話を聞いた。

    年間100万人近い自衛官が動員されている災害派遣

     いまや自衛隊が災害現場に派遣されるのは日常的な光景だ。その数は、首都圏を台風15、19号が直撃した2019年の場合、派遣総数は449件、従事した自衛隊員はのべ106万人に上った。災害派遣活動に参加した隊員が100万人を超えたのは、記録のある1977年以降では阪神大震災のあった95年、東日本大震災の2011年、西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的な大雨が続いた7月豪雨や北海道胆振東部地震のあった18年に続いて4回目。災害派遣の件数は平均すると1日1回以上になり、新型コロナウイルスがまん延した20年も大人数が動員された。

     自衛隊の災害派遣というと、冠水した住宅地を渡河ボートで避難誘導したり、地震や大雨で寸断された道路を補修したりする姿をニュースなどでよく見るが、実は最も多いのが離島などからの急患輸送で、19年度は365件と全体の8割以上を占めている。その次が火災の消火活動で46件。最近では鳥インフルエンザへの対応など、地道な活動が大半を占めている。

    自衛隊法上、災害派遣は「従たる任務」になっている

    「自衛隊の災害派遣といっても、都道府県知事の要請により出動する一般的な災害派遣のほか、総理大臣の要請による『地震防災派遣』、『原子力災害派遣』があり、特に緊急の場合は要請がなくても例外的に部隊が派遣できる『自主派遣』が定められています(自衛隊法第83条第2項但し書き)。

     しかし自衛隊の主任務は『外国からの侵略からの国土防衛(自衛隊法第3条第1項)』で、災害派遣は主任務に支障がない範囲で行われる『従たる任務』と定められているのです」

     予備自衛官としても活動している弁護士の田上嘉一氏は、自衛隊が災害派遣される法的根拠をこう述べる。

    「災害派遣は、公共の秩序を維持するために人命や財産を保護するという『公共性』、さらに人命に関わり一刻を争う『緊急性』、民間業者には難しい、自衛隊でなければ対処できないという『非代替性』。この3つの要件を満たしている必要があります」

    自衛隊に依存し過ぎている現状を改善する手はあるか

    画像: ハリケーンの被害状況を確認するFEMAの職員。災害に際し、連邦機関、州政府、地元機関などの業務調整も行い復旧を支援 写真:FEMA

    ハリケーンの被害状況を確認するFEMAの職員。災害に際し、連邦機関、州政府、地元機関などの業務調整も行い復旧を支援 写真:FEMA

     その上で田上氏は、この3要件の基準があいまいな案件もある点が問題だと指摘する。本当に緊急な事態なのか、また自衛隊でなければならないのか、考えさせられるケースがあるという。

    「東日本大震災以降、大規模災害時には自衛隊が派遣されて当然という状況になっています。もちろんそれだけ国民の自衛隊に対する期待と信頼があるということで、実際に災害派遣された自衛隊の活躍を見て自分も自衛官を志したという若者が多くいるのも事実です。

     その一方で、日本の安全保障を取り巻く環境も決して枕を高くしていられるような状況とはいえません。過剰なまでに生活支援に駆り出され、自衛官が疲弊したり民業圧迫のそしりを受けるようでは、本来の国防の任務に支障をきたすのではないでしょうか」

     全てを自衛隊に依存するのではなく、例えばアメリカの『FEMA(合衆国連邦緊急事態管理庁)』のような、大災害に対応する政府機関を設けることも検討すべきだと田上氏は考える。

    「FEMAは大統領直轄の組織で、大規模災害が発生した際、被災地の要請に基づいて州政府や民間団体などと連携して支援活動を統括します。近年は自助することも大切という考えのもと、アメリカ国民に防災対応力を身に付けさせるプログラムを考え、指導も行っています。私たちも災害派遣で自衛隊に恒常的に依存するのではなく、本当に自衛隊を必要とする状況は何なのか、もう一度考えてみる必要があるのではないでしょうか」

    田上嘉一氏(写真/本人提供)

    【田上嘉一(たがみよしかず)氏】
    弁護士。神奈川県生まれ。弁護士ドットコム株式会社取締役。陸上自衛隊3等陸佐(予備自衛官)として毎年の訓練に参加。防衛法学会、戦略法研究会にも所属している

    (MAMOR2021年5月号)

    <文/古里学 写真提供/防衛省>

    変化と進化を続ける自衛隊の災害派遣活動

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