•  2011年3月11日。東日本を襲った最大震度7、マグニチュード9.0という観測史上最大級となる東北地方太平洋沖地震は、最大遡上高40.1メートルの津波と、それによる原子力発電所事故を引き起こし、東日本大震災と命名された未曾有の大災害となった。そんななか、大規模な災害派遣を即座に実行し、献身的な活動で被災者をはじめ多くの国民の信頼を得た自衛隊。

     東日本大震災以降の10年で自衛隊の災害への取り組みも進化している。自衛隊の対処法の向上だけでなく、地域などとの連携を深め、より多くの命を助ける施策が講じられているのだ。

    災害に即時対応するファストフォース

    画像: 18年7月の広島県の豪雨で、災害現場へ派遣する車両の準備を行うファスト・フォース部隊。車両にはマークが張られている

    18年7月の広島県の豪雨で、災害現場へ派遣する車両の準備を行うファスト・フォース部隊。車両にはマークが張られている

     災害への対処として自衛隊では「最初に(First)」、「迅速に行動し(Action)」、「支援する(SupporT)」、「部隊(Force)」である「ファスト・フォース(FAST−Force)」を初動対処部隊として設けており、2013年よりこの名称になった。

     ファスト・フォースは震度5弱以上の地震が発生した場合に速やかに情報収集できるよう、陸自では隊員約3900人、車両約1100両、航空機約40機が待機。海自では地方総監部の所在地ごとに艦艇1隻、航空機は各基地で約20人の隊員が待機。また災害時の対領空侵犯措置や救難、輸送に備えて空自の航空機などが約10〜20機、24時間365日態勢で待機している。

    自衛隊経験のない即応予備自衛官が誕生

    画像: 東日本大震災で物資運搬の作業を行う予備自衛官。被災地で任務を行う隊員に代わり、駐屯地の警衛などにも従事した

    東日本大震災で物資運搬の作業を行う予備自衛官。被災地で任務を行う隊員に代わり、駐屯地の警衛などにも従事した

     普段は社会人や学生として生活しながら、有事の際には自衛官として任務に就く予備自衛官制度。東日本大震災では初めて被災地に第一線部隊の一員として任務に就く即応予備自衛官が派遣され、行方不明者の捜索や生活支援活動などに従事した。即応予備自衛官は第一線部隊と同じ現場に投入されるが、これまでは元自衛隊員のみで編成され、自衛隊勤務の経験がない一般公募の予備自衛官は救援物資の準備など後方任務に限られていた。

     しかし19年より制度が改正。一般公募予備自衛官も所定の訓練などを修了することで即応予備自衛官に採用される道が開かれた。より多くの隊員を必要とする災害派遣において、予備自衛官にかかる期待は大きい。

    災害対応をSNSで24時間発信

    防衛省災害対策のツイッターでは、被災者がすぐに役立つ情報を次々と発信している

     防衛省では19年10月より災害対策に関する情報を発信するツイッターアカウントを開設。同年、台風19号が上陸し東日本を中心に広範囲で停電や断水、道路の寸断などの被害が発生した際は、食事や給水、入浴支援を受けられる場所や時間、道路の補修、開通から災害廃棄物の処理の情報などを24時間態勢で発信した。現地に的確な情報を届けるため、今後もSNSの活用が期待されている。

    ホイストによる警備犬の投入が可能に

    迅速な救助のため、犬と動作指示を出す隊員はハーネスで結ばれた状態で地上約15メートルから降下する(撮影/荒井健)

     主に基地を守ることを任務としている自衛隊の警備犬の一部は特別な訓練を受け、災害派遣でも活躍。2020年からの新たな試みとして、陸路が閉ざされた被災地に空から入れるよう、ホバリング(空中停止)した輸送ヘリからホイスト(昇降機)を使い犬と隊員が降下する訓練も行われている。通行困難な被災地に少しでも早く到着し、人命救助活動ができるよう訓練を重ねている。

    新しい装備品が配備され災害対策も進化する

    画像: 19年10月に発生した台風15号の被害や倒木の状況などの確認のためドローンによる情報収集活動を行う空自隊員

    19年10月に発生した台風15号の被害や倒木の状況などの確認のためドローンによる情報収集活動を行う空自隊員

     東日本大震災の災害派遣活動で活躍した空自のC−1輸送機は、後継機であるC−2輸送機への移行が進んでいる。陸自ではティルト・ローター機V−22オスプレイの配備が20年に開始。

     ヘリコプターと飛行機の長所を併せ持つ同機は狭い場所での着陸も可能で、被災地での人員や物資運搬などの活動も期待される。海自では手術も可能な医療設備を備えた大型のヘリコプター搭載型護衛艦『いずも』『かが』『いせ』、『ひゅうが』の4隻が配備され、海上輸送力が向上。災害派遣での活躍も期待されている。また、道路の寸断などで地上からの接近が困難な地域の被害情報収集のため、災害用ドローンの運用も開始されている。

    アメリカ軍と防災面での連携が進化

    画像: アメリカ軍がトモダチ作戦の一環として「ソウルトレイン作戦」と命名し行ったJR仙石線のガレキ撤去作業

    アメリカ軍がトモダチ作戦の一環として「ソウルトレイン作戦」と命名し行ったJR仙石線のガレキ撤去作業

     東日本大震災では在日アメリカ軍が、人道支援・災害救援活動「トモダチ作戦」を展開。初となる日米共同の支援活動として話題に。その後13年より巨大地震発生時の自衛隊と在日アメリカ軍および関係省庁や地方公共団体、自治体との連携の強化、震災対処能力の維持・向上のため「日米共同統合防災訓練」が毎年行われ、連携などを確認している。

    隊員の子どもを預かる託児施設を開設

    画像: 自衛隊の特性にあった保育の場の確保のため、基地・駐屯地内に開設された託児施設

    自衛隊の特性にあった保育の場の確保のため、基地・駐屯地内に開設された託児施設

     自衛隊では全国8カ所の基地・駐屯地に託児施設を設け、全国150カ所の駐屯地、基地では災害への対処などの緊急登庁時に一時的に隊員の子どもを預かっている。また、基地・駐屯地が所在する地元自治体と自衛隊が、隊員の子どもの一時預かりや保育施設の提供、介護サービスなど、留守家族支援のための協定を結ぶ地域もある。

    防災組織との連携がさらに深まる

    画像: 緊急消防援助隊輸送訓練で、災害救助に必要な物資の搭載準備を行う空自隊員と消防隊員

    緊急消防援助隊輸送訓練で、災害救助に必要な物資の搭載準備を行う空自隊員と消防隊員

     災害対応をスムーズに行うためのカギとなるのが、消防、警察、海上保安庁、災害派遣医療チーム(DMAT)などの防災関係機関との連携だ。そのため、関係機関が一堂に集まる「緊急消防援助隊輸送訓練」などにも参加している。例えば14年の長野県・御嶽山火山噴火のときは自衛隊のヘリコプターが山頂付近まで警察・消防の救援隊も運んでいる。

    隊員へのメンタルケア方法も多方面に進化

    画像: 「東日本大震災以降、不調にさせないケア法が重視されています」と中谷3佐

    「東日本大震災以降、不調にさせないケア法が重視されています」と中谷3佐

     東日本大震災でメンタルケアを担当した中谷康史3等陸佐は「当時、悲惨な現場を見て心を病む隊員が多く現れました。その際に自分の思いを話しストレスを緩和させる『任務解除ミーティング』を行いました」と話す。この経験で隊員へのケア法が進化したそうだ。

    「健常者の予防に重きを置く。不調時はメンタルケアを万全にする。この2つの視点で任務達成をサポートする体制になっています」

    (MAMOR2021年5月号)

    <文/古里学 写真提供/防衛省>

    変化と進化を続ける自衛隊の災害派遣活動

    This article is a sponsored article by
    ''.