• あの企業アカウントの「中の人」に聞いてみた!

     世界的に人気があるSNSの1つ、ツイッターには「アカウント(注1)」というシステムがある。中でも企業が持つアカウントで展開するツイッターでは、企業のPRという枠を超えて、多数のフォロワー(注2)を魅了する人気アカウントが多数あるのだ。

     同じように、自衛隊地方協力本部(以下、地本)もアカウントを持ちツイッターを使って広報活動を行っているが、「自衛隊」という枠の中での活動だけに、さまざまな悩みを抱えている。そこで、有名企業アカウントの「中の人(注3)」に、自衛隊の“中の担当者”が、悩みをぶつけてみた!

    (注1)ユーザーがネットワークなどにログインするための権利のこと。例えば防衛省・自衛隊ならば「@ModJapan_jp」と、アカウントごとに@から始まる固有のIDが割り振られているので、IDを検索することで各アカウントのページを表示することができる

    (注2)ツイッターなどのソーシャルメディアにおいて、投稿内容を見られるように登録をした人

    (注3)特定の企業、組織などの関係者、裏方の人を指すインターネット上の俗語

    地本の悩みに応えてくれた企業アカウントたち

    キングジム@kingjim
    ラベルライター「テプラ」、デジタルメモ「ポメラ」などの商品を持つ文房具メーカー、キングジムの公式アカウント。幅広い年齢を対象にして、視覚的にも分かりやすい投稿を心掛けている。

    株式会社タニタ@TANITAofficial
    体組成計をはじめとする、健康計測機器の大手メーカー、タニタの公式アカウント。アカウント開設時から一貫して1人の担当者がツイート。内容の「ゆるさ」にも注目が集まる

    東急ハンズ@TokyuHands
    生活雑貨、コスメ、文具、キッチン用品など多彩な商品を扱う東急ハンズの公式アカウント。企業公式アカウントの草分け的存在。先輩「兄」、後輩「デシ」のキャラクターの掛け合いが人気

    愛媛地本の悩み:どうすればバズる(注4)?

    キングジム:バズりは、狙って起こせるものではないので難しいですよね(笑)。よく練ったものより、むしろ思いつきでツイートしたほうがバズることもありますし、ハッキリとした起こし方は分かりません。

     一般的なテクニックとしては、「タイムライン(注5)上の面積を大きく取る」ことでしょうか。たくさんのツイートが流れていくタイムラインのなかで、ユーザーの目に留まるための工夫です。画像や動画を使う、テキストの改行や絵文字、アスキーアート(注6)を上手に使うなど、いろいろな方法でツイート面積を増やしてみては。

     私も、バズりを狙いにいっては日々すべっています(笑)。すべり倒して、その中から「種」を拾うくらいの気持ちでいきましょう!

    東急ハンズ:もし法則があるなら私のほうが知りたいですね(笑)。気持ちでは常に「狙って」いますが、ほとんど当たったことはありません。

     ちなみに当社では、「タイムラインにアイコンが出れば、それだけでもフォロワーの目に留まるのでブランディングになる」という考えで、いいね+リツイートの数が概ね1000を超えたら、「バズった」もしくは「何かやらかした」と判断しています。バズるツイートに法則はないと思いますが、強いて言うなら「見た人が思わずツッコミたくなるようなツイート」が反響も大きいと感じています。

     あえて余白を残すようなものですね。ほかにも、担当者の生の感想が伝わってくるようなツイートもバズりやすいと感じます。

    タニタ:バズらせるのは、狙ってできることではありません。狙っても、ウケるかどうかは別の話。でも、ツイッターをやる以上は、バズるツイートを意識していくほうがいいでしょう。バズるためには、万人ウケすることが必要。自衛隊にも、きっとそういうネタはあるはずです。

     例えば、タニタは体重計を作っていますが、大半の人にとって体重計に乗るのは「怖い」もの。こうした、商品や職業の「本質」を言うことで、バズる道が見えてくるかもしれません。あとは「インパクトがあること」。特にイメージの逆をいくようなことはバズりの種です。「タニタ食堂なのにハイカロリー」とか言われると、どうですか?バズる気がしませんか?

    (注4)短期間に爆発的に話題が広がり、多くの人の注目を集めること

    (注5)SNSなどにおいて、自分や他人の投稿を時間順に表示したもの

    (注6)コンピュータ上の文字や記号を使って表現された絵のこと

    「敬礼の顔文字が間違っていた」訂正ツイートがまさかのバズり

     上記は大反響だった愛媛地本のツイート。「使用していた敬礼の顔文字が間違いだった」と右手による敬礼が正しいと解説したことで、驚きや励ましのコメントが多く寄せられた。

    【愛媛地本(@ehime_pco)】
    マスコットキャラクター「カワッチ」が部隊に行って隊員や装備品について取材する、ショートムービーが人気。写真を多めに採用したツイートで、分かりやすい投稿を心掛けている。SNSに関心がある隊員が担当。

    埼玉地本の悩み:ネタを探すのが大変

    タニタ:えっ!? ネタを探すのが大変ですか?私からみると、自衛隊のほうがネタの宝庫でうらやましいかぎりです。

     タニタは、基本的に「体重計のメーカー」。豊富にネタがあるかというと、そうでもないんです。どちらかというと、常にネタがない(笑)。ですから、日ごろからネットニュースやツイッター内で話題になっていることを、ジャンルを問わずアンテナを張って収集しています。その中で、タニタと関連性のありそうなことを探したり、考えたりしています。

     ツイートするときは、1パーセントでも「タニタらしさ」があればいいと思って発信しています。自衛隊の各アカウントを見ていても、たくさんコンテンツはあると感じました。まずは日々のアンテナを高く張ってネタを拾いながら、継続してツイートすることを重視してみてはどうでしょうか? アカウント発展のためには継続が一番大切です。

    東急ハンズ:ハンズの場合、ネタが切れることはないですね。弊社では「ヒントマガジン」という記事を各方面のスタッフが更新していますので、そこから拾うだけでもネタは豊富。さらには、キャンペーン情報や店頭商品などがあります。お客さまから使って良かったお勧め商品の情報なども上がってくるので、これらの中から「ツイッター映え」するものをチョイスしています。

     各種ニュースアプリやウェブ記事の更新情報からネタを集めるなど、自分なりのネタ収集パターンを見つけてみましょう。それでもネタがない場合には、エゴサーチ(注7)してみては。自衛隊についてツイートしている人の話を拾いましょう。

     ほかにも社内報に当たる、自衛隊内で流通しているニュースもいい素材でしょう。どうしてもネタがないときには、思い切ってフォロワーに「どんなことが聞きたい?」などと質問するのも手ですよ!

    (注7)通称「エゴサ」。SNS上などで「自分のこと」について検索すること

    ネタ集めは担当者の悩みの種。過去にはこんな投稿も

     埼玉地本から投稿された「動画のNG集」。定期的に配信する「埼玉地本ニュース」の裏側をネタにした動画だ。演者としては素人の自衛官、その素顔が分かり「ほっこりした」との声も。

    【埼玉地本(@saitamapco)】
    「自衛隊トリビア」、「自衛隊あるある」などのツイートが好評。世代を問わず笑える、ユーモアがある投稿を目指す。中の人が尊敬する自衛隊アカウントは「陸上自衛隊第19普通科連隊(@jgsdf_19ir_pr)」とのこと。

    鹿児島地本の悩み:会心の出来だと思ったのに、ウケなかったときへこむ

    タニタ:ウケなくても、へこむのはやめましょう(笑)。私は担当して10年ほどになりますが、バズるツイートと同じように、ウケるかウケないかも、事前にはあまり分からないものです。長年やっていると、「ウケるポイント」はなんとなく感覚的につかめてくる部分もありますが……。

     落ち込むくらいならむしろ開き直って、ウケなかったら、ウケなかったこと自体をネタにするほうが面白いのかもしれません。「狙ったオヤジギャグがウケない!」というお悩みも寄せられていますが、例えば「オヤジギャグ=おもしろくない」ということをあえて認めてしまい、「いいね(リツイート)してくれたオヤジの皆さん、ありがとうございます」というように、ネタに昇華させることもできるでしょう。

    東急ハンズ:ウケなかった!反応がなかった!それでへこむなら、まずは思う存分へこんでください(笑)。私も始めたころは、全く感覚がつかめず苦労しました。ただ、へこんでいるだけでは成長がありませんが、「じゃあ次はどうするか?」と考えるきっかけにはなります。なぜウケなかったのか。そのギャップを埋めていく作業が必要です。

     ただし、ウケた、ウケないということをテクニカルに分析するだけではダメです。ネタの良しあしに加え、ツイッターでは投稿するタイミングにも大きく左右されるので、過去にウケたからといっても、同じネタが次もウケるとは限らないのです。どちらかというと担当者の感覚が重要。結局は、数を打って身に付けるしかないと思います。

    【鹿児島地本(@kagoshima_pco)】
    「~でごわす」など、ほぼ全てのツイートを鹿児島弁で投稿している。鹿児島出身の隊員が鹿児島弁を監修しており、難解な言い回しには標準語訳が付くことも。「いいね」してくれるフォロワーのため、ギャグをつぶやく。

    大阪地本の悩み:フォロワー数を増やしたい

    東急ハンズ:「聞いて聞いて!」というアピールが前面に出すぎてしまうのは、フォロワー数増大には逆効果なことが多いようです。とはいえ、ある程度のフォロワー数を確保するのも重要です。

     まずは、「先輩アカウント」に絡んでみてはいかがでしょうか。タイムライン上には、いくつも「先輩」といえるようなアカウントがあると思います。自分たちよりもフォロワー数が多いとか、早くから始めているとか。そういうところと掛け合いをしながら、向こうのフォロワーに対して存在を認知してもらうのがいいかもしれませんね。もちろん弊社と絡むのも大歓迎ですよ。

    タニタ:フォロワーを増やすには、まずアカウントの方針として「誰がターゲットなのか」、「誰にフォローしてほしいのか」を考えなくてはいけません。

     タニタの場合、「将来体重計を買う、若い人たち」にアプローチすることが方針の1つです。その上で、どんな切り口のツイートを投稿するか考えましょう。見たところ、多くのアカウントでは、今はマニアや、コアな自衛隊ファン向けになっているのかなとも感じました。ターゲットにした方々にとって「フォローして何か得があるのか?」を考えていかないと、フォロワー数は増えていかないと思います。

    キングジム:新規フォロワー獲得には、とにかく「タイムラインに登場する」ことが大切です。ユーザーの目に届かないことには、フォロワーは増えません。

     また、トレンドやハッシュタグ(注8)、注目のツイートなど、ツイッターの仕組みを利用してみてはどうでしょうか。現在関心が高まっている話題が分かりますし、今後のヒントになるかもしれません。キングジムの投稿のコツは「朝イチ」、早い時間に投稿すること。競争率も低いですし、あらかじめツイートする時間を指定できる予約機能も便利なのでお勧めですよ。

    (注8)ツイッターなどのSNSで使われる「#(ハッシュマーク)」が付いたキーワードのこと

    【大阪地本(@osaka_pco)】
    大阪地本のマスコットキャラ「まもるくん」(妖精)による大阪弁のツイートが特徴。「まもるやで~」、「応援してや~」など、大阪らしさを出しながら、ゆるく情報を発信中。ツイッター担当者は3人で1日1ツイートが目標。

    富山地本の悩み:どこまでネタを作り込んでいいのか分からない

    キングジム:作り込んだネタがウケるとは限りません。時間をかけて作り込むより、タイムリーさを重視し「なま感」のあるツイートを即時発信するほうが人間味も出ていいと思います。ツイートに添付する画像や動画でも同じです。

     キングジムでは、新製品発表などは作り込んだ画像・動画を使いますが、普段の投稿では担当者がスマートフォンで撮った写真をほぼ無加工で出しています。作り込んだ投稿ばかりでは、フォロワーが敬遠してしまうこともあります。

    【富山地本(@toyama_pco)】
    イベントなどに足を運べない人のため、臨場感のある写真のツイートを多めに投稿している。ニュースだけでなく、ネットスラングや流行の言葉など関心の高そうな話題はチェックし、バズったツイートの分析も欠かさない。

    福岡地本の悩み:オリジナリティーのあるツイートをするのが大変

    東急ハンズ:確かに、似たようなアカウントが多数あるので、オリジナリティーを求めなくては、と思うことも分かります。でも、今これだけのアカウントがあふれているツイッターで、完全なオリジナリティーを発揮することはほぼ不可能でしょう。

     ネタかぶりを過剰に気にすることはありません。トレンドにうまく乗りつつ、テイストを少し変えるだけでOKです。ツイートの言葉選びやその人ならではの視点など、必ず投稿者の味はにじみ出ますから。

    【福岡地本(@fukuoka_PCO)】
    主に、ツイッターに慣れている隊員2人が担当している。マスコットの“宣伝部鳥”「ピコット」のかわいい写真が人気。動画撮影前には絵コンテを作成し、面白いツイートを目指す。高校生や大学生などを対象に投稿。

    滋賀地本の悩み:リプライ(注9)にはどう対応すればいい?

    東急ハンズ:まずはアカウントの方針を決めたほうがいいですね。ハンズでは、ツイッターをコミュニケーションツールの一種と考えています。そのため、ついたリプライには、可能な限り全てお返しするようにしています。

     とはいえ、24時間やるわけにもいきません。投稿した後、だいたい2~3時間までのリプライにはできるだけ返事をつける、と決めています。また、商品などに関する問い合わせ以外、同じユーザーさんと何度もやりとりはしません。

    【滋賀地本(@shigapco)】
    自衛隊に寄せられた心温まるファンレターを紹介するなど、ほかの地本との差別化を意識してツイートをしている。幅広い年齢にアプローチできるよう、平易で分かりやすい、短い言葉で伝わるツイートを心掛けている。

    (注9)主に自分宛てのメッセージに対して返信すること

    和歌山地本の悩み:皆さんのツイートをアレンジして使ってもいい?

    キングジム:アレンジ大歓迎です! ツイッターは、ほかのアカウントが投稿したネタと同じことをしたり、発展させたりと、どんどん乗っていけるところも面白い点です。思い付いたことがあれば、ぜひ使ってみてください。

     その際には、元ネタのアカウント(キングジムなら@kingjim)を付けていただけると、こちらからも見つけやすくなりますので、より効果的だと思います。逆に、こちらからも、皆さんのツイートを参考にさせてもらうかもしれません。

    【和歌山地本(@wakayama_pco)】
    フォロワーを飽きさせないように、自衛隊と関係ない風景写真を投稿するなど工夫を凝らすほか、若い世代のトレンドもチェックしている。広報担当者と募集担当者の2人が、和歌山の方言でツイートを行う。

    岡山地本の悩み:言葉選びが難しい

    東急ハンズ:ハンズでは、お客さまに対応する言葉遣いに基準があるので、ツイッター上でも同様に「店頭に来ているお客さま」に対する言葉遣いを心掛けています。Eメールを送る際の言葉遣いだと、ちょっと硬すぎますね。

     自衛隊のアカウントをみていると、多くの場合は「もう少しフランクでもいいのでは?」と感じました。情報を出す場合は硬い言葉でも問題はないかもしれませんが、コミュニケーションの際は軟らかめのほうが受け入れられやすいと思います。

    【岡山地本(@okayamaPCO)】
    企画室の「ラーメン室長」など、ツイートに登場する関係者に親しみやすいあだ名をつけている。流行を追えるように、プライベートでもツイッターを利用。親世代も共感できるよう「近所のおばちゃん」のような存在を目指す。

    山形地本の悩み:任務の詳細など、ツイートできないことがある

    タニタ:自衛隊らしいお悩みですね。企業アカウントでも「いいツイッターのネタがあった!」と思っても、公開できない新製品の情報だったり、個人情報が含まれていて使えない、なんてことはよくあります。

     1つの方法として「話せないこと」自体をネタにする方法もあります。「これをお見せしたいのですが、どうしても見せられないんです! 見たい方はぜひ隊員になってください(笑)」とか、いかがでしょう?

    【山形地本(@yamagata_pco)】
    当日の隊員食堂のメニューを紹介する「神町駐屯地めし」ツイートが人気。5人ほどでSNSチームを結成し日々議論を重ねている。自衛隊に親しみを持ってもらえるよう、ありのままを伝えるよう心掛けているのだとか。

    宮城地本の悩み:写真付きではなく、文字だけのツイートでも大丈夫?

    キングジム:写真や動画のついたツイートは目に付きやすいですが、文字だけのツイートでもバズっているものもたくさんありますし、全然アリです!

     企業アカウントの中には、むしろ文字中心のツイートで展開しているところもありますし、「画像や動画がないからツイートできない……」と考えるよりは、文字だけでもどんどんツイートしていくことが大切です。何気ない一言でも、中の人のことをがうかがい知れるので、フォロワーも楽しめると思います。

    【宮城地本(@miyagipco)】
    イベント情報や募集案内、宮城県内にある部隊紹介を中心にツイート。取材チームと編集・投稿チームに分かれ、40代の隊員らが中心に情報を発信している。自衛隊独自の言い回しを避け、なるべく分かりやすい投稿を心掛ける。

    青森地本の悩み:フォロワーに刺さる話題が分からない

    キングジム:フォロワーにどんな人が多いのかを分析すれば、ある程度は見えてくるかもしれませんが、事前にフォロワーの皆さんが興味あることを知るのはかなり難しいです。

     刺さるかどうかは、ツイートしてから分かることがほとんどです。ツイートした後、なぜ伸びた(伸びなかった)のか考えて次に生かしましょう。「まずは別々のネタを2つ投稿して、反応が良かったほうのネタを広げていく」というようなやり方もお勧めですね。

    【青森地本(@aomori_PCO)】
    自衛隊関連のSNSや雑誌などでホットな話題をチェックし、フォロワーの目に留まりやすい昼や夕方に投稿している。主に、ネタ集め担当と投稿担当の2人体制で運用しているが、今後は増員を予定している。

    (MAMOR2021年5月号)

    <文/臼井総理>

    #自衛隊を広報したい!

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