•  自衛隊には、実はたくさんの広報担当者が配置されている。防衛省本省をはじめ、陸・海・空各自衛隊のあちこちにいる広報担当たちが、自衛隊の活動を知ってもらうためにどんな仕事をしているのか、詳しく紹介しよう。

    自主的活動と協力的活動。広報には2つのルートがある

     自衛隊の広報担当官がどのような仕事をしているのか具体的に説明しよう。

     防衛省の広報担当者によれば、自衛隊の広報は、活動の方向性も大きく2つに分かれているという。それぞれ「自主的広報活動」と「協力的広報活動」だ。

    防衛省・自衛隊の活動などを分かりやすく紹介している『防衛白書』は、国民の理解を得ることを目的に年に1回刊行。一部書店やネットで販売されているほか(定価1397円)、防衛省のホームページからもPDF版などを無料で読むことができる。右の令和2年版で刊行50周年を迎えた

     自主的広報活動とは、その名のとおり、自衛隊自らが発信する形の広報活動のこと。パンフレットをはじめとする広報資料や、『防衛白書』をはじめとする各種刊行物の制作、配布のほか、ホームページやSNSなどによる情報発信、さらには報道などを通じて、自衛隊の活動内容を正確に伝えることが中心となる。

     また、部隊見学や音楽隊による演奏会など、自衛隊の持つリソースも活用して自主的広報活動を行う。部隊見学は、主に募集対象者や、自衛隊を退職した隊員の就職援護などのサポートにあたってくれる外部の援護関係者、そのほか各種自衛隊協力団体、そして報道機関などに対して実施する。

     音楽隊による演奏会は、募集対象者のほか、広く一般に向けても開催され、人気を博している。海自を例にとると、東京音楽隊のコンサート(注)は特に人気で、一般向けチケットはなかなか入手できないほどの応募倍率になっているともいわれている。

    (注)コンサート情報は「海上自衛隊東京音楽隊」で検索し、ホームページより確認できる

    広報活動として史料館も運営

    画像: 「りっくんランド」

    「りっくんランド」

     史料館・広報館の運営も自主的広報活動の一部だ。陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」(東京都練馬区)、海上自衛隊呉史料館「てつのくじら館」(広島県呉市)、航空自衛隊浜松広報館「エアーパーク」(静岡県浜松市)などがあり、歴史的史料の展示だけではなく、家族で楽しめるテーマパークのような展示で人気を集めるところも増えた。

    ●りっくんランド
    射撃シミュレータや戦闘服の試着など体験型の展示が満載の「りっくんランド」

    住所:練馬区大泉学園町/開館時間:10:00~11:30、14:00〜15:30/休館日:臨時休館もあるため要確認/入館料:無料/問い合わせ:03-3924-4176

    ●てつのくじら館
    日本で唯一、本物の潜水艦に入れる「てつのくじら館」

    住所:呉市宝町5-32/開館時間:9:00~17:00/休館日:火曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始/入館料:無料/問い合わせ:0823-21-6111

    ●エアーパーク
    2021年3月にリニューアルした「エアーパーク」は、展示機にF-4EJ改「ファントムⅡ」戦闘機が加わることも話題に

    住所:浜松市西区西山町無番地/開館時間:9:00~16:00/休館日:臨時休館もあるため要確認/入館料:無料/問い合わせ:053-472-1121

    ※史料館、広報館は新型コロナウイルス感染状況により休館となる場合があるため、事前にお問い合わせください

    SNSの広報活動も強化

     ホームページやSNS、動画投稿サイトなどで行うインターネット経由の広報は、自衛隊として大きく力を入れている部門だ。その歴史は意外と古く、1996年に旧防衛庁が公式ホームページを開設したのが始まり。その後も2008年に、防衛省がYou Tubeにチャンネルを開設するなど、新たな広報手段としてネット活用を進めた。

     SNSに関しては、11年には防衛省が公式ツイッターアカウントを、17年には、陸自と海自がインスタグラム(より写真・動画投稿に特化したSNS)アカウントを開設。この年は、YouTubeで『自衛隊LIFEHACK』を配信し、瞬く間に人気コンテンツとなったことも記憶に新しい。残念ながら現在は、部隊見学や演奏会は、新型コロナウイルスによる影響もあり、実施されていないか、小規模でしか行われていないため、インターネットを利用した広報活動により力を入れているという。

    「昨今のコロナ禍による影響もありますが、情報化社会が大きく発展したこと、若年層を中心としたネット媒体の普及などもあり、近年は効果的な広報としてホームページやSNSによる情報発信に力を入れています」と担当者。

     今までは外部に向けて積極的な情報発信をしてこなかった部署、部隊などでもSNSを使った広報を行うようになってきているとのこと。せっかくなので、最近運用を始めた、海自の主要部隊のお勧めコンテンツを左に紹介してもらった。

    海自のお勧めコンテンツ

    教育航空集団のツイッター(@jmsdf_atrc
    ここにしかない、珍しい航空機による訓練風景が見られる。マニアはもちろん、詳しくない人も楽しめる。

    掃海隊群司令部のツイッター(@JMSDF_A_MF_HQ
    2020年9月にスタート。機雷掃海訓練の様子や、一般には分かりにくい掃海方法の紹介など、レアな情報が満載。

    ●潜水艦隊司令部のホームページ(https://www.mod.go.jp/msdf/sf/unit/W007H0000003.html
    ベールに包まれた部隊が今年2月に新たに作ったホームページ。今後、部隊紹介や訓練の模様などのコンテンツを充実させていく。

    テレビに映画、アニメ。イベントへの協力も活動のうち

     もう1つの大きな柱である「協力的広報活動」は、マスコミ・メディアや地域の民間団体、他の官公庁など、外部からの働きかけに協力する形で行う自衛隊の広報活動だ。

     映画やテレビのドラマ、バラエティー番組などに対する制作協力、取材対応、各種イベントへの協力などがこれに含まれる。比較的最近の、自衛隊協力作品、番組、イベント例をまとめてみた。

    近年の自衛隊の協力的広報活動の例

    画像: 『空飛ぶ広報室』公式HPより

    『空飛ぶ広報室』公式HPより

    ●ドラマ『空飛ぶ広報室』(2013年・TBSテレビ系列)
    発売元:TBS 販売元:TCエンタテインメント 価格:3万1680円(Blu-ray)、2万5080円(DVD)ⓒTBS

     有川ひろ氏原作の同名小説をもとに作られた日曜劇場ドラマで、主演の新垣結衣ほか人気俳優が多く出演し、最終回の視聴率は15.3%と大好評を博した作品。航空幕僚監部広報室などが中心となり協力。自衛隊の広報という取り組みが注目されるきっかけとなった。

     登場人物の鷺坂広報室長やベテラン広報官の比嘉1曹は、当時、空幕広報室にいた自衛官をモデルに描かれている。

    画像: 『シン・ゴジラ』公式HPより

    『シン・ゴジラ』公式HPより

    ●映画『シン・ゴジラ』(2016年・東宝)
    発売・販売元:東宝 価格:5280円(Blu-ray)、4180円(DVD)ⓒ2016 TOHO CO.,LTD. 

     映画に登場する装備なども含め、自衛隊全面協力で臨み、当時まだ配備されていなかった最新鋭の、陸上自衛隊16式機動戦闘車などがスクリーンに登場した。公開から111日間で観客動員数550万人超え、興行収入80億円超え、さらにはその年の流行語大賞にノミネートされるなど、一世を風靡した作品。

     16式機動戦闘車のほかにも、陸自のヘリコプター、海自の護衛艦、空自の戦闘機など、陸・海・空の現役装備品が数々登場し、リアリティーがあると話題に。

    画像: 『沸騰ワード10』公式HPより

    『沸騰ワード10』公式HPより

    ●バラエティー番組『沸騰ワード10』
    (日本テレビ 毎週金曜日19時56分〜20時54分放送)

     自衛隊に詳しすぎるお笑い芸人のカズレーザー(メイプル超合金)が、自衛隊のさまざまな部隊に潜入し、装備品を紹介したり、訓練などを体験する。「自衛隊に取り憑かれたカズレーザー」という不定期シリーズ企画。

    ●『超スゴ! 自衛隊の裏側ぜ〜んぶ見せちゃいます!』
    (テレビ東京 2021年1月3日放送)

     テレビ初公開の映像も含め、自衛隊の装備品や訓練のすごさが伝わる内容。俳優が戦闘機パイロットの養成部隊に潜入して飛行訓練に同乗し、体を張ったリアルなリポートを繰り広げる企画も。

    ●イベント『ニコニコ超会議』

     若者を中心に絶大な人気を誇る動画投稿サイト「ニコニコ動画」のリアル・イベント。自衛隊は2012年から連続して出展しており、10式戦車や16式機動戦闘車を会場となった幕張メッセに持ち込んで展示したり、VR(バーチャルリアリティー)を生かした「護衛艦乗艦体験ツアー」を実施したりして、話題となった。

     幕張メッセには、展示ブースのほかステージが設けられ、各種イベントが催される。2020年は新型コロナウイルス感染拡大のため、中止となった。

    広報は自衛隊の未来を支える

     これらは誰もが知っているような割合派手な、目立つ広報活動だが、もちろんそれだけではない。地域の祭りへの参加や、学校などでのイベント、場所によっては駐屯地・基地のグラウンドを開放してスポーツ大会を実施するなど、地域に密着した地道な広報活動も、各都道府県の地方協力本部や各駐屯地・基地・部隊の広報担当者によって行われている。

     ここまで紹介してきたように、大小さまざまな仕事を担当する広報部門。自衛隊外とのやりとりも多く、日ごろから気を使う部分も多そうだが、彼らのやりがいはどこにあるのだろうか。

    「自衛隊の広報には、自衛官募集や、隊員の退職後を見据えたサポートを行う援護活動、あるいは隊員が働きやすい環境の醸成など、さまざまな目的があって、とてもやりがいがあります」と広報担当者は語る。

     広報活動の結果、若い隊員が入隊してくれることはもちろん、国民に広く自衛隊の活動を理解し、協力してもらうようにすることで、より隊員は働きやすく、また自衛隊自体がさらに国民のために活動しやすくなる。広報担当者の仕事は大きく自衛隊の「力」になっているのだ。

    「私は『広報は未来の部隊運用』であることを肝に銘じて、仕事に取り組んでいます。私たちの仕事ぶりが、明日以降の自衛隊の活動に大きく影響するのだという気概をもって、これからも任務にまい進したいと考えています」

    (MAMOR2021年5月号)

    <文/臼井総理>

    #自衛隊を広報したい!

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