陸上自衛隊には、オートバイを自由自在に操り山河を駆け巡って情報を集める部隊があります。通称「偵察オート」と呼ばれ、所属する隊員ライダーたちの技量はかなりのハイレベルとのこと。
そこで、モトクロス界の女王、2020年レディースクラス年間チャンピオン・川井麻央選手が相馬原駐屯地第12偵察隊に潜入し、偵察オート隊員の技にチャレンジ！さまざまな技やアクションに挑戦した前回に続き、今回は川井選手と隊員たちにお互いのライディングについて語り合ってもらった。果たして、どんな話が飛び出すのか。
偵察隊の皆さんは、細かいテクニックをたくさん持っていてすごい
川井麻央選手
川井麻央（プロモトクロスレーサー）：隊員の方のバイクは、たくさん装備が付いていてかなり重いはずなのに、林道コースで一緒に走ったとき飯沼さんがメッチャ速くてびっくりしました。
飯沼裕慧（第12偵察隊・陸曹長）：私は負けん気が強いほうですが、川井選手もかなりのものですね。林道で引き離してやるぞ、と思ったんですがさすがに速くて無理でした。半年ぐらい一緒に練習すれば勝てるかもしれません（笑）。でも悪路での走行技術はとても勉強になりましたね。
川井：私は普段、スピードを競うだけですが、偵察隊の皆さんは、トライアル競技的なバイクの扱い方など、細かいテクニックをたくさん持っているのがすごいな、と思いました。でも練習すれば半年もかからずマスターできるかも（笑）。
第12偵察隊 中里成昭 2等陸曹
中里成昭（第12偵察隊・2等陸曹）：川井選手のマシンはレース用なので、エンジン音を聞いただけでその迫力に圧倒されました。パワフルなマシンを自在に操る川井選手ってすごいな、と思いましたね。
萩原太郎（第12偵察隊・2等陸曹）：隙あらば川井選手の技術を盗んでやろう、と意気込んでいたんですが、そんな余裕もなくチャレンジが終わってしまいました。もっと精進します。
川井選手の技術と度胸に驚く隊員たち
後輪を持ち上げて静止する「ジャックナイフ」
編集部：どんなシーンが印象的でしたか？
飯沼：林道のコーナーで豪快に車体を傾け、リアタイヤで土を飛ばしながらハイスピードで曲がっていく姿はすごかったです。われわれのバイクだと重すぎて厳しいですね。ジャックナイフをすぐに決めたのもさすがです。
川井：ガード類がたくさん付いたこの重いバイクでよくいろいろな動きができるな、と驚きました。あと、モトクロスコースは基本的に地面が土なんです。隊員さんは石がゴロゴロした場所にも平気で突っ込んでいくのがすごいな、と思いました。
第12偵察隊 萩原太郎 2等陸曹
萩原：レースの世界でチャンピオンを取るだけあって、負けん気と強い闘志が走りにあふれていましたね。急坂上りを怖がらず、下見もしないで一発で決めたのはさすがです。バイクを操るテクニックもすごいですが、走行ラインの見極めも的確だし、度胸がありますね。
川井：自衛隊の方に“大して乗れないやつが来たな”って思われたらどうしよう、って思っていたんです。実際トライしたら意外とできたのでホッとしました。アクセルターンを初めてやったんですが、ちょっと勢いが足りずうまく回れなくて悔しかった……帰って練習します。
偵察隊に入りませんか？
第12偵察隊 飯沼裕慧 陸曹長
編集部：お互い、今後の訓練やレースに生かせそうですか？
飯沼：自分たちは隠密行動が基本なので、普段はアクセル全開で走ることはありません。ただ、敵地から離脱する際などは全力で走ることもあり得るので、今後はそういう訓練も行いたいと思います。
萩原：林道のコーナーで川井選手と一緒に走ったんですが、今まで経験したことがないスピードでした。とても怖かったですが、いい刺激になりましたし、貴重な経験でした。
川井：バイクを扱う細かいテクニックを習得すれば、レース本番でも生かせるシーンがあると思いますので、今日やったことを思い出して練習に取り入れようと思います。
中里：これで川井選手が自衛隊の細かいテクニックを習得したらもう無敵ですよ。初めて行う走りへの適応能力も高いし、即戦力として偵察隊でぜひ採用したいです。
川井：規律の厳しい生活は苦手なのでちょっと無理かも……（笑）。でも、楽しかったです！ありがとうございました！
（MAMOR2021年8月号）
＜文／野岸泰之 撮影／楠堂亜希＞
