• 日本では、10~14歳の子どもの溺死および溺水による死亡は、不慮の事故の死因1位だ(こども家庭庁)。マモルは7月25日の「世界溺水防止デー」をきっかけに、1人でも多くの溺死者をなくしたいと考え、水に落ちたときの命の守り方を教えているスイミング・クラブに、いざというときの命の守り方を教えていただいた。

    愛知県岡崎市で30年以上続く子どもの命を守るレッスン

    画像: 岡崎竜城スイミングクラブの「着衣泳」レッスンの1コマ。レッスン生の子どもが、服を着たままプールに入り、指導員に支えられながら浮く練習をしている

    岡崎竜城スイミングクラブの「着衣泳」レッスンの1コマ。レッスン生の子どもが、服を着たままプールに入り、指導員に支えられながら浮く練習をしている

    溺死は、交通事故、転倒・転落とともに、世界三大事故死要因の1つに挙げられ、日本WHO(世界保健機関)協会の発表によると、世界では年間で約30万人の溺死者が出ているという。

    水難事故は、川辺で遊んでいて急な増水に巻き込まれたり、浅瀬で遊んでいたつもりが川底が急に深くなっている場所にはまって溺れるなど、服を着た状態で起きることも多い。

    服を着たまま水中に入ると、ぬれた衣服や靴が重くて体にまとわりつき、思い通りに手足を動かすことができず、特に子どもはパニックになって命を落としてしまうという。

    こうした現状がある中、愛知県岡崎市にある「岡崎竜城スイミングクラブ」では、30年以上も前から、子どもたちに服を着たままプールに入る「着衣泳」のレッスンを行っている。現社長の大森久美さんによると、着衣泳を始めたのは先代の父だったそうだ。

    自身も子どものころに、父の指導のもと「着衣泳」を行っていたという大森久美さん

    「父はオリンピック代表候補にもなった競泳選手だったのですが、なぜ泳げる人が大勢いるのに、こんなに溺れる人がいるのだろうと疑問に思うとともに、水泳を教えている人間として水難事故で死者が出ることが悔しかったのだと思います。学校では災害時の避難訓練はするのに、島国にもかかわらず水難訓練をしない現状を見て、少しでも水難事故を減らせればと考えたのでしょう」

    着衣泳を訓練して子どもを水難事故から守れ!

    岡崎竜城スイミングクラブでは、まだ泳げない6カ月の子どもから大人まで、選手育成、リハビリ、ダイエットなど、泳力や目的に合わせてさまざまなレッスンコースを設けている。

    そこに通っている3歳以上の約2500人の子どものレッスン生は、2カ月に1度、必ず着衣泳のレッスンを受けなければならない。

    そのレッスンは、まだ泳ぐことのできない子どもでも行われる。水に慣れてくると、水中でジャンプをする「ボビング」や、服を着たままあおむけに浮かぶ「背浮き」、ズボンをはいたままでのバタ足、水上のビート板のつかまえ方や水中からプール用の浮き島(大型ビート板)へのよじ登り方など、楽しみながら水中でいろんな動きをやってみて、実際に水に落ちたときの命の守り方を学んでいく。

    水を侮ってはいけないが、生徒たちが水を怖がらないようにするのが着衣泳の最初の目的だと、大森さんは言う。

    「流れのある川と波のある海、また、遊んでいて用水路に落ちたり、大雨で出水して流されるなど、水難事故にはさまざまな状況があって、それぞれ対処の仕方が違ってきます。でも、あらかじめ着衣泳を経験していれば、突然の出来事にも対応する余裕が生まれますし、何をするのが一番良いのかと自分で考えることもできます」

     着衣泳を始めたころは、とりあえず浮くことを教えていたそうだが、実際に事故が起きた場合、通報をしてから現場に救助の警察や消防が到着するまでに(岡崎市では)10分かかることが分かると、「10分間浮いていられること、つまり10分間を生き抜けるように教えることを、新しい目標にしています」と大森さん。

    最後に、水難に遭ったときにやるべきことを聞いた。

    「まずはパニックにならずに、心を落ち着けること。そして、慌てないで“浮いて待て”です」

    こうした技術を身に付けることが、何より子どもの命、自分の命を守ることにつながるのだ。

    インドの女子大生にも陸上で着衣泳の講義

    画像: サリーを着たまま水難に見舞われたら、どうすべきかを講義。熱心に耳を傾けるインドの女子大生

    サリーを着たまま水難に見舞われたら、どうすべきかを講義。熱心に耳を傾けるインドの女子大生

    2023年10月に、大森さんは南インドの女子大学で、学生たちを対象に水難訓練を行う機会に恵まれた。しかし女性が人前で肌を見せることがタブーのインドでは、普段日本人に対して行っているように、生徒が実際にプールに入って訓練することができない。

    そこで大森さんの娘の玲弥さんが、インドの民族衣装であるサリーを身にまとったままプールに落ちる動画を撮影し、その映像をもとに講義を行ったという。

    「1枚の布を体に巻き付けるサリーは、水に入ると胸から下は固定され、足を前後左右に動かすことができない上に、水を吸って非常に重たくなり、浮くのがやっとなことが分かりました」と、実験台になった玲弥さんは、そのときの苦労を振り返る。

    大森さんは、「本当ならば水に落ちたらサリーを脱いだほうがよいのでしょうが、現地の女性はサリーを脱ぐくらいだったら溺死するほうを選ぶというくらい、私たちと考え方や価値観が違っています。ただ、水難事故の危険性を理解してもらっただけでも大きな収穫だったと思っています」と語る。

    (MAMOR2026年7月号)

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    <文/古里学 写真(大森さん)/村上淳 写真提供/岡崎竜城スイミングクラブ>

    子どもを水難事故から守れ!

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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