自衛隊の航空機が事故を起こしたときなど、素早く事故現場に駆け付けて搭乗員を救い出す任務を負っている航空自衛隊航空救難団。そこで働く救難員たちを育成する役目を担っているのが、救難教育隊だ。
救難教育隊には、操縦士と機上整備員の課程もある。これらの課程に臨む学生と教官に話を聞いた。
また各課程の教官・学生の教育を支え、人を救う人材育成の思いを共有する整備小隊の活動も紹介しよう。
初めてのヘリ操縦への慣れとコミュニケーション力を養う

基本が大切と話す教育班長の渡邉3佐。「現場部隊に行くと基礎を学ぶ時間はほとんどありません。教育隊で正しい知識と安全を確保する技術をしっかり教えます」
ヘリコプターUH-60Jの操縦士教育課程は約6カ月。学生は既にパイロット資格を得ているが、それまで操縦していたのはジェット機の練習機T-4だ。
教育班長の渡邉3等空佐は「T-4は高高度を飛びますが、ヘリは低高度を飛びホバリング(空中停止)もします。そのため学生は挙動の違いに恐怖感を抱きます」と話す。

飛行訓練のため離陸するUH-60J。離着陸などの基本技術にプラスし、実際の救難任務で求められる繊細な機体の操縦法などを学んでいく
飛行訓練では離着陸操作、計器飛行(注)などの基本課目と、救難の現場を想定した山間の狭い場所や、洋上などでどう機体をコントロールするかを学ぶ。
「機長はさまざまな状況で判断を求められます。クルーの助言も聞き、判断できる操縦士を目指します」と金山曹長
またワンチームで行動する救難隊はクルーの連携が重要で、機長を務める操縦士は常にクルーとコミュニケーションをとらなければならない。
「訓練中、操縦しながらクルーと何を話せばよいか分からず、悩みました」と学生の金山空曹長も難しさを語る。
渡邉3佐によると、「天気のことでも任務のことでも何でも雑談でいい」そうだ。
「実際の現場で意思疎通できなければ任務も達成できません。日ごろからの連携が現場で大きな力になるのです」
(注)航空機の高度、位置、針路などを航空計器のみを頼りに視界を遮られた状態で飛行すること
クルー同士をつなぎ連携する機上整備員を育てる教育

機上整備員主任教官の三箇1曹(左)と学生の栗燒3曹。機体の全てを知り尽くす機上整備員を目指す
機上整備員(FE)はUH-60Jに乗り、必要な各種性能データ算出や計器類の監視などを担う。
また救難捜索の現場では、救出のためのホイスト(要救助者をつり上げ/下げする装置)の操作、救出後の負傷者の応急手当の補佐なども行う。
入校資格は1年以上のヘリの整備経験者で年齢制限はない。

機上整備員課程のホイスト訓練は最初は地上で実機を使って行う。エンジン音で会話はできないため、身振りで指示を出す
教育課程は約16週で、前半は飛行運用に必要な座学中心、後半は飛行訓練を行う。
地上・洋上捜索訓練やホイストを使った飛行訓練は、最初はタイヤ、次にダミー人形、そして実際に人を使った訓練と内容が高度になっていく。
主任教官の三箇1等空曹は、「FEはパイロットに機体の位置を細かく指示し、救難員が救助しやすい環境を作る“つなぎ役”です。学生が適切な判断ができるよう導きます」と話す。
学生の栗燒3等空曹も「要救助者を機内に引き込むため、FEも体力が必要です。救難員学生と同様に間稽古をし体力も付けています」と、教育で心身共に鍛えていると話してくれた。
安全・安心だけでなく効率も考え教育を支える整備小隊

整備幹部の石田2尉(左)と整備員の原2曹。学生が無事に課程を修了し各部隊で活躍することを願い、整備作業に取り組んでいる
救難教育隊では、各課程の学生のフライト教育でヘリの実機を使用する。
「常に安全な機体を提供すること、不具合が生じた場合は早期に復旧させ、教育がスムーズに進むよう整備作業に気を配ります」と整備員の原2等空曹は強調し、整備幹部の石田2等空尉も「飛行運用者の要求に応じられるよう現場と調整し、学生教育が円滑に進むように気を配ります」と話す。
とはいえ学生ファーストでも整備作業を優先する必要があれば、調整するのも整備幹部の任務だと語る。

教育終了後、整備員は即座に機体に集まり点検作業を開始。安全確実にスピードも考慮し、作業する
そうして整備したヘリを四苦八苦しながら運用する学生たちを常に見ているので、原2曹は「課程を修了して小牧から旅立った学生が、第一線で活躍する姿を見るとうれしい」と、教育隊の整備員ならではの喜びを教えてくれた。
(MAMOR2025年9月号)
<文/古里学 写真/村上淳>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです


