自衛隊の航空機が事故を起こしたときなど、素早く事故現場に駆け付けて搭乗員を救い出す任務を負っている航空自衛隊航空救難団。
2025年5月、マモルは救難員を目指す学生要員の訓練に密着する機会を得た。己の限界に挑みそれを越えるため、全ての人を“救う”ため、心身を極限まで鍛える救難員教育の一部をお届けする。
夜明け前に自主トレ開始。早朝から体力の向上に励む

学生要員の移動は掛け声をかけながら走る。基地内に学生たちの力強い声が響き渡る
学生要員の朝は早い。まだほかの隊員が眠っている5時には起床し、身支度をして運動場でストレッチや筋トレなどの「間稽古」(注)を行う。
基地内では常に隊列を組み、救難員課程の旗を持って走って移動する。

体力向上運動中は精神修養のため上半身裸。真冬でも体から湯気が出るほどの激しさだ。学生要員たちは識別のため胸と背中に名前を書いている
朝食後の9時からは、体力錬成が始まる。

救難現場が大雨であるという想定で教官が水をかける。学生要員は要救助者を見失わないよう、目をつぶらずにがまんする
内容は日替わりだが、この日は「体力向上運動」だ。腕立て伏せや跳躍など12種目ある。地味だがきつい体操に苦しい顔をする学生要員に教官から大声で叱咤激励が飛ぶ。
学生要員の松藤士長。「泳ぎは得意ですが走るのが苦手です。同期と支え合って訓練を乗り越えています」
学生要員の松藤空士長は、「想像よりはるかにきつく、時には泣いてしまうこともあります。しかし『要救助者は何倍もきついぞ』と教官に叱咤されると、自分はまだやれると前向きな気持ちになります」と話す。
(注)主に課業開始前の時間を活用して行う自主トレーニングのこと
全ては要救助者のために。限界を越えるプール訓練

水中から地上へ要救助者を担ぎ上げる。要救助者の全体重が体にかかり、かなりの体力を消耗する
午後からは海上行動訓練がプールで行われた。クロール1000メートルに始まり、横潜水、水中で30秒と90秒の呼吸停止訓練。

「大丈夫です、安心してください」。要救助者を落ち着かせるため、学生要員は声を掛け続け搬送する
その後、フィンを付けての1000メートル泳を経て水上安全法に移る。これは溺れた要救助者を発見し水中から陸上に引き上げる訓練だ。
要救助者役の教官は助けに来た学生要員にしがみつき抵抗する。うまく誘導できず、教官からの指導が入る。

立ち泳ぎ中、教官がホースで水を掛ける。救難員の活動現場は悪天候であることを想定した訓練
そしてラストは20分間の立ち泳ぎ。救助活動で両手が自由に使えるよう手を水上にあげた状態で、立ち泳ぎ中はずっと掛け声を発する。教官は水を掛けるなど荒れた海面を再現し負荷をかける。
残り5分になると2キログラムの重りを持ってこれを行う。学生要員たちは沈みそうになりながらも、全身全霊をかけて泳ぎ続けた。
(MAMOR2025年9月号)
<文/古里学 写真/村上淳>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

