•  自衛隊の航空機が事故を起こしたときなど、素早く事故現場に駆け付けて搭乗員を救い出す任務を負っている航空自衛隊航空救難団。

     過酷な現場に向かう勇気と強さを兼ね備えた隊員はどんな教育を受け育成されるのか。自衛隊で最も厳しいといわれる教育課程とカリキュラムを紹介しよう。

    心身を極限まで鍛え上げ、強い隊員を作る教育

    画像: 2025年度の救難員課程、63期生の選抜試験。教官が厳しい目で見守る中、受験生がかがみ跳躍を行い基準突破を目指す

    2025年度の救難員課程、63期生の選抜試験。教官が厳しい目で見守る中、受験生がかがみ跳躍を行い基準突破を目指す

     救難員は危機的状況下で出動するため、強靭な体力・精神力はもとより、海上、雪山などさまざまな場面で高度な技術を求められる。

     そのため救難員の教育課程は自衛隊屈指の過酷さといわれ、それは選抜試験内容からも十分うかがえる。

    救難員選抜試験は左記の検定基準に加え、裸眼視力0.3以上(矯正視力1.0以上)など身体検査の基準もある (注)プールの底まで潜水し、そこから潜水した状態で泳ぐ

     適性検査や面接などとともに行われる体力測定、水泳検定の合格基準は非常に高い。この選抜試験は年1回行われ、28歳以下の空曹または空士長であれば誰でも応募は可能だが、倍率は約5倍の狭き門だ。

     選抜試験に合格した隊員は毎年1月から約1年間の救難員教育を受ける。

    画像: 救難員課程の座学では、航空機に関する安全教育や装具の取り扱いなどを学ぶ。1つのミスが命に直結するため動作を確実に覚える

    救難員課程の座学では、航空機に関する安全教育や装具の取り扱いなどを学ぶ。1つのミスが命に直結するため動作を確実に覚える

     前半約5カ月は導入教育で、「学生要員」と呼ばれる見習いの期間だ。学生要員は着隊後まもない2月から約5週間、空自入間病院で救難員衛生課程を受け、応急処置などの救命技術を学ぶ。

    画像: 水泳訓練では長時間水中で活動するための体力はもちろん、パニック状態になった要救助者の救出法なども学び、総合力を身に付ける

    水泳訓練では長時間水中で活動するための体力はもちろん、パニック状態になった要救助者の救出法なども学び、総合力を身に付ける

     小牧基地に戻った後は、徹底した体力錬成とプール実習を繰り返し、体力、泳力、精神力を極限まで鍛える。

    陸・海・空あらゆる場面で救助する力を身に付ける

    画像: 落下傘を身に着け航空機から降下する訓練。要救助者の下へピンポイント降下できるよう訓練を重ねる

    落下傘を身に着け航空機から降下する訓練。要救助者の下へピンポイント降下できるよう訓練を重ねる

     5月中旬、学生要員は陸上自衛隊習志野駐屯地第1空挺団で約6週間の基本降下課程を受け、落下傘での降下訓練を実施。

    画像: 取り残された要救助者救出のため山岳地にて救難活動を行う訓練。ヘリコプターの到着時間は決まっているため迅速で計画的な行動も求められる

    取り残された要救助者救出のため山岳地にて救難活動を行う訓練。ヘリコプターの到着時間は決まっているため迅速で計画的な行動も求められる

     7月初旬から飲料水などを制限した状態で1泊2日、地図とコンパスのみで山中を行動する山岳地図判読訓練を行う。主任教官の松本1等空曹によると、この訓練が学生要員の大きな壁とのこと。

    「前半の教育の目的は、体力とメンタルの限界の確認です。その限界を教官が引き上げ、不撓不屈の精神を持つ救難員の基盤を作ります」

    画像: 高さ約11メートルの訓練塔での山岳救助訓練。要救助者を担架に乗せロープで降下。体力を消耗する訓練だ

    高さ約11メートルの訓練塔での山岳救助訓練。要救助者を担架に乗せロープで降下。体力を消耗する訓練だ

     導入教育を修了した学生要員は7月の入校式で晴れて“学生”となり、ここから翌年の1月まで潜水などの海上行動訓練、洋上・山岳での飛行総合実習、夏季・冬季の山岳総合実習など、あらゆる状況を想定した救難訓練を受ける。

    画像: 山岳での救難訓練は雪の積もった冬季にも実施。スキーやかんじきなど冬山用の装備を身に着け、要救助者をそりに乗せて搬送する訓練などを行う

    山岳での救難訓練は雪の積もった冬季にも実施。スキーやかんじきなど冬山用の装備を身に着け、要救助者をそりに乗せて搬送する訓練などを行う

    「本課程は気を抜く暇はなく、毎日が勝負です。今まで味わったことがない経験ゆえに課程を辞退する学生もいます」と松本1曹。

    画像: ダイビング用の装備を着け行う海上総合実習。水の中では会話ができないため身振りなどで意思疎通し救助する

    ダイビング用の装備を着け行う海上総合実習。水の中では会話ができないため身振りなどで意思疎通し救助する

     これら全課程を修了した学生は各部隊への配属となるが、そこでもさらに厳しい訓練を受け、第一線で活躍する救難員を目指す。

    (MAMOR2025年9月号)

    <文/古里学 写真/村上淳 写真提供/防衛省>

    これが本当のPJ教育隊だ!

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

    This article is a sponsored article by
    ''.