•  海上自衛隊の主力装備・艦艇を動かすためには、多くの乗員が必要だ。そのため、海上自衛隊には「海上訓練指導隊群」という、艦艇の乗員を鍛える指導者たちが集まったインストラクター役の部隊が存在している。

     中でも「水上戦術開発指導隊」は、敵の攻撃からどう守るかなど、艦艇の戦闘に関する部分を指導する。その教育と活動を紹介しよう。

    護衛艦に不可欠な誘導武器や戦闘指揮システムを教育

    画像: アメリカ海軍主催の国際共同訓練RIMPAC(環太平洋演習)でのミサイル実射。海自艦艇は実射機会が少なく、シミュレーター訓練で精度を高め訓練に臨んでいる 写真提供/防衛省

    アメリカ海軍主催の国際共同訓練RIMPAC(環太平洋演習)でのミサイル実射。海自艦艇は実射機会が少なく、シミュレーター訓練で精度を高め訓練に臨んでいる 写真提供/防衛省

     海上訓練指導隊群隷下の「水上戦術開発指導隊」。横須賀に本拠を置くこの隊は、イージスシステムを中心とした水上艦艇が装備する誘導武器および戦闘指揮システムに関する教育訓練を行うことが任務で、それに加えて、水上艦艇に関する戦術開発、訓練指導などを担っている。

    「新装備や艦艇も増えますので、シミュレーターやオンライン教育など、より効率的な教育方法を追求していきます」と堀部2佐

     同隊教育部長兼学生隊長の堀部2等海佐は教育内容についてこう話す。

    「3〜15週間で各種システムの運用法、操作法、整備法を教える教育と、幹部を対象に、約5週間で水上艦艇の戦闘指揮に当たる役職『哨戒長』になるための教育を実施しています。ミサイルの弾体そのものの整備に関する教育も担当します。

    また、新規に装備品が導入される際は研究開発段階から関わり、装備化後はすぐに教育が開始できるよう準備を進めています」

    即戦力を育て送り出すため、教官たちも努力し奮闘する

    画像: 護衛艦の戦闘指揮システムを活用した戦闘指揮法についてシミュレーターで学ぶ。艦艇乗員役はメンテナンス中の護衛艦の人員が協力し教育をサポート

    護衛艦の戦闘指揮システムを活用した戦闘指揮法についてシミュレーターで学ぶ。艦艇乗員役はメンテナンス中の護衛艦の人員が協力し教育をサポート

     学生は課程によって担当する装備などは違うものの、水上艦艇が航空機や水上艦、潜水艦などの各種脅威に対応するため、装備をどう活用し隊員を動かすかを学ぶ。

     教育の一端について教育部教育第1科の加藤1等海尉に聞いた。「私の担当は短SAMといって艦艇搭載の対空誘導弾および射撃指揮装置の教育です。座学と、戦術訓練装置というシミュレーター、艦艇での実習指導も行います」

    加藤1尉は武器システムの開発に携わった経験もある。「近年はシミュレーターの技術向上が著しく、リアルな状況を再現できます」と語る

     ここで行う教育は、術科学校や教育隊での基礎的なものと異なり、一歩進んだ実践的かつ専門的な内容。学生たちも全国の各部隊から集まった優秀な隊員たちばかりという。

    「習熟度の違う各学生に寄り添い、どこまで身に付いているか確認しながら教育を進めます。いかに装備が高度化しても、使うのは人間。実際に役立つ教育を意識し、学生たちと向き合います。教官も彼らの意欲に応える指導をしなければなりません。負けないように研さんする日々を送っています」と加藤1尉。

    教官のやりがいは学生たちが活躍する姿を見ること

    最新艦艇に関する勉強も欠かさない中山曹長。「最新艦艇の操作パネルはスイッチ式からタッチ式に変わり、教える側も即対応しています」

     同じ短SAM班で主任教官補佐を務める中山海曹長は教官のやりがいについてこう語る。「学生たちが自分の艦に戻って活躍する姿を見るのが1番のやりがいです。教育の仕組みも以前はほぼ対面でしたが、今はeラーニングも活用するようになりました。教え方は変われど、『戦える』即戦力を養成する私たちの役目は変わりません」

    さまざまな護衛艦で経験を積んだ中村2尉。「戦術開発部の調査、研究から現在の部隊の戦術に必要な改善案を作ることにやりがいを感じます」

     教育が変わるのは、海自の装備品が進化をしているからだ。その対応について同隊戦術開発部の中村2等海尉はこう教えてくれた。

    「ロシアのウクライナ侵略など海外での戦いや各国で行われている演習の情報も集め、新しい装備品をどう活用するか、部隊の各種戦闘能力をどう向上させるかを意識し取り組んでいます。海自の任務を達成するため、スピード感ある戦術研究を私たちは意識しています」

     最後に、今後、同隊が果たす役割について前出の堀部2佐は次のように述べた。

    「配備が進むFFMをはじめ、イージスシステム搭載艦など、海自には新たな装備品がどんどん導入されます。今後は最新の情勢、技術に対応できる教育環境を整え、即対応できるようにする。海自の未来像を見据えた教育態勢を整える必要があるでしょう。学生に対しては、変わらず学生に寄り添った親身な指導を行い、より良い人材の輩出に努めます」

    (MAMOR2025年7月号)

    <文/臼井総理 写真/村上淳 写真提供/防衛省>

    艦艇乗りをより強くするトレーニング・ファイル

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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