防衛駐在官の情報収集や、外国軍人との親善は、人付き合いから深化する場合が多い。よって家族ぐるみの付き合いも重要な外交手段だ。
子どもたちが通う現地の学校では、小さな国際親善活動が繰り広げられている。防駐官の家族も立派な”外交官”として活躍するのだ。
赴任先:大韓民国 / 兵藤1等空佐ファミリーの場合

●赴任期間
2021年7月~24年3月
●同行者
妻、長男(9歳)、長女(7歳)
※子どもの年齢は赴任時
●赴任前の妻の職業
小学校外国語指導員
韓国語はドラマで学習。子どもたちにも基本を教えた
休日には家族でテンプルステイを楽しむなど、韓国の名所を訪れ、異国文化に触れた
ファミリーで現地に赴任する場合、多くの家族が共通して悩むのが妻の仕事と子どもたちの進学・受験についてだ。2021年7月から約3年間、韓国の防駐官を務めた兵藤1等空佐の一家も例外ではなかった。
当時、妻の由美子さんは学校に勤務し、2人の子どもたちは小学校低学年でのびのびと生活していた。
「出国する3年前(18年)に赴任が決まったときは、子どもたちも幼くよく分かっていなかったのですが、その後、韓国に行く日が近づいてくると、やはり友だちと別れたり生活環境が変わることに不安はあったようです。私もちょうど仕事が面白くなってきた時期だったので、離れるのはちょっとつらかったですね」

韓国では、自宅で浴衣体験会を開催。日本から持参した浴衣を着て笑顔がこぼれる、他国の駐在武官夫人たち(右端が由美子さん)
それでも一緒に行くと決めたのは、やはり現地で得難い経験をして、それは帰国後にも生かせるはずと思ったから。その考えには子どもたちも納得したという。
「退職した後は、帰国後にキャリアを再開できるよう大学に編入学して、英語力を磨きました。韓国語はドラマをたくさん見て学習しましたね。韓国の国民性や文化を知るのにも役立ちました。
子どもたちには“こんにちは”、“ありがとう”、“トイレはどこですか”という基本的な韓国語を教えました」と由美子さんは話す。
日本の着物は名刺代わりに。伝統工芸品のプレゼントも喜ばれた

日本の自宅にあったというひな人形も持っていくと、他国の駐在武官ファミリーに注目されたそう
赴任の時期が近づいてくると、現地のトイレ事情や食事マナー、人付き合いの仕方なども確認したという。例えば韓国では、乾杯でグラスや盃を掲げる際、年下の人は年上の人より低くするマナーがあるそうで、初対面で年齢を聞かれても驚いてはいけないそうだ。
また、前任者夫人に相談しながら、現地で着る着物や浴衣をそろえ、日本からの手土産としては伝統工芸品のスズ製の桜プレートを、また水を張ると逆さ富士が現れる花器なども準備したそうだ。

由美子さんが端切れで作ったワインボトルのカバー。他国の駐在武官夫人たちにプレゼントして喜ばれたそう
そうして持っていった物は、赴任先で開いたホームパーティーなどで、他国の駐在武官夫妻らに興味を持たれ、話題になったという。
「特に着物は好評で、着ているだけで日本の防駐官夫人と分かってもらえるので、名刺代わりになりました」と由美子さん。家族ぐるみの外交に、着物は大きく役立ったようだ。
(MAMOR2025年6月号)
<文/古里学 写真提供/防衛省>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

