•  世界で唯一の電子戦機であり、“珍機”ともいわれるEC-1。航空自衛隊の公式ホームページなどにもその情報が公開されていない機体だ。

     本記事ではEC-1を運用する電子戦隊の、パイロットや整備士の任務を紹介しよう。

    毎日のようにフライトし、電子戦機器を操作する

    画像: 電子戦に特化した機能を持つEC-1。その運用を担う隊員たちにはスペシャリストとしてのプライドがある

    電子戦に特化した機能を持つEC-1。その運用を担う隊員たちにはスペシャリストとしてのプライドがある

     電子戦隊を構成する各部署のうち、まずEC-1を飛ばす「飛行」とキャビン内で電子機器の操作を行う「電子操作」を紹介しよう。

    「事故のないよう、万全の準備と気象判断、現場での点検手順の確実な履行を心掛けています」と話す佐藤3佐

    「EC-1による訓練では、電子攻撃を仕掛けてそれへの対処の向上を図る、レーダー施設を運用する部隊との合同の特別な訓練のほかにも、上空から自衛隊のレーダー施設の電波をキャッチし、妨害電波を発射するまでのシミュレーションを行う動作確認の訓練や、電子戦に関わる電磁波の受信状況の確認をEC−1のみで実施したりもします。

     また、電子戦機のパイロットを育成するため、雨天などさまざまな天候下での飛行訓練も行っています。そのため、EC-1はほぼ毎日、関東上空の訓練空域を中心に、日本全国の航空路や空域をフライトしているのです」

     EC-1のパイロットであり、電子戦隊の飛行を司る佐藤3等空佐はそう話す。

    EC-1を運航する前に行われるブリーフィングの様子。天候状況や飛行ルートの確認などが行われる

    「電子戦を任務とするパイロットは訓練で電子攻撃の対象となるレーダーや戦闘機などの運用に関する知識も必要です。また、搭乗する電波妨害装置を扱う電子操作部署とは、各任務に応じた飛行経路の選定などを行うので、彼らとのチームワークも必須です」

     EC-1に搭乗する電子操作を担う外川3等空佐も、その意見にうなずく。

    「電子戦隊の任務では、その時々の状況に対する認識がパイロットとズレていると連携が乱れ、活動に支障をきたす可能性があります。なので、お互いに認識の食い違いが生じないよう、適切かつ端的な言葉でコミュニケーションをとるように心掛けています。EC-1では特に、操縦室とキャビンの隊員とが一心同体となって任務にあたることが重要なんです」

     EC-1を運用する隊員として留意している点を尋ねると、外川3佐と佐藤3佐から同じ答えが返ってきた。

    「替えのきかない任務なので、体調管理に気を使い、日ごろから体力錬成に取り組んでいます」と外川3佐が言うと、「EC-1という1機しかない貴重な航空機を操縦する、数少ない貴重な機長として(笑)、任務に穴はあけられないので、私も健康管理には気を付けていますね」と、佐藤3佐が冗談を交えながら応じた。

    電子戦器材を作動させデータを作成する

    画像: 収集・蓄積した運用記録情報を基に、空自の航空機が搭載する電子戦機器のためのデータ作成を行う隊員たち

    収集・蓄積した運用記録情報を基に、空自の航空機が搭載する電子戦機器のためのデータ作成を行う隊員たち

    「電子戦では、相手が使用する電子機器の電波の特性についての知識がないと、相手から妨害電波を照射されたかどうかも分かりませんし、こちらから妨害電波を仕掛けたとしても効果がない可能性があります」

    生富1尉は「作成したデータで要求どおりに電子戦機器が作動し、乗員から感謝された時はうれしかったですね」と言う

     そのため、電子戦器材を正確に作動させ、なおかつしっかりデータを作成するのがデータ管理の任務だと生富1等空尉は話す。

    「電子戦では、航空自衛隊が運用するレーダーや通信機器の電波に関わる情報も熟知しておく必要があります。でないと、相手に向けて発射した妨害電波が味方の航空機やレーダーに干渉する恐れがあります」

     そこで、データ管理部署では、相手が使用する電波に関わる情報に加え、訓練などを通して得た空自が使用する電波の情報を解析。それらを基に、空自の戦闘機などが搭載する電子戦機器を作動させるためのデータを作成しているという。

     生富1尉は、航空機の乗員の命綱ともいえる電子戦機器を扱うことに責任を感じるといい、次のように話した。

    「戦闘機や輸送機、救難機、早期警戒機など、練習機を除くほとんどすべての空自の航空機には電子戦機器が搭載されています。相手と味方が使用する電波の特性に応じて作成したデータを、それら多様な航空機の電子戦機器にセッティングすることがわれわれの任務です。

     そうすることで、将来、空自の航空機が相手の電子攻撃を認識したり妨害したりすることが可能となり、航空機が撃墜される可能性が低減し、乗員の生存率の向上につながります」

    運航に遅滞がないよう機器を確実に維持管理

    画像: 秘匿性の高い機器を整備する隊員たちは皆、家族にも任務内容は話せないという

    秘匿性の高い機器を整備する隊員たちは皆、家族にも任務内容は話せないという

     主にEC-1に搭載されている電波妨害装置をはじめとした機器を整備し、正常に機能するよう維持管理を担当しているのが整備部署だ。部署を司る猪狩1等空尉は、EC-1の日々の運航に合わせ、スケジュールに遅滞がないよう、同機が搭載する膨大な数の各種機器を整備するのは大変だと言う。

    EC-1の整備を通じて「的確な状況判断と課題の抽出、正しい措置の方向性を考える力が身についた」と話す、猪狩1尉

    「それでも、レーダー施設を運用する部隊や戦闘機部隊などとの相互訓練が計画通りに実施され、それを整備部署として支えられた時には達成感を感じます」

     同部署の隊員には、機器の更新にともなう知識の習得も必要だ。

    「地上通信用の電子機器に関する基礎的な知識や、各種装備品の取扱説明書に記載されている整備に関する知識、また機器を維持管理するための整備技術が必要です。さらにそれらの知識を部署員全員が共有しなければなりません」

     そのため、猪狩1尉は、皆が意思疎通がしやすい、風通しのいい職場環境の構築に気を配っているという。

    「日ごろから積極的にコミュニケーションをとるよう心がけ、皆が一丸となって、EC-1が問題なく運航できる態勢を整えています」

    <文/魚本拓 写真/荒井健>

    世界に1機だけの電子戦機を独占スクープ!

    (MAMOR2025年4月号)

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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