•  ドンッ! 腹に響くごう音を響かせて発砲されたのは、これがうわさの新型りゅう弾砲、正式名称を「19式装輪自走155mmりゅう弾砲」といい、陸上自衛隊が装備する従来のりゅう弾砲にはない性能を持っている。

     すなわち、トラックと一体化されているために高速で移動でき、現場に到着してから射撃開始までの準備を早く行え、ネットワークを介して得た、前戦部隊や航空機などからの情報をもとに目標に対して効率的かつ複合的な射撃ができるのだ。

     その能力の詳細や、配備された部隊の訓練実態など、陸自のニューフェイスについて、詳しく紹介しよう。

    機動力に優れた「19式装輪自走155mmりゅう弾砲」

    画像: 機動力に優れた「19式装輪自走155mmりゅう弾砲」

    <SPEC>全長:約11.4m 全幅:約2.5m 全高:約3.4m 乗員:5人 最高速度:90km/h

    「19式装輪自走155mmりゅう弾砲」(以降「19式」)は、陸上自衛隊が装備する「155mmりゅう弾砲 FH70」(以降「FH70」)の後継として防衛省が開発した装輪式自走りゅう弾砲。

     大砲とトラックを組み合わせたことにより機動性に優れ、自走で高速道路などを走行できるので、日本全国に迅速な展開が可能となった装備品だ。

     その特徴は陣地進入から射撃完了まで短時間で行うことができること。2020年から配備がはじまったこの新たな装備品を紹介しよう。

    1:タブレット端末に射撃号令を入力

    画像: 1:タブレット端末に射撃号令を入力

     攻撃目標に照準を合わせるために、目標の位置情報や座標などを入力するタブレット端末。砲班長用と照準手用がある。火力戦闘指揮統制システムなどから送られてきた情報をこのタッチパネルで入力するだけで照準や砲身の操作が可能だ。

    2:砲弾が自動で装填されるシステムを採用

    画像: 2:砲弾が自動で装填されるシステムを採用

     りゅう弾砲は信管を含む砲弾に装薬と火管を装填する必要があるが、19式は砲弾を自動で装填した後、装薬を装填する。砲尾から伸びている砲弾装填装置に砲弾をセットすると、薬室に自動で装填される。

    3:車体中央部には隊員用の座席がある

    画像: 3:車体中央部には隊員用の座席がある

     19式の乗員は5人。トラックの車室内は3人掛けのベンチシートになっており、残る2人は車体中央にある開放式の座席に乗る。射撃は追従するトラックの人員も加わって行われる。FH70の運用人数の9人(トラックの運転担当を含む)に比べ、省人化している。

    4:155mmりゅう弾砲を装着

    画像: 4:155mmりゅう弾砲を装着

     19式の砲部は52口径155mmりゅう弾砲を搭載。陸自の99式155mm自走りゅう弾砲(注1)と同様の砲部を採用することで低コスト化を実現している。砲塔は水平、垂直の両方向に、振ることができる。

    5:ドアの内側には小銃を装着

     19式は陣地進入後、降車してすぐに周囲の警戒監視にあたるため、運転席と助手席のドアの内側には89式5.56mm小銃(注2)が装着可能になっている。

    迅速な陣地変換ができて他部隊と連携した火力戦闘が可能

    画像: 射撃するための設備が全て備わった車体後部。射撃時は、砲班員たちが連携して射撃作業を行う

    射撃するための設備が全て備わった車体後部。射撃時は、砲班員たちが連携して射撃作業を行う

     りゅう弾砲は、各国軍隊のスペックによれば30~60キロメートルほどの距離を最大射程とする火砲で、前線で地上戦を行う部隊を、その後方から掩護射撃する際に使用する。

     また、火砲やロケット、ミサイルなどが進化した現代戦では、戦闘部隊が前線で敵と相まみえる前に砲兵同士が戦う「対砲兵戦」を行う際にも使用。まず対砲兵戦で敵をたたき、前線での戦闘を有利に進めるために威力を発揮する装備品だ。

     現在では火砲が発射した砲弾の弾道を捉える「対砲迫レーダー」や、砲弾を発射したときのせん光や発射音から砲の位置を割り出す「火光標定」や「音源標定」、さらに無人偵察機からの観測などの技術が発達。

     射撃を始めたりゅう弾砲の位置はすぐに敵に標定され、反撃される。そこで、射撃後、すばやく陣地を移動する必要がある。19式は8輪トラックと一体化された自走式なので、牽引式のFH70に比べ、スピーディーな陣地変換が可能だ。

    画像: 火砲と大型トラックを合体させた19式。前方から見ると3 1/2tトラック(注3)のようなシルエットだ

    火砲と大型トラックを合体させた19式。前方から見ると3 1/2tトラック(注3)のようなシルエットだ

     また、19式は、地上監視レーダーや各種センサーなどが捉えた射撃目標の情報を迅速かつ的確に処理伝達し、効率的な火力戦闘を行うための「火力戦闘指揮統制システム」と連接されている。

     司令部などとの情報交換がリアルタイムで可能となり、従来よりも普通科や機甲科などとの連携による効果的な火力戦闘を実現している。

     ドローンでの攻撃など新たな戦闘方法が台頭してきた現代でも、前線への火力支援や対砲兵戦は重要だとされる。そのための、強力な最新鋭の装備品が19式なのだ。

    19式を含む間接照準射撃の仕組みを解説しよう

    画像: 19式を含む間接照準射撃の仕組みを解説しよう

     りゅう弾砲は、射撃する部隊からは見えない地点にいる目標に対して砲弾を発射する「間接照準射撃」を行う火砲だ。

     そこで、目標の発見と着弾地点の特定、射撃の指示を(1)「前進観測班」が行う。次に、それらの情報を基に(2)「射撃指揮班」が目標の方向へと火砲を向けるための計算を実施

     その結果を受け、りゅう弾などを発射する部隊(3)「砲班」が、目標の方角に射撃する。さらにデータリンク機能により自衛隊の用いる各種ネットワークと高度に接続されている。

    (注1)1999年に配備された、自走りゅう弾砲。主に北部方面隊の師団・旅団特科部隊などに配備されている 
    (注2)陸上自衛隊の主力小銃。一部に強化プラスチックを使用することで軽量化されている
    (注3)高い積載能力があり、訓練用の資材運搬や災害派遣での物資の輸送などに使用される汎用トラック 

    <文/魚本拓 写真/村上淳>

    (MAMOR2025年2月号)

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

    これが噂の19式装輪自走155㎜りゅう弾砲だ

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