輸送艦『にほんばれ』が2024年10月に進水し、当時ニュースとなった。陸上自衛隊といえども艦艇を持つ時代がやってきたのだ。
では、艦艇とはどんなものか? その歴史を振り返る。海上自衛隊幹部学校部外講師、石原敬浩氏の監修の下、第一次世界大戦以降から近未来までについてまとめてみた。
第1次世界大戦以降:近代艦艇の誕生と戦い方「現代的艦艇が20世紀に登場。強力なライバルも次々誕生」

円筒形の砲塔(破線部)を搭載した、アメリカ海軍の『モニター』。砲塔が回転する機構により、大砲の向きを変えることができる 出典/Wikimedia Commons、アメリカ海軍
19世紀半ばになると、木造の船体に鋼鉄の鉄板を貼り付けて装甲とした「装甲艦」がフランスで誕生した。
当時約9割の造船シェアを持つイギリスに加え、ドイツ、アメリカなど、各国はその後こぞって装甲艦を建造したが、20世紀に入ると船体全てを鉄で建造する技術が生まれ、木造船の軍艦は激減。第1次世界大戦が始まるころには、ほとんどの艦艇が鉄鋼船になっていた。
また、武装の面でも大きな変化があった。「砲塔」の誕生だ。艦艇の大砲は従来、大きく動かすことはできず、マストがあるため主にげん側に並べて設置することが多かった。
しかし、蒸気機関が採用され、帆走の必要がなくなると、少数の大砲で左右どちらのげん側にも照準できる「砲塔式」が重宝されるようになった。その最初期のものとして有名なのが、アメリカ合衆国の『モニター』。
南北戦争でのアメリカ連合国の装甲艦『バージニア』と戦ったことでも知られる。『モニター』には、全周回転式の装甲砲塔に大砲2門を積んでいた。この後、船体の中心線の前後に1個ずつ砲塔を搭載した、近代的な戦艦が登場する。
第1次世界大戦以降の艦艇の戦いで注目すべき2つのこと

旧日本海軍の戦艦『大和』。1941年就役、45年坊ノ岬沖海戦で沈没。建造当初世界最大の戦艦であり、世界最強の戦艦と目されていた 出典/Wikimedia Commons
第1次世界大戦以降の艦艇の戦いで特筆すべきことは、2点ある。
1つ目は、「潜水艦の登場」だ。これまで海上のみが戦いの場だったのだが、ドイツの潜水艦「Uボート」の登場により本格的に海中での戦いも発生するようになった。Uボートは、海中に潜み、新たに発明された魚雷を使って商船を撃沈。海上交通に多大な被害をもたらした。

1910年に就役した、ドイツのUボート(潜水艦)『U9』。第1次世界大戦でイギリスの装甲巡洋艦3隻を1時間以内に全て沈める戦果を上げた 出典/Wikimedia Commons
これ以降、海上の艦艇も、海中の敵を意識した戦い方が求められるようになり、潜水艦を攻撃すべく、爆雷を搭載した駆逐艦による「護送船団方式」の採用などによって海上交通を確保するための戦いが起きた。
2つ目のポイントは「航空機」だ。第1次世界大戦に登場した航空機は、高所からの偵察を目的に用いられていたが、次第に攻撃にも使われるように。第2次世界大戦になると航空機同士の戦闘、地上の敵への爆撃、さらには魚雷や爆弾を搭載して敵艦を攻撃することにも使われるようになる。

『鳳翔』は、旧日本海軍が1922年に竣工させた世界初の航空母艦(空母)。最初から空母として作られた初めての艦であり、平べったい飛行甲板が最大の特徴 出典/Wikimedia Commons
第2次大戦当初、「飛行機の攻撃では戦艦は沈められない」というのが通説だったが、旧日本軍が真珠湾攻撃でアメリカ海軍に大打撃を与え、マレー沖海戦でイギリスの『プリンス・オブ・ウェールズ』と『レパルス』を撃沈したことにより、艦艇に対する航空機の有用性を世界に示したのである。
こうして海の戦いは、水上の艦艇同士だけではなく、艦艇対潜水艦、艦艇対航空機という新たな局面に入った。
第2次世界大戦以降:原子力艦の誕生と戦い方「無尽蔵なエネルギー源で巨大空母や潜水艦を動かす」

1961年に就役した世界初の原子力空母、アメリカ海軍の『エンタープライズ』。全長約340m、基準排水量7万5700トン。最大84機の航空機を搭載し、約4600人の乗員を乗せて航行する 出典/U.S. Navy
原子炉を動力とする「原子力船」を世界で初めて作ったのは、当時のソビエト連邦だった。1959年、原子力砕氷艦『レーニン』が竣工。以降、各国で民間船としても原子力船は作られ、日本でも原子力船『むつ』が試験に供されたが、コストや安全性などの面から断念。
同様の例は多く、一部の実験用艦船などを除いて実用化された例は少ない。一方で軍用としてはメリットも多く、主に大型空母や潜水艦に用いられている。
原子力を艦艇の動力に使うメリットは、石油に依存せず、長期間燃料補給する必要がないこと、酸素を必要とせず二酸化炭素などの排出もないなど、大気に依存しないこと、そして、ほぼ無尽蔵に大量のエネルギーを供給できることが挙げられる。
原子力潜水艦の場合は、石油などを燃焼させる内燃機関と違い、外気からの酸素の取り込みや、燃焼によって発生した二酸化炭素の排出が必要ないほか、原子力発電による豊富な電力により海水を電気分解し、酸素を取り出すことができるため、浮上することなく長時間潜航し続けることができるのが強みだ。
内燃機関を持つ潜水艦は吸排気を行う際には浮上しなければならないが、浮上という敵に見つかりやすい局面を減らし、じっと海底に潜み続けることができるのである。
原子力空母の場合には、大きな艦にたくさんの乗員が乗り込むため大量の電力を必要とするが、原子力発電で容易に賄うことができ、長時間帰港せず行動を続けることができる。さらに、航空機を容易に発艦させるために用いる「カタパルト」(注3)にも膨大なエネルギーを必要とするが、原子炉によって十分に供給できるなど、多数のメリットがある。
アメリカ海軍は、61年に世界初の原子力空母『エンタープライズ』を就役させて以降、原子力空母を建造し運用し続けている。
2024年現在、アメリカは11隻の原子力空母を運用しているが、その他の国では、フランス海軍が空母『シャルル・ド・ゴール』を1隻運用しているだけである。
(注3)艦艇から航空機を射出するための装置。火薬や油圧、圧縮空気、蒸気などのエネルギーを使い離陸可能な速度まで加速させることで航空機を離陸させることができる
近未来の艦艇の戦い方「ドローン、レールガン……、装備は変わるも本質は不変」
21世紀になり、戦いの場は陸、海、空のほか『サイバー空間』や『宇宙』にも広がっている。実際の海の戦闘も、大きく様相が変わるかもしれない。完全無人の水上艇、潜水艇、航空機が増え、さらにレールガンやレーザー兵器など新たな武器が現れ、サイバー空間における戦いや電子戦も重視されていく。
しかし、戦術面での「戦い方」は変わっていくだろうが、「海軍力の本質」は変わらないだろう。物資、エネルギー、食糧を搭載した船が行き交う海上交通の安全を確保するため、直接的な戦闘、武力行使がなくても普段から活動するのが艦艇の役目だからだ。
特に、日本のようにエネルギーと食糧のほとんどを海の外に依存している国では、平時からの海上交通の確保は生命線ともいえる。さらには、実際の戦闘にはいたらない「グレーゾーン」への対処も自衛隊の重要な任務であり続けるだろう。
【石原敬浩氏】
元海上自衛官。海自幹部学校戦略研究室にて戦略論や作戦術などの教官を務めた。2024年11月に退官し、現在は同校の部外講師を務める
(MAMOR2025年3月号)
<文/臼井総理>
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