2024年10月に、「陸上自衛隊の船ができた!」というニュースが話題になった。日本を取り巻く安全保障環境は 大きく変化し、陸自といえども国を守るために艦艇を持つ時代がやってきたのだ。
このニュースをきっかけとして、四方を海に囲まれた日本になくてはならない装備、「たたかう船」について、あらためておさらいしよう。
陸上自衛官が運用する輸送艦・新造艦『にほんばれ』

『にほんばれ』は数百トンの物資を輸送可能で、自衛隊車両なら数十両、民間商船で使用されるコンテナなら十数本になる
<SPEC>全長:約80m 全幅:約17m 速力:約30km/h 深さ:3m 喫水:約3m 乗員:約30人
2024年10月、自衛隊の新造艦『にほんばれ』が進水した。陸・海・空各自衛隊による、共同部隊で運用が行われる自衛隊として初めての艦艇だ。
いったいどのような艦艇なのか、その運用と機能について、海事ライターの浅野一歩氏に説明いただいた。
自衛隊の大規模輸送を支える艦艇に
「本艦を『にほんばれ』と命名する」
艦首のくす玉が割れ、灰色の真新しい船体がゆっくりと瀬戸内海へと滑り進んでいく。2024年10月29日、防衛省が発注した輸送艦『にほんばれ』の命名・進水式が広島県尾道市で行われた。
南西諸島などの島しょ部への部隊輸送を担う期待の新鋭艦として、25年3月に新編予定の「自衛隊海上輸送群(仮称)」へ配備される。
『にほんばれ』は陸上自衛官が主体となって運用を行う初めての自衛艦だ。命名者こそ海上自衛隊の艦艇と同じ防衛大臣だが、執行者は陸上自衛官となっている。
艦名についても、『おおすみ』など従来の輸送艦は半島名が由来になっているのに対し、「晴れ渡った空と日本国を想起させるもの」として『にほんばれ』と命名され、「任務の完遂と航海の安全」への願いが込められている。
砂浜に乗り上げることも可能。港のない南西諸島での防衛力強化に

内海造船株式会社によって建造された『にほんばれ』
『にほんばれ』が配備される「自衛隊海上輸送群」は、18年に策定された「中期防衛力整備計画」に基づき、島しょ部の輸送機能を強化するため新設が決まった部隊だ。
これまで自衛隊には海自が運用する輸送艦3隻しかなく、岸壁がある港湾施設にしか着岸できないため、砂浜への車両揚陸は搭載されているLCACを使用する必要があった。
LCACは輸送艦と上陸地の短距離往復には最適だが、物資の集積地から島しょ部の長距離移動には向いていない。
こうした背景で新造された『にほんばれ』は、本州から南西諸島への外洋航行が可能な性能を持ち、砂地にも乗り上げることができるように喫水部(水面下船体構造)が設計されている。
艦首から車両や補給品などの搭載と陸揚げを直接行えるビーチング能力を併せ持つため、長距離の部隊移動や物資輸送をより機動的に行えるようになり、大規模な港湾が整備されていない南西諸島での防衛力強化にもつなげられる。
『にほんばれ』などに乗艦する陸上自衛官の育成は19年から始まっており、運航要員は海上自衛隊第1術科学校に、機関要員は海自第2術科学校に入校し教育を受けている。さらに、海自の『おおすみ』に乗り組み、操艦や見張り、ディーゼル機関の運転・整備といった訓練に従事している。
自衛隊海上輸送群に配備される艦艇は、『にほんばれ』を含む小型級船舶4隻に加え、11月に進水した中型級船舶『ようこう』を含む輸送艦2隻、さらに小型の機動舟艇4隻の取得が計画されており、計10隻まで拡大予定だ。
【浅野一歩氏】
海事ライター、フォトグラファー。防衛専門紙、日本海事新聞の記者を経たのち独立。現在はフリーランスの記者、カメラマンとして、主に船舶・造船や防衛関連の取材に携わる
(MAMOR2025年3月号)
<文、写真/浅野一歩>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです