アニメや映画の作品で描かれる軍事階級はさまざまな変遷をたどってきた。じつは、戦前、戦後、そして今では、その扱われ方がかなり異なるのだ。防衛大学校で、エンタメ作品を引用して授業を行っている、相澤輝昭准教授に話を伺った。
エンタメ作品の主要キャラクターの階級一覧表

戦後、軍事階級はエンタメから避けられた
戦前には、主人公の犬が入隊し、2等兵から大尉まで順々に出世していく、階級を忠実に描いた『のらくろ』というマンガがあった。しかし戦後になると一変、明確に階級を描いた作品がほとんど見られなくなった。
自衛隊史、海洋安全保障などの専門家でエンタメ事情にも詳しい防衛大学校の相澤准教授は、「戦後日本では軍事が忌避されてきたため、エンタメにおいても軍隊を思わせる階級を出すことは避けられてきました」と解説する。
例えばゴジラシリーズの1作目となる『ゴジラ』をはじめとする東宝特撮映画に登場する怪獣迎撃組織は「防衛隊」などという、作品オリジナルの軍事組織を呼称。テレビドラマの世界でも、『ウルトラマン』の科学特捜隊、『ウルトラセブン』のウルトラ警備隊も隊長以外は隊員と呼ばれて階級はない。ゴジラシリーズにおいても、84年版の『ゴジラ』以前は、隊員の階級は特に触れられていない。
『機動戦士ガンダム』で階級が登場
相澤准教授によると、映像作品で階級が設定された最初期の作品は79年の『機動戦士ガンダム』、そしてはっきりと階級が出てくるのは89年の映画『ゴジラVSビオランテ』の防衛庁特殊戦略作戦室室長・黒木翔特佐であるという。
その理由として、89年に東西冷戦が終結、その一方で国際協力や災害派遣などによる自衛隊のイメージ向上が大きいと指摘。その端的な例が『宇宙戦艦ヤマト』だ。74年のテレビアニメは登場人物の階級について言及されていなかったが、リアリティーを追求した『宇宙戦艦ヤマト2199』以降は細かくキャラの階級設定がなされている。
「現在では、リアリティーを担保するために階級の描写は必然になりました。昔は忌避されたことでも、今は作品に深みが出る設定として扱われています。これは軍隊や自衛隊に対する国民意識の変化が反映されたと考えられるでしょう」。とはいえ、そこはエンタメ。型破りな行動をするキャラクターにこそ魅力を感じるのも事実だ。
【相澤輝昭准教授】
海上自衛官として掃海艦『はちじょう』の艦長などを務めた。退官後は、外務省アジア太平洋州局地域政策課専門員、笹川平和財団海洋政策研究所特任研究員を歴任。2020年より防衛大学校准教授
本記事で登場した作品を紹介!
『のらくろ』
1931年連載開始/田河水泡作/講談社。旧日本軍を舞台に、擬人化された黒犬の主人公、野良犬黒吉(通称のらくろ)の日常を描いたマンガ。当時の世相や軍国主義などが反映され、連載が進むにつれ、のらくろが2等兵から出世していく
『ゴジラ』(54年版)
1954年公開/東宝。水爆の影響で突如南洋から出現した怪獣ゴジラが首都・東京を破壊する。自衛隊の戦車や戦闘機が登場しゴジラと戦う。太平洋戦争での広島、長崎の原爆など、世相が強く反映されている
『ウルトラマン』
1966年放送開始/TBS系。特撮テレビドラマ。怪獣や宇宙人による災害・超常現象の解決にあたる科学特捜隊と、宇宙警備隊員であるウルトラマンの活躍劇を描いた作品
「TSUBURAYA IMAGINATION」にて配信中
『ウルトラセブン』
1967年放送開始/TBS系。特撮テレビドラマ。宇宙の侵略者から地球を守るウルトラ警備隊と、地球人に協力するヒーロー・ウルトラセブンの活躍を描いた作品
「TSUBURAYA IMAGINATION」にて配信中
『ゴジラ』(84年版)
1984年公開/東宝。高層ビルの立ち並ぶ84年の日本を舞台に、54年から30年ぶりにゴジラが現れる。政府や人々の混乱などが描かれた。冷戦中のアメリカ・旧ソ連の対立やゴジラを迎撃する自衛隊が描かれた
『ゴジラVSビオランテ』
1989年公開/東宝。ゴジラの細胞を組み込んだ巨大植物怪獣・ビオランテとゴジラ、人類が三つどもえの戦いを繰り広げる。作中の自衛隊が出動するシーンなどでは、当時の現役自衛官が出演している
(MAMOR2024年12月号)
<文/古里学 撮影/山田耕司 写真提供/防衛省>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです