•  多世代にわたって人気のあるアニメ『機動戦士ガンダム』に登場するシャア少佐。少佐ってどれくらいエライの? 『宇宙戦艦ヤマト』の主人公・古代進は、森雪と同じ中佐と知ってた?

     軍事階級について知識がないと、見慣れた作品でも、そこに描かれた真の人間ドラマを十分に理解できていないかもしれません。この記事で勉強して、あの名作を、今一度、より楽しみましょう!

    エンタメ作品のキャラの階級を比べたら?

     さっそく軍事組織が登場する有名作品のいくつかを例にとって、登場人物たちの階級を確認しよう。各作品に描かれるのは違う軍事組織なので、単純には比べられないが、階級を知ればドラマの味わいに深みが増すはずだ。

    エンタメ作品ごとの主要キャラクターの階級一覧表

    画像: エンタメ作品ごとの主要キャラクターの階級一覧表

    階級を知ると、ドラマ&アニメが面白い!

    画像1: 出典:陸上自衛隊HP( https://www.mod.go.jp/gsdf/fan/photo/training/index.html )

    出典:陸上自衛隊HP( https://www.mod.go.jp/gsdf/fan/photo/training/index.html

    「2等兵」は英語では「private」。これをそのままタイトルに冠したのが『プライベート・ライアン』である。しかし、これはノルマンディー上陸作戦で行方不明になったライアン2等兵を捜索する話で、あくまで主人公はトム・ハンクスが演じるミラー大尉である。

     兵士を直接指揮するのが下士官の「曹」の階級で、曹は経験豊富な古強者のイメージで描かれることが多い。

    『プライベート・ライアン』にも頼りがいのあるホーヴァス1等軍曹が登場。一方軍曹の「鬼」の一面を表した映画作品には『フルメタル・ジャケット』のアメリカ海兵隊訓練キャンプ教官のハートマン軍曹、『愛と青春の旅だち』では、海軍士官候補生学校で教官のフォーリー海兵隊軍曹が学生をしごきあげるが、ラストでは自分より上位に昇進した少尉となって卒業していく学生に対して敬礼をして見送るという、階級のコントラストを鮮やかに描いた名シーンがある。

    アムロは16歳で曹長に任官

     その一方で『機動戦士ガンダム』のアムロ・レイは、もともとは民間人だったが物語途中で任官し16歳で曹長になるが、本人の意思とは無関係に戦いに巻き込まれていく中で、仲間の死を目の当たりにし、葛藤しつつも人間的に成長していく。

    『超時空要塞マクロス』の一条輝も17歳でスカル大隊の軍曹として登場、命令違反や反抗的態度を繰り返すなどの問題行動もみせるが、実戦のなかで次第に成長。その後は、昇進して中隊長として部下を持ち、ヒロインに恋心を抱くなど、さまざまな葛藤を抱えるものの、ストーリーが進み階級が上がるにつれて内面の成長も描いた作品になっている。

     下士官の上位階級となる士官を見てみると、まず『機動戦士ガンダム』のシャア・アズナブルは少佐(初登場時)で、後に大佐に昇進している。

    階級はドラマを生む!

    画像2: 出典:陸上自衛隊HP( https://www.mod.go.jp/gsdf/fan/photo/training/index.html )

    出典:陸上自衛隊HP( https://www.mod.go.jp/gsdf/fan/photo/training/index.html

    『戦場のメリークリスマス』のデヴィッド・ボウイが演じたのはセリアズ陸軍少佐。その捕虜収容所の所長は坂本龍一演じるヨノイ大尉で、階級はセリアズ少佐のほうが上だが、ヨノイ大尉が常に捕虜に命令する立場だった。

    『トップガン』のミッチェル大尉は『トップガン マーヴェリック』では大佐にまで出世しているが、ライバルだったアイスマンは大将にまで昇任している。しかし2人の再開シーンは、階級差を超えかつての仲間としての友情にあふれていた。

    『鋼の錬金術師』のマスタングは、作中、長らく大佐の階級であったため、周囲から親しみも込めて「大佐」と呼ばれているが、ストーリー最終盤ではついに准将に昇格した。また、炎を操る能力を使うが雨の日は使用できないことから部下に「無能」と呼ばれ、階級の割にコミカルな一面も見せる。

    『戦場にかける橋』では、捕虜収容所長である斉藤大佐は捕虜の将校にも労役を命ずるが、ニコルソン大佐はジュネーブ条約に反すると拒否。ストーリー前半では2人は対立するも、最終的には斉藤大佐がニコルソン大佐の英国軍人魂を受け入れる。士官としての役割を全うしようとするニコルソンに、国家の対立を越えて斉藤は共感を抱く。

    将官クラスの主要キャラでは、『宇宙戦艦ヤマト』の沖田十三艦長は、リメイクシリーズの『宇宙戦艦ヤマト2199』では宙将(提督)で、国連宇宙軍・連合宇宙艦隊司令長官も務めている。

    実は深い意味があった。階級“名エピソード”

     エンタメ作品に登場する人物の階級は、作者が、どのような意図をもって付けているか分からないが、現代における世界の軍隊や自衛隊の階級制度と比較すると、また違った楽しみ方ができるようだ。

     『鋼の錬金術師』のヒューズ中佐は、職務中に国軍の重要な秘密に気付くが何者かに襲われ殉職してしまう。

     2階級特進し准将となったヒューズの葬儀が執り行われる場面では、親友でもありかつて「下について助力する」と言っていたヒューズが自分よりも昇格してしまったことに愚痴をこぼし、その後涙するマスタング大佐が描かれている。

    『宇宙戦艦ヤマト』の沖田十三艦長は、リメイクシリーズでは宙将と階級が具体化されている。現実世界での、旧軍・戦艦『大和』の有賀幸作は海軍大佐、連合艦隊司令長官の山本五十六は海軍大将(死後、元帥海軍大将に昇任)だったので、現実に近いリアルな設定だ。

     また、『ゴールデンカムイ』の時代の直前である日露戦争時、現実世界での旧軍の編成は、師団長が中将、参謀長が大佐、連隊長が中佐、大隊長が少佐、中隊長が大尉だったため、鶴見中尉の小隊長は妥当な線といえよう。

    主人公の階級がリアルなトップガン

    『トップガン マーヴェリック』のミッチェル大佐は、実績からいって将官になっていてもおかしくないが、「マーヴェリック(異端者)」というコールサイン通り、組織になじまない人物のため、指揮官の階級である大佐でありながらもテストパイロットを務めている。「昇進を拒み続け、現場主義を貫くパイロット」をリアルに描いていると言えるだろう。

     反対に、キャラクターの階級設定にフィクション色が強く出ているのが、登場人物の年齢と昇進のスピードの速さだ。エンタメの世界では未成年の司令官など普通にいる世界である。

     また『機動戦士ガンダム』のアムロは、初期は民間人だが、ストーリーの途中で軍の所属となり曹長の階級となる。そして、戦後に少尉、その後大尉と、約1年で昇任している。自衛隊で例えるなら、同程度の昇任には本来6年ほどかかるため、異例の出世スピードといえるだろう。

     残念ながら士官学校に行っていないのでアムロのキャリアパスはここまでだが、一方、士官学校出のエリートであるアムロの上官のブライト・ノアは19歳、軍歴わずか半年にもかかわらず中尉で「ホワイトベース」の2代目艦長となり、その後中佐を経て地球連邦軍大佐と、出世街道をまい進する。アムロの敵として幾度となく刃を交えるシャアも少佐から大佐まで1年で駆け抜けている。

     そこまでの異例の昇進ではないものの、『宇宙戦艦ヤマト』の古代進は、リメイクシリーズでは、20歳で3等宙尉から戦時特進し1等宙尉として「ヤマト」に乗艦。その後、24歳で戦艦「ゆうなぎ」艦長、27歳では2等宙佐の3代目「ヤマト」艦長として登場する。また、森雪は19歳で1等宙尉、26歳で2等宙佐になり「補給母艦アスカ」艦長を務めるなど、2人とも30歳前にして大型艦艇の指揮官を拝命している。

     このように、キャラクターの階級設定を詳しく見ていくことで、また違った角度から作品を楽しむことができる。

    本記事で登場した作品を紹介!

    『プライベート・ライアン』

    1998年公開/アメリカ。第2次世界大戦のノルマンディー上陸作戦などリアルな戦場シーンが以後の戦争映画に影響を与えた画期的な大作

    『機動戦士ガンダム』

    1979年放送開始/名古屋テレビ系。戦争を舞台に人間ドラマを描いたロボットアニメ。少年アムロ・レイは、連邦軍の新型モビルスーツ・ガンダムのパイロットとなる

    『フルメタル・ジャケット』

    1988年公開/アメリカ、イギリス。アメリカ海兵隊に志願した青年ジョーカー(マシュー・モディーン)はハートマン軍曹(r・リー・アーメイ)のもと、地獄のような訓練に身を投じる

    『超時空要塞マクロス』

    1982年放送開始/tbs系。突如襲来してきた異星人との戦いを描いたsfロボットアニメ。飛行機好きの少年・一条輝は、異星人との戦いの中でリン・ミンメイと早瀬未沙という2人の女性との恋をし、友情に生き、成長していく

    『愛と青春の旅だち』

    1982年公開/アメリカ。アメリカ海軍士官養成学校生の愛と友情を描いた物語。主人公は、恋愛や友情を育み人間として成長していく

    『戦場のメリークリスマス』

    1983年公開/日本、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド。第2次世界大戦中の捕虜収容所を舞台に旧日本軍人、ヨノイ大尉(坂本龍一)が捕虜のセリアズ少佐(デヴィッド・ボウイ)に特別な感情を抱く

    『トップガン』

    1986年公開/アメリカ。アメリカ海軍のエリートパイロット養成所(トップガン)を舞台にした映画。マーヴェリック(トム・クルーズ)はライバルであるアイスマン(ヴァル・キルマー)との衝突や仲間の死をきっかけに成長していく

    『トップガン マーヴェリック』

    2022年公開/アメリカ。『トップガン』の続編映画。現場主義を貫き、昇進を拒み続けている大佐マーヴェリックは、アメリカ海軍のエリートパイロット養成所(トップガン)の教官職を命じられる。戸惑う候補生たちにマーヴェリックは……

    『鋼の錬金術師』

    2001年連載開始/荒川弘/スクウェア・エニックス。錬金術が存在する架空の世界を描いた、ダークファンタジーコミック。元の身体に戻るため旅をするエルリック兄弟と、彼らを支える魅力的なキャラクターたちが描かれている

    『戦場にかける橋』

    1957年公開/アメリカ、イギリス。第2次世界大戦中の日本軍捕虜収容所を舞台にした映画。イギリス軍大佐は、捕虜の扱いを理由に労働を拒む

    『宇宙戦艦ヤマト』シリーズ

    1974年放送開始/日本テレビ系。滅亡の危機に瀕した地球を救うため「宇宙戦艦ヤマト」の遠大な旅と戦いを描いたsfアニメ。リメイク版シリーズが制作されており、映画『ヤマトよ永遠にrebel3199』の第2章が2024年11月に上映予定

    『ゴールデンカムイ』

    2014年連載開始/野田サトル/集英社。明治末期の北海道・樺太を舞台にしたバトルマンガ。日露戦争の帰還兵、杉元佐一や旧日本軍の陸軍中尉、鶴見篤四郎などが登場。杉元はアイヌの少女・アシリパと協力し、金塊をめぐり各陣営と衝突する

    (MAMOR2024年12月号)

    <文/古里学 撮影/山田耕司 写真提供/防衛省>

    軍事階級を知れば自衛隊がよりよく分かる!

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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