
出展:陸上自衛隊HPより引用
映画やアニメなどで私たちにもなじみのある「少将」や「大佐」などの軍事階級。組織において階級を設けることはどのようなメリットがあるのだろうか?
階級はただの権威を示すだけでなく、組織の指揮系統を整備し、効率的な意思決定や役割分担、さらには士気の向上にも貢献する。詳しく紹介しよう。
なぜ階級制度が生まれたのか。役割とメリットとは?

1918年の旧ソ連赤軍と演説を行う指揮官のレフ・トロツキー。旧ソ連赤軍の創設者・指揮官として後に外務大臣を担当した
階級制度が生まれた理由はいくつかあるが、そのもっとも大きなものは指揮統制の根拠とするためである。部隊がスピーディにかつ効率的に機能するためには、編制上の各結節での責任者と序列を定めることが不可欠である。
1945年の第2次世界大戦以前には、旧軍では組織内のリーダーが負傷、死亡などで指揮統率が取れなくなった場合、序列上位者が指揮権を継承することができるという『軍令承行令』があった。

軍事パレード中を行う中国人民解放軍、陸・海・空軍の儀じょう隊の兵士たち 出典/Kremlin.ru
その国における階級は、軍の規模や国際的な立場、歴史的な背景により増減したり新しい階級が生まれたりと常に変化している。旧ソビエト連邦の赤軍では、志願兵から構成され、階級を廃止し、将校を自分たちで選ぶということがあった。
また、中国人民解放軍も、創設当時は階級を導入しなかったが、いさかいやもめ事が頻発し、朝鮮戦争後に旧ソビエト連邦と北朝鮮の階級制度を元にして制定。その後、一時停止したが、1980年に再び鄧小平が制定した。北朝鮮の朝鮮人民軍も階級のない時代を経て、現在は細かい階級が定められている。
各国の事情により数や名称などに差はあるものの、階級を大きく分類すると、部隊を指揮する士官、兵を統率する下士官、直接戦闘に参加する兵に分かれるというのはどの国も共通である。
階級制度は隊員のモチベーションにもつながる

旧日本海軍の軍艦内に設けられた士官室。曹長~准士官が使用できる准士官室など、階級ごとに使用できる部屋が異なった 出典/藤田精一 編『大日本軍艦写真帖』(1924年、国立国会図書館蔵)
防衛研究所で主に戦史や安全保障の歴史などを研究している伊藤3等空佐によると、こうした階級の差が及ぼす影響の一例として、捕虜、軍法会議、食事と住居の3つの場面で説明する。
「捕虜に関しては国際法のジュネーヴ条約で、同等階級の捕虜間の平等な取り扱いが定められています。収容所では捕虜は自分が属する軍隊の将校の直接指揮下に置かれるため、将校および将校相当地位の捕虜はその役務のために同一軍隊の兵を従卒として就けることができ、同軍の中から選考します。
また抑留国は捕虜に対して俸給を支払うことが定められているのですが、その金額も階級によって5つに分類されています。
軍法会議(軍人を裁くための軍隊内の機関)に関しては、たとえばアメリカ軍では、一般軍事裁判所(死刑を含むいかなる刑罰も科すことができる)、特別軍事裁判所(刑罰の上限は1年の禁固刑、3カ月の重労働など)、略式軍事裁判所(刑罰の上限は1カ月の禁固刑、45日の重労働など)と科すことのできる刑罰の重い順に3つの軍事裁判所が設けられていますが、そのうち士官および准士官は略式軍事裁判所で裁けないことになっています。つまり、准士官以上の階級は、社会的地位・責任に応じて裁判を行うべきとされ、例え軽微な罪でも略式では実行されません。
食事や住居においても、基地内の士官のみや下士官のみが立ち入りできるクラブ、食堂、広くて清潔な住まいなど、下士官以上では特別な施設が用意されていることがあります。旧海軍の戦艦では、長官や艦長の会食のときに訓練名目で音楽演奏をさせながら食事をとったという記録もあります」
こうした階級による待遇の差は、社会的階層の反映と上の階級を目指すモチベーションになるというのも、階級があることのメリットの1つである。
各国の軍では、昇任するまでに現在いる階級に最低限在職しなければならない期間が定められているが、有事の場合はしばしばその功績により特進や戦時昇任(戦時中のみ昇任する制度。戦争終了後は降格する)が認められる。
有名な例では、アメリカ陸軍のジョージ・パットン・Jr.は、第1次世界大戦の前年に30歳で中尉に昇任していたが、大戦参加後1カ月で大尉に、さらに3カ月後には中佐、さらに半年後に大佐と昇任していった。大戦終結後は、一時大尉に降任したものの、翌日には少佐に昇任している。
伊藤3等写真 写真/編集部
【伊藤3等空佐】
防衛研究所 戦史研究センター安全保障政策史研究室所属。人事制度、ドクトリンや旧軍の戦史の研究を行っている
(MAMOR2024年12月号)
<文/古里学 写真提供/防衛省>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです