•  映画やアニメなどで私たちにもなじみのある「少将」や「大佐」などの軍事階級。では「少尉」と「軍曹」、どちらが上位か分かるだろうか?

     ここでは、階級制度の始まりと呼び名の由来について解説していく。 

    そもそも、軍隊の階級制度はいつから始まった?

     軍隊の階級制度は、統率や指揮を効果的に行うために古代から存在していたようだ。

     特に近代軍事組織の誕生とともに、階級は戦闘効率や士気向上に不可欠な要素となり、今日の体系に至っている。軍隊の階級制度がどのように発展してきたかを歴史的視点から探る。

    古代からあった軍の階級。日本では江戸時代に本格化

    画像: 紀元前333年、「イッソスの戦い」にて10万人のペルシア軍と戦うアレクサンドロス3世を描いたモザイク画。行軍を記録した歴史書『アレクサンドロス大王東征記』には、「将兵」といった階級らしきものの記述がされている

    紀元前333年、「イッソスの戦い」にて10万人のペルシア軍と戦うアレクサンドロス3世を描いたモザイク画。行軍を記録した歴史書『アレクサンドロス大王東征記』には、「将兵」といった階級らしきものの記述がされている

     階級の起源は古い。防衛研究所で主に戦史や安全保障の歴史などを研究している伊藤3等空佐によると、階級のルーツは軍隊の編制にあるという。

     部隊を編制する場合、指揮官、重装歩兵、一般兵という役割が必要になり、そこから上下関係が生まれた。紀元前5世紀ごろの古代ギリシャの歴史書『アナバシス』や紀元前4世紀の歴史書『アレクサンドロス大王東征記』には、すでに階級らしきものができていた。

     そして、ローマ時代になってから、ポリュビリオスの『歴史』やユリウス・カエサルの『ガリア戦記』、タキトゥスの『同時代史』といった歴史書でより明確に階級が描かれるようになった。

     また、中国では、戦国時代から宋代の兵法書『司馬法』、『尉繚子』、『李衛公問対』に部隊の指揮系統と編制、その規模や人数(例えば、5人で『伍』、50人で『小戎』、200人で『卒』、2000人で『旅』、1万人で『軍』など)が細かく記されている。日本では701年の法典『大宝律令』、757年の同『養老律令』で官職官位制度が詳しく制定された。

     しかし、近代以前の指揮系統は階級というよりも役職としての性格が強く、またそれは王族、貴族、平民といった社会階層とリンクしていた。

     そのため、指揮官は能力よりも家柄などで選ばれることが多かった。産業革命まで、指揮官は貴族が任官していたため、例えばイギリス海軍では、フランス革命戦争(1792~1802年)以降、提督(将官)の階級を表すため、後にネイビーブルーと呼ばれる濃紺色のコートの袖に金の刺しゅうを施していた。

     その後、19世紀半ばに全士官に階級が導入され、下士官にも階級を示すため制服が支給されるようになった(それまでの下士官は、スロップと呼ばれる安価な既製品の衣服を艦船の請負業者から自費で購入していた)という。

     わが国では、徳川幕府が1850年代ごろからフランスやオランダといった西洋式の戦術を取り入れ、60年ごろに歩兵、騎兵、砲兵からなる陸軍が創設され、『老中(元帥)』、『若年寄(大将)』、『奉行(中将)』、『歩兵奉公(少将)』、『歩兵頭(大佐)』のもと、800人規模の連隊を配し、各指揮官は旗本、御家人など幕臣が務めた。

     明治維新後は近代的な軍隊の整備が行われ、69(明治2)年には将官を置き、翌年には佐官から尉官まで設置するなど、欧米式の階級が取り入れられた。

    階級の呼び名の由来はどこから?

     国によって最高位の階級を「元帥」としている場合があるが、同じような地位でも異なる呼び名を使う軍隊も存在する。

     なぜ、同じ階級でも名称が異なるのか? その背景には各国の軍事的な伝統や歴史、文化の違いが影響している。階級の呼び方とその由来について探ってみよう。

    指揮する部隊の規模を表した各階級の名称

    画像: 1805年に行われたイギリス軍とフランス軍による戦い「トラファルガーの海戦」終了後、息を引き取るネルソン提督を描いた絵画。制服を着用しているのは士官以上の階級がある船員

    1805年に行われたイギリス軍とフランス軍による戦い「トラファルガーの海戦」終了後、息を引き取るネルソン提督を描いた絵画。制服を着用しているのは士官以上の階級がある船員

     防衛大学校の相澤准教授は、「階級英語呼称の由来については諸説あり、例えばアメリカ空軍の『WHY IS COLONEL CALLED “KERNAL”』という古い小冊子にいろいろと興味深い記述がありますが、各階級の呼称は、陸軍は指揮する部隊規模に、海軍は指揮する艦艇の大小や隻数、艦内の役職などに対応するラテン語やフランス語などがその語源になっていて、後発の空軍は陸軍に倣ったとされています」と解説する。

     例えば「将軍(General)」は中世において広い所領を持ち社会的にも優位な立場にある将校に用いられ、陸・空軍の「大佐(Colonel)」は1000人規模の部隊を率いていたため、現在でもその呼び名が階級名として残っている。

     また、「中佐(Lieutenant)」はフランス語の「場所(Lieu)」と「保持する(Tenant)」からなり、隊長の代わりに部隊を指揮する人を意味する。

    「大尉(Captain)」は「頭」の意味のラテン語が語源で中隊の隊長を称した呼び方だ。その尉官の下がラテン語の「従者(Servant)」を語源とする「軍曹(Sergeant)」、当時の領主などは、個人的に私兵(傭兵)を用意していたことから、現在でも兵卒のことを「Private」と呼んでいる。

     以上の階級呼称はおもに陸・空軍のもので、一方海軍では「Captain」は大佐、「Lieutenant」が大尉と、同じ呼び方でも階級が異なっている。これは、イギリス海軍では、艦長は艦艇の指揮官であるため、艦艇内では中佐以下の階級であっても艦長であれば「Captain」と呼ばれていたためである。

     なお、将軍より上位に「元帥」という階級・職名があるが、これは戦時に軍の規模が拡大するときに任命されることが多く、平時では名誉称号となることがしばしばある。戦前の日本でも、功績があった大将に「元帥」が与えられ、その数は1898(明治31)年から1945(昭和20)年までに皇族が8人で皇族以外は22人だったが現在の自衛隊には「元帥」の階級はない。

    陸軍・海軍で呼び方が違う?アメリカ軍の各階級の呼び名

    画像: 陸軍・海軍で呼び方が違う?アメリカ軍の各階級の呼び名
    画像: アメリカ軍では、軍種ごとに階級が決められており、その呼び名も同じではない。自衛隊にはない「准将」や「上級曹長」という階級もあり、上級曹長内にも細かく階級が定められている 出典/アメリカ軍ホームページ 日本語訳/編集部

    アメリカ軍では、軍種ごとに階級が決められており、その呼び名も同じではない。自衛隊にはない「准将」や「上級曹長」という階級もあり、上級曹長内にも細かく階級が定められている 出典/アメリカ軍ホームページ 日本語訳/編集部

    伊藤3等写真 写真/編集部

    【伊藤3等空佐】
    防衛研究所 戦史研究センター安全保障政策史研究室所属。人事制度、ドクトリンや旧軍の戦史の研究を行っている

    【相澤輝昭准教授】
    海上自衛官として掃海艦『はちじょう』の艦長などを務めた。退官後は、外務省アジア太平洋州局地域政策課専門員、笹川平和財団海洋政策研究所特任研究員を歴任。2020年より防衛大学校准教授

    (MAMOR2024年12月号)

    <文/古里学 撮影/山田耕司 写真提供/防衛省>

    軍事階級を知れば自衛隊がよりよく分かる!

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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