•  日本を含むインド太平洋地域の国々に繁栄と安定をもたらすべく、日本が提唱した外交方針「自由で開かれたインド太平洋(略称:FOIP<Free and Open Indo-Pacific>)」。この方針に基づき24年6月に行われたのが「乗艦協力プログラム」である。

    「乗艦協力プログラム」は、毎年内容を変えて行われており、2024年度は6月20日にグアムを出港して26日に横須賀へ入港、そして東京、横浜でも研修を実施するトータル11日間のコースが組まれた。

     今回、護衛艦『いずも』に同乗したマモル特派員が、シップライダーたちの艦上生活や、各国からのゲストと『いずも』乗組員たちの交流についてレポートする。

    真剣な表情と、笑顔で楽しむ姿。乗艦協力プログラム参加者たちの艦上生活

    画像: 夜の自由時間に、広い格納庫を使ってランニング。残念ながら航海中飛行甲板上で運動することは禁止されていたが、それでもかなりの広さだ。乗組員に交じってランニングや腕立て、腹筋、けん垂などをするシップライダーの姿が見られた

    夜の自由時間に、広い格納庫を使ってランニング。残念ながら航海中飛行甲板上で運動することは禁止されていたが、それでもかなりの広さだ。乗組員に交じってランニングや腕立て、腹筋、けん垂などをするシップライダーの姿が見られた

     16カ国から集まった乗艦協力プログラム参加者(シップライダー)たちは、『いずも』艦上における各種研修やディスカッションなどの公式行事に参加するのはもちろん、防衛省や海上保安庁から参加したメンバー、さらには『いずも』乗組員たちと同じ時、空間を共有し、友好を深めた。彼らのオンとオフ、両方の姿を紹介しよう。

    セミナーやプレゼンなど学びと情報交換が中心に

    画像: 見張りの隊員が使う双眼鏡を借り、遠方に望む西之島を観察するシップライダー。興味深そうに交代しながら火山を眺めていた

    見張りの隊員が使う双眼鏡を借り、遠方に望む西之島を観察するシップライダー。興味深そうに交代しながら火山を眺めていた

     16カ国の海軍や海上警察部門などから集まったシップライダーたちの基本的なスケジュールは、乗組員同様6時に起床、身支度をし、朝食を取ることから始まる。7時30分に定例のミーティングを実施。1日のスケジュールや各自の体調を確認した後、8時からは午前のプログラムを、昼食を挟んで13時からは午後のプログラムを行う。

    画像: 「気候変動」や「リクルーティング」、「自分がこのプログラムを企画するなら」といった、気軽に話し合えるトピックをテーマにディスカッション。熱い議論を通じて、お互いの理解も深まっていったようだ

    「気候変動」や「リクルーティング」、「自分がこのプログラムを企画するなら」といった、気軽に話し合えるトピックをテーマにディスカッション。熱い議論を通じて、お互いの理解も深まっていったようだ

     具体的には、海洋法に関するセミナーや、各国ごとに自国の海洋安全保障上の課題を紹介するプレゼンテーション、テーマを決めて行うディスカッションが中心。ほかにも、防衛省や海上保安庁の取り組みを紹介するセミナーや、『いずも』の訓練や装備の見学、各種レクリエーションも行われた。

     印象に残ったのは、各国ごとのプレゼンでのこと。一部を除き、多くの参加国が予算や人員、装備などのリソース不足に悩んでおり、平素のパトロールすらできないなどの声もあった。

    画像: メンバー1人ずつ、自国海軍の現状や課題について発表するセッション。プレゼンの後は、活発な質疑応答が成され、歴史的経緯から微妙な関係同士であっても国という立場を超え、ストレートに意見を交換し合う姿に感動した

    メンバー1人ずつ、自国海軍の現状や課題について発表するセッション。プレゼンの後は、活発な質疑応答が成され、歴史的経緯から微妙な関係同士であっても国という立場を超え、ストレートに意見を交換し合う姿に感動した

     地域大国のオーストラリアをはじめ、アメリカ、中国、もちろん日本も防衛省、海上保安庁、民間の財団などが支援を行っているが、まだまだ不足しているという声も聞かれた。彼らの日本の支援に対する期待は非常に高く、友好関係を深めるためにも、特派員としてはぜひ支援を強化してほしいと感じた。

    各国共通の課題「IUU」とは

    画像: 航海中、伊豆諸島最南端に位置する奇岩、「孀婦岩」が見える海域で、甲板にて見学するシップライダー。あちこちで記念撮影が始まる

    航海中、伊豆諸島最南端に位置する奇岩、「孀婦岩」が見える海域で、甲板にて見学するシップライダー。あちこちで記念撮影が始まる

     さらに、各国共通の課題に挙がった「IUU」というキーワード。Illegal(違法)、Unreported(無報告)、Unregulated(無規制)の略で、「密漁」をはじめとする不法な漁業のことだ。水産資源管理や産地偽装の問題などにも大きく関わるIUU。

     日本でも22年12月に施行された「水産流通適正化法」などにより、適法に漁獲された水産物のみを国内に入れるように努めているが、漁業が産業の大部分を担う各国にとって、IUUの取り締まりは大きな課題。

     先に紹介したリソース不足が問題に拍車をかけているといい、海に生かされている私たち日本人も、彼らと共に課題を解決していかねばならないだろう。

    艦上生活における一番の楽しみは「食事」

    画像: 調理の責任者、給養員長のイチ推しメニュー、ちゃんぽんに舌鼓を打つシップライダーたち。中には宗教上食べられないものがあるメンバーもいたが、食材を変えるなどメニューも工夫されている

    調理の責任者、給養員長のイチ推しメニュー、ちゃんぽんに舌鼓を打つシップライダーたち。中には宗教上食べられないものがあるメンバーもいたが、食材を変えるなどメニューも工夫されている

     さて、シップライダーたちに聞くと、艦上生活における一番の楽しみは、やはり「食事」だという。宗教上の制約で食べられないものもあるはずだが、その点については全ての人に食事を楽しんでもらえるよう、材料を分けるなど工夫がなされていた。

     また、配食の際にはアレルゲンも含め、豚肉など、注意すべき原材料が入っているかどうか、一目で分かるような表示も。メニューは、航海中に定番のカレーはもちろん、ちゃんぽんやクリームパスタ、ネギトロ丼など、バリエーション豊か。シップライダーたちも喜んでいた。

     食事作りを担当する給養員に聞いたところ、「普段から食品アレルギーのある隊員にも対応しており、そこまで特別なことをしたわけではない」とのことだが、それでも普段以上に気を配っているに違いない。

    画像: 全プログラムの終了を記念して、石寺艦長(左)から賞状と記念品をシップライダー(中央)に贈呈。伊藤先任伍長(右)と共に記念撮影

    全プログラムの終了を記念して、石寺艦長(左)から賞状と記念品をシップライダー(中央)に贈呈。伊藤先任伍長(右)と共に記念撮影

     また、艦内でシップライダーが自由に礼拝できるよう、専用の部屋を1室設けたそうで、配慮が行き届いていた。

    (MAMOR2024年11月号)

    <文・写真/臼井総理>

    マモル特派員が見た笑顔あふれる艦上交流

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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