全ての自衛隊の航空機の運用に関わる情報の収集・提供を一手に引き受ける飛行情報隊。その飛行情報隊が担う重要な任務の一つが、ノータム中継業務だ。
「ノータム(NOTAM)」とは「Notice To Airmen」の略で「航空従事者への通知」を意味する。パイロットなどが航空機を運航する際に必要な航空情報で、飛行場やその周辺地域での特異な状況を知らせるためのデータだ。
ノータムには、飛行場の滑走路の閉鎖や、周辺でドローンの飛行がある場合などに発行。その日にちや時間、場所、影響する高度などの情報が、「FLT(飛行)」や「RWY(滑走路)」、「TWY(誘導路)」、「PSN(場所)」などの略語で記されている。
各飛行場が作成したノータムを審査
ノータム班 石川3曹 「飛行運用の一助になれるように頑張ります!」
自動車を安全に運転するためには、刻々と変化する道路状況などをドライバーが把握する必要がある。交通事故や渋滞、気象情報を知らせる道路情報板や高速道路のハイウェイラジオなどはそのためにある。
同じように、飛行場やその周辺の状況に変化や特記事項がある場合には、それを逐次、航空機を運航するパイロットなどの航空従事者に通知しなければならない。道路情報板やハイウェイラジオに相当するのが、パイロットにとってのノータムなのだ。
ノータムは民間空港を含む日本国内の各飛行場の担当部署が状況の変化に合わせて作成し、それを成田国際空港内の国土交通省航空局航空情報センター(AISセンター)が一元的に管理・発行をしている。自衛隊においては、陸・海・空各自衛隊の各飛行場の担当部署が作成し、飛行情報隊の「ノータム・センター」へ通報する。
ノータム・センターはこの通報を受け、ノータムの内容を審査し、AISセンターを通じて全国に発信している。各自衛隊から送られてきたノータムが規定のフォーマットにのっとっているか、決められた記載方法、例えば略語に誤りがないかなどをチェックし、間違いがあれば部隊に知らせ、修正を指示する。
そのほかにも、国交省やアメリカ軍が発行したノータムを自衛隊で閲覧できるように、省庁間でノータムの交換を行う業務も担当。さらに、訓練や演習などで自衛隊の航空機が国外で運航される際には、運航に必要な海外の飛行場などのノータムを収集・提供するのも重要な任務の1つだ。
ノータム班のおおまかな作業の流れ
「最新の空の交通情報」ともいえるノータムを点検し、ミスがあれば作成した部隊への指導を行うノータム班。その年中無休の仕事の全体の流れを、ここで紹介しよう。
(1)1年365日24時間体制で送付されたノータムを審査

ノータムセンターに「ジャララーン」と電子音が鳴り響くと、真剣な表情で席に着き、ノータムの内容を確認する隊員
ノータムセンターにコンピュータの起動時のような電子音が鳴り響く。陸・海・空各自衛隊の飛行場が作成したノータムの審査依頼が送付されてきた合図だ。ノータム班の3人の隊員たちは、すぐに送られてきたノータムのデータが表示された専用端末のモニターに集中。全員が同時に、ノータムの記述のトリプルチェックを開始。
ノータムセンターは24時間体制で運用。ノータム班の隊員は、午前8時15分から午後5時までの日勤と、午後5時から翌朝の午前8時15分までの夜勤の交代制で任務に就いている。航空機の運航に必要な情報を管理する「飛行管理情報処理システム(FADP)」の端末に頻繁に届くノータムを、班員たちは1年365日、休まずチェックしているのだ。
(2)ノータムの記載方法や日付などに誤りがないか3人でチェックする

情報に間違いがあれば航空機の大事故に発展しかねないため、緊張の面持ちで確認する
チェックの対象となるノータムは、主に自衛隊が管轄する飛行場のある部隊、例えば陸自の丘珠駐屯地(北海道)や海自の鹿屋航空基地(鹿児島県)、空自の千歳基地(北海道)などから送られてくる。
ノータムには、それらの飛行場が、どのような状況になるのかが、その理由と期間とともに、国際民間航空条約で定められた記載方法で記述されている。ノータム班では、その記載方法に誤りや記載漏れがないかなどをチェックするのだ。
(3)ミスがあれば修正と再発行を指示しAISセンターへ送付する
先方の部隊にノータムの記載方法や訂正方法について、分かりやすく、丁寧に伝える
ノータムの記載にミスがあった場合は、ノータムを作成した部隊へ修正と再発行を依頼。その際、電話で記載方法のアドバイスを行い、質問にも答えるなど、丁寧な対応をしている。修正済みのノータムは問題がなければ、主管庁である国土交通省のAISセンターへ送信。AISセンターでノータムが承認され、発行されると、各空港事務所や航空会社へ、またFADPを経由して自衛隊の飛行場などへと発信される。
隊員に聞きました!
発行部隊への連絡では丁寧な対応を心掛ける
重要な情報を扱うことに不安があったという藏本2曹。「でも、先輩方からの指導のおかげでこれまでやってこれました」
藏本2等空曹は、「ノータムを作成する部隊が記載方法に迷った際は、相手が理解しやすいように具体的な指示を出して分かるまで親身になって話すことを心掛けています。そうした気配りを続けてきた結果なのでしょうか、ある部隊の隊員に私の名前を覚えてもらい、その隊員から名指しで相談の依頼が来たときは、うれしくて、この任務にやりがいを感じました」
重要な任務に就いていると日々強く認識している
第5術科学校で飛行管理員の育成を行っていたという岩崎1曹。「今後も後輩の育成には携わっていきたい」と話す
岩崎1等空曹は、飛行情報隊のノータム班に配属されたとき、「航空機の運航に直結する重要な任務に就くことになる」と、強く思ったという。
「飛行情報隊は、空自の部隊ではあっても、近くに滑走路があって普段から航空機を目にする部隊ではありません。ですが、ノータム班の隊員として、パイロットにとって欠かせないノータムという情報を通して、航空機の安全な運航に寄与できる重要な部隊であると、常に感じています」
<文/魚本拓 写真/星亘(扶桑社)>
(MAMOR2024年10月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです