日進月歩の科学技術。ライト兄弟がグライダーを1902年に試作して以来、今日まで航空機は日々、進化を遂げている。自衛隊の航空機も防衛能力を向上させるための研究・開発がなされている。
明日の日本を守る挑戦者たちによる“プロジェクトX”なのだ。
その一翼を担うのが、開発途上の試作機を操縦するテストパイロット。私たちが知らないところで輝く挑戦者たちを紹介しよう。
国防の未来へ向かって最前線で戦う! 自衛隊テストパイロット・アルバム
テレビのバラエティ番組などで、自衛隊の戦車や戦闘機などが紹介されることが増えている。しかし、自衛隊にテストパイロットがいることを知る人は少ないのでは?
そのミッション、ポリシー、プライドを知るため、国防の未来に挑戦する2人に語っていただく。
成田3等陸佐:「先駆躍進・部隊のために」。少しでも良い装備品を部隊へ届ける

(写真提供/防衛省)
【陸上自衛隊飛行実験隊テストパイロット 成田3等陸佐】
帯広駐屯地(北海道)や丘珠駐屯地(北海道)にてパイロットとして勤務。2019年に海上自衛隊のTPC課程を修了。明野駐屯地(三重県)で計測解析班長として試験に携わる
「私がテストパイロットを志したのは、次期戦闘ヘリコプター開発の計画を耳にし、ぜひそれに参加したいと思ったのがきっかけです。
陸上自衛隊には、テストパイロットを養成するコースがありませんので、私は海上自衛隊厚木基地で行われる『幹部専修科飛行試験課程』に入校しました。海自の同期7人とともに、家族と一緒にいるより多くの時間を共にし、自衛官人生の中でもとても貴重な経験ができたことが最も印象に残っています。
今でも同期とは仕事上の情報交換などで連絡を取り合っており、互いの任地近くに赴いた際には会うなどして交流を続けています。
教育課程で一番覚えているのは、『定性評価実習』という課目で、さまざまな航空機に搭乗し、教官同乗ではありますが実際に操縦できたことです。この中で、陸・海・空各自衛隊が保有するほぼ全ての航空機の操縦かんを握り、知見を得たことは大きかったですね。
特にT-4は印象深い機体でした。もともとヘリコプターを操縦していた私がジェット機に搭乗することは今後ないと思いますし、ジェット機特有の高速で空を駆ける感覚を肌で感じられました」

(写真提供/防衛省)
「テストパイロットといっても、一般部隊でフライトに臨むパイロットと、その姿勢は基本的に変わりません。一方で、私たちにしかできない仕事、装備の開発や改良のためのフライトという点では、飛行実験隊のスローガンである『先駆躍進・部隊のために』という言葉を胸に、少しでもよい装備品を部隊に届けられるよう、使命感を持って任務に取り組んでいます。
テストパイロットを目指すきっかけとなった次期戦闘ヘリコプター開発には参加できませんでしたが、将来的には、新機種開発に携わりたいという思いが強く、いつかは実現したいと思います。今後も、パイロットと技術者の架け橋、通訳者として日々まい進します」
庄司3等空佐:テストパイロットは「精度」が違う。正確なデータ取得のために腕を磨く

【航空自衛隊飛行開発実験団テストパイロット 庄司3等空佐】
岐阜基地(岐阜県)の飛行開発実験団に勤務。F‐4EJのパイロットとして百里基地(茨城県)で勤務していたが、F‐4EJの全機退役とともにテストパイロットの道に進む
「操縦していたF-4EJが全機退役するにあたり、異動先の希望を考えたとき「せっかくならいろいろな航空機に乗りたい」と考え、テストパイロットを志しました。教育期間中には陸・海・空各自衛隊のさまざまな航空機を操縦できますし、実任務に入ってからも、複数の機種に乗れるのは、テストパイロットならではの役得です。
一般のパイロットとの違いは、部隊では『戦技』つまり、敵航空機と戦うための技術を磨くのに対して、テストパイロットは『運航』、航空機を飛ばすこと自体に特化した能力が必要です。例えば、航空機の限界をテストするため、性能のギリギリである極端な低速・高速など、通常の任務では踏み入らない、未知の領域で航空機、装備品を試します。
飛行機を飛ばす技術の中でも、テストパイロットの場合、求められる「精度」が高いのです。それは、正確なデータを取得するため。操縦かんをミリ単位で操作し、決められた測定基準、条件に合わせて、寸分の狂いもない飛行をしなければならず、神経を使います」

「また、テストパイロットは安全が確立されていない部分でのフライトも行うため、危険要因を事前にできるだけ解消し、万全の態勢でテストフライトに臨むことが求められます。そのため、テストパイロットは『臆病なほうがいい』と私は考えています。本当の危険が迫る前に止める判断ができることも、大事な素養だからです。
事前のシミュレーションでは想定されていなかった現象が発生した際に、まず『気にすべきことか、そうではないことか』を判断した上で、詳しく伝えるのもテストパイロットの仕事。フライトで得たデータ、感覚をもとに、運用者の側に立った意見を伝えることは、私たちにしかできない、とても大切な仕事です」
(MAMOR2024年9月号)
<文/臼井総理 写真/山田耕司(扶桑社、空自隊員) 写真提供/防衛省>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです