•  日進月歩の科学技術。ライト兄弟がグライダーを1902年に試作して以来、今日まで航空機は日々、進化を遂げている。自衛隊の航空機も防衛能力を向上させるための研究・開発がなされている。

     明日の日本を守る挑戦者たちによる“プロジェクトX”なのだ。

     その一翼を担うのが、開発途上の試作機を操縦するテストパイロット。私たちが知らないところで輝く挑戦者たちを紹介しよう。

    国防の未来へ向かって最前線で戦う!自衛隊テストパイロット・アルバム

     テレビのバラエティ番組などで、自衛隊の戦車や戦闘機などが紹介されることが増えている。しかし、自衛隊にテストパイロットがいることを知る人は少ないのでは? 

     そのミッション、ポリシー、プライドを知るため、国防の未来に挑戦する5人に語っていただく。

    石井3等空佐:地上での徹底した準備なくして、テストフライトの成功なし

    画像1: 石井3等空佐:地上での徹底した準備なくして、テストフライトの成功なし

    【航空自衛隊飛行開発実験団テストパイロット 石井3等空佐】
    岐阜基地(岐阜県)にて、航空機の開発・試験を行う航空自衛隊飛行開発実験団で飛行隊総括班長付として勤務。テストパイロットになる前はF-15のパイロットとして千歳基地(北海道)で勤務していた 

    「テストパイロットの醍醐味は、誰も踏み入れたことのない『未知の領域』にチャレンジできることです。機体の制限ギリギリ、これ以上いくと壊れるという所まで攻められるのは、パイロットの中でも私たちだけ。性能の限界が迫ると、普段では感じられない操縦特性の変化……例えば舵の利き具合が変わるとか、異常な振動が出るなどします。そうした事態にも冷静に対処し、発生した現象を分析できなければいけません。

     私が主に担当する『戦闘機』は、わずかな操作でも機体が反応します。乗用車とフォーミュラカーでハンドル操作が異なるのと同じです。その敏感な戦闘機を、高度1フィート(約30センチメートル)、速度1ノット(時速約1.8キロメートル)の単位で繊細にコントロールする技術が求められるのが、テストパイロットです。

     さらに、操作が繊細で難しいだけではなく、1回のテストフライトの『重み』も、私たちの任務ならではといえます。テストフライトは、だいたい一発勝負。1つのミスでデータが台無しになり、装備品の開発が遅れてしまう可能性もあり、とても緊張します。

     しかし、離陸してしまえばあとは『さあ、やってやる』という前向きな気持ちで操縦かんを握っています」

    画像2: 石井3等空佐:地上での徹底した準備なくして、テストフライトの成功なし

    「実際のところ、テストフライトの成否は、地上で事前に行う準備にかかっています。95パーセントは、準備の良しあしが占めているといっても過言ではありません。十分な地上準備なくして、任務達成はあり得ないのです。残りの5パーセントが、天気や、自分のメンタルなどです。

     トラブルも織り込みながら、入念にイメージトレーニングを繰り返し、任務に臨んでいます。自分としては、パイロットとして完璧だとは思いません。常に反省しながら、より高みを目指して努力を続けます」

    田代2等海佐:操縦に秀でているだけでなく、広い知見も求められます

    画像1: 田代2等海佐:操縦に秀でているだけでなく、広い知見も求められます

    【海上自衛隊第51航空隊テストパイロット 田代2等海佐】
    厚木基地(神奈川県)にて第51航空隊でSH-60L作業室長として勤務。過去に同部隊に配属され、先輩の姿を見てテストパイロットを志した

    「私は、テストパイロット資格を得る前から、XSH‐60L、現在のSH‐60Lの開発に関わりがありました。新型機の開発に参加できたのは非常に幸運でうれしいことです。

     しかし、作業量も多く大変です。やる気だけでは回りません。テストパイロットとして自ら操縦もしますが、実際は裏方仕事のほうが多く、開発後半には、『自分で飛ばしたいという思いを抑えて、ほかのパイロットに飛んでもらうために全力でサポートする』という、ある種苦しい決断もしなくてはなりませんでした。

     SH‐60Lは、現在の主力哨戒ヘリであるSH‐60Kと外観上の違いはほとんどありません。しかし、高性能化された飛行制御システムや操縦席のディスプレーなど、中身は大きく進化しています。

     現在、航空機や装備品の開発には、航空工学だけではなく材料工学、電子工学、IT分野などさまざまなジャンルの技術が関わってきます。機体やエンジンの性能だけではなく、搭載される電子機器や通信機器も重要となります」

    画像2: 田代2等海佐:操縦に秀でているだけでなく、広い知見も求められます

    「テストパイロットも操縦に秀でているだけではなく、あらゆる分野の技術、開発手法などに精通し、任務への理解はもちろん、システムへの理解や広い知見を持っていなければなりません。私も、常にインプットすること、学ぶことを心がけています。

     やりがいや面白みとしては、自分の意見を装備品に反映させられること。装備品に任務遂行能力を与えたり、今ある装備品をより改善することができたりします。その分、求められることも多く、テストパイロットは、とても難しい、だからこそ面白い。生涯ものづくりに関わりたいと思わせてくれる、いい仕事ですよ」

    江口2等海佐:テストパイロットとして大切なこと。「常に耳を傾け、謙虚であれ」

    画像: 江口2等海佐:テストパイロットとして大切なこと。「常に耳を傾け、謙虚であれ」

    【海上自衛隊第51航空隊テストパイロット 江口2等海佐】
    厚木基地(神奈川県)にて、航空機の開発・試験を行う第51航空隊で課程教育班長として勤務。P-3Cのパイロットを経て、テストパイロットの道へ進んだ

    「テストパイロットを目指したのは、誰もが経験できないことに挑戦し、新たな経験をすることが好きで、何事も『極める』のが好きだったから。とても大変そうだけどやりがいのある仕事だからこそ興味が湧きました。

     テストパイロットの資格を取ってからは、主にP‐1関連の試験を担当しました。特に思い出深いのは、P‐1を運航する際に必要な確認項目のリスト、いわゆる「チェックリスト」を大幅に見直したことです。

     一例を挙げると、P‐3Cではエンジンスタート時に25あった項目を、P‐1では6つに減らしました。もちろん、フライトの安全には支障がないように、です。これは、機体システムの自動化や、民間航空会社で用いられていたチェック手法を取り入れることなどで実現しました。安全により短時間で離陸可能となり、災害や有事の際にも役立つと自負しています。

     新チェックリストの導入前にはパイロットたちの聞き取りの中で反対意見や『ほかに改善すべきことがあるだろう』という意見もありましたが、1つひとつ不満や疑問に対し膝詰めで話し合い、対応することで全パイロットの意見をとりまとめ、導入に至りました。今、P‐1が安全に運航できていること、それ自体が私の達成感につながっています」

    画像: 厚木基地(神奈川県)にて、航空機の開発・試験を行う第51航空隊で課程教育班長として勤務。P-3Cのパイロットを経て、テストパイロットの道へ進んだ

    厚木基地(神奈川県)にて、航空機の開発・試験を行う第51航空隊で課程教育班長として勤務。P-3Cのパイロットを経て、テストパイロットの道へ進んだ

    「ほかには、P‐1から敵艦艇に向けて発射するミサイルの発射試験に携わったことも印象深いですね。ミサイルの発射と、その撮影を行うのですが、非常に緊張感ある試験だったことを覚えています。

     テストパイロットに大切なのは、『謙虚であること』。自信過剰な者は、恐れを知らず、越えてはいけない限界を超えてしまうかもしれない。自信は持っても、過信してはダメ。さまざまな人の意見を聞けて、怖さを知っていること。これが第一です」

    (MAMOR2024年9月号)

    自衛隊・空の挑戦者たち

    <文/臼井総理 写真/山田耕司(扶桑社、空自隊員)、星亘(扶桑社、海自隊員)>

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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