•  日々、厳しい任務に取り組む自衛隊員の健康と鋭気を生み出す隊員食堂。本誌マモルでは連載ページ「隊員食堂」で全国の隊員食堂の自慢メニューを紹介しているが、本記事では、その調理場に注目!今回は需品学校教育の野外炊事所に潜入してみた。

    画像: 火や刃物を扱う野外炊事所の中では、隊員同士の接触による危険を避けるため、作業中の隊員の後ろを通るときは必ず声かけを行っているという

    火や刃物を扱う野外炊事所の中では、隊員同士の接触による危険を避けるため、作業中の隊員の後ろを通るときは必ず声かけを行っているという

    野戦場を移動しながら食事を作る

    画像: 炊事用の天幕で覆われた野外炊事所。夜間は明かりが外に漏れないよう処置をする

    炊事用の天幕で覆われた野外炊事所。夜間は明かりが外に漏れないよう処置をする

     陸上自衛隊にはアウトドアで食事を作る訓練があるという。陸自唯一の調理専門課程である需品学校初級陸曹特技課程「給養」の、その名も野外調理訓練だ。その最終の総合訓練となる「組訓練」では、組長1人と組員5人の計6人が1班となり、陣地にいる中隊の人数分の食事を作る。

    画像: 調理中に、陣地上空へ敵航空機が飛来したという状況。組長の指示で、組員は防護マスクを装着。あらかじめ掘ってあった「退避壕」に避難し、小銃を構えて周囲を警戒する

    調理中に、陣地上空へ敵航空機が飛来したという状況。組長の指示で、組員は防護マスクを装着。あらかじめ掘ってあった「退避壕」に避難し、小銃を構えて周囲を警戒する

     屋外で料理を作るというと、レジャーとしてのキャンプ飯などを想像しがちだが、自衛隊の場合は敵の砲弾が飛び交う野戦場を想定しており、訓練ではさまざまな厳しい状況が与えられる。使用される調理用の装備品である野外炊具1号(22改)は、45分以内に200食分の主食と副食を同時に調理する能力がある。まずはこれに擬装を施し、中隊がいる陣地に進入。

     野外炊事所の場所を決めたら、炊事車のタイヤが接地する土を掘り、高さのある炊事車を低くして、作業をしやすくしてから炊事車を展開する。全体を天幕で覆い、作業台や冷凍冷蔵庫、シンク、食材、調理器具などを所定の位置に設置したら、いよいよ調理作業が始まる。

    スムーズな調理ができるようさまざまな工夫がなされている

    画像: 残菜を一時的に保管する「残菜置場」を設置する隊員。訓練を行う演習場には野生のイノシシが生息しているため、イノシシに荒らされないよう、穴を掘って容器を埋めたら、囲いで覆う

    残菜を一時的に保管する「残菜置場」を設置する隊員。訓練を行う演習場には野生のイノシシが生息しているため、イノシシに荒らされないよう、穴を掘って容器を埋めたら、囲いで覆う

     野外において大量調理をスムーズに進行するには、事前の準備が重要だ。まずは組長が作成した業務予定表や作業工程表を確認する事前ミーティングを行い、各人の任務を明確化しておく。

     屋外では衛生管理が困難なため、肉と野菜を切るときは同じまな板を使用しないよう色分けされているが、どうしても1枚のまな板を使用しなければならないときは最初に野菜、肉は最後といったルールを徹底。

     水の使用も制限されるため、食器や調理器具を洗う場所はつけ置き洗い場、洗い場、すすぎ場の3つに分け、水を垂れ流さないようにしている。残飯も衛生確保や鳥獣を招くのを避けるため厳重に保管するが、野菜の皮はだし汁に使ったり、細かく刻んで料理に入れるなど、何より残飯が極力発生しないよう工夫している。

    砲弾が飛び交おうとも温かい食事を作り続ける

    画像: 退避前に組長から「火を消せ!」、「まな板と包丁をしまえ!」といった指示が飛び、対応する組員。使用中のまな板、包丁はポリ袋をかぶせて収納、食材はラップで覆われる

    退避前に組長から「火を消せ!」、「まな板と包丁をしまえ!」といった指示が飛び、対応する組員。使用中のまな板、包丁はポリ袋をかぶせて収納、食材はラップで覆われる

     需品学校教育部技術教育科の教官である白鳥2等陸曹によると、たとえ航空攻撃を受けたとしても、食事は時間通りに部隊に届けなければならないという。

    画像: 敵航空機が去ったという状況。組長が組員の安全を確認すると、炊事所に戻って調理は再開。トンカツを揚げる隊員ら

    敵航空機が去ったという状況。組長が組員の安全を確認すると、炊事所に戻って調理は再開。トンカツを揚げる隊員ら

     攻撃があった場合には、調理にあたる隊員も対特殊攻撃用の防護マスクを着用し、調理器材の消火や器具の片付けをして退避、警戒を行う。

    出来上がったのはポークカレーにトンカツに卵とワカメのスープ。屋外の食事とは思えないごちそうだ。食器にはポリ袋をかぶせ、洗わなくて済む工夫が施されている

     組長は与えられた時間の中で、さまざまな状況判断を迫られる。そうした困難をもかいくぐって作られたカレーやトンカツ、スープなどが、前線で戦う部隊に温かいまま届けられるのだ。

    野外調理訓練のお勧めメニューを白鳥2曹に聞くと、「もちろんカレー。夏は酢の酸味がサッパリとして夏バテ防止にもなる豚肉の揚げびたしも人気ですね」写真提供/防衛省

    「普段は当たり前のように思いがちな温かい食事も、こうした厳しい環境で食べるとそのありがたみを実感できます。災害派遣や長期の野外訓練を体験した自衛官は、誰もがそう思っているでしょう。いかなる場所においても、部隊の士気を高める料理を作れる隊員を育成することが、教官としての私の使命だと思っています」

    (MAMOR2024年10月号)

    <文/古里学 撮影/村上淳 写真提供/防衛省>

    「隊員食堂」の調理場に潜入!

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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