•  日々、厳しい任務に取り組む自衛隊員の健康と鋭気を生み出す隊員食堂。本誌マモルでは連載ページ「隊員食堂」で全国の隊員食堂の自慢メニューを紹介しているが、本記事では、その調理場に注目!今回は潜水艦『たいげい』の調理場に潜入してみた。

    狭いスペースで静かに料理を作る、潜水艦『たいげい』の調理場

    画像: 調理器具などはつるして収納し、狭い調理場を最大限広く使用する工夫が見られる。それでも給養員2人がすれ違えるギリギリのスペースだ 撮影/星 亘(扶桑社)

    調理器具などはつるして収納し、狭い調理場を最大限広く使用する工夫が見られる。それでも給養員2人がすれ違えるギリギリのスペースだ 撮影/星 亘(扶桑社)

     2022年に就役した海上自衛隊の最新鋭の潜水艦『たいげい』。基準排水量約3000トン、全長84メートルという大型艦ながら、リチウムイオン蓄電池を搭載することで静穏性に優れ、長時間浮上することなく潜航することができる。潜水艦の艦内は、場合によっては魚雷の横に寝ることもあるくらい、とにかく狭い。

     また音を発すると、敵に自らの存在を暴露してしまうので、艦内の床にはゴムや柔らかいじゅうたんが敷き詰められており、乗員も革靴ではなく運動靴を履くなど、静粛性には徹底的にこだわっている。その『たいげい』の調理の現場はどうなっているのだろうか。

    画像: 狭いスペースで静かに料理を作る、潜水艦『たいげい』の調理場

    【『たいげい』科員食堂情報】
    喫食数/約70食
    特徴/4卓のテーブルで最大16人が食事できる。天井が低くやや暗めだが、旧型の潜水艦よりは広く明るい
    雰囲気/階級に関係なく、皆で和気あいあいと食事を楽しんでいる
    人気メニュー/カレーや麺料理。中でも黒ごま担々まぜそばとラーメン

    限られたスペースと環境で調理する工夫

    画像: 狭い作業台で手際よく食材を切っていく給養員。潜水艦では、時にまな板の下にゴム製のマットを敷いてゆっくり包丁を入れる。切る音を抑えるねらいがあるそうだ

    狭い作業台で手際よく食材を切っていく給養員。潜水艦では、時にまな板の下にゴム製のマットを敷いてゆっくり包丁を入れる。切る音を抑えるねらいがあるそうだ

     潜水艦において、乗員の胃袋を満たしているのは給養員だけではない。経理、補給、衛生といったほかのパートの隊員も職種に関係なく調理作業を担う。出港中の食事は、乗員が6時間の3直3交代制勤務なのに合わせ6時間ごとに提供する。

     その日に使用する食材の洗浄や裁断などの下準備は、前日の夜勤の給養員が担当。潜水艦の中は火気厳禁であるため、旧軍時代から電気調理器具が導入されていたが、『たいげい』でもガスは使用せずオール電化だ。ハンドブレンダーやフードプロセッサー、電子レンジなど手間を省く調理器具を活用し、少人数で短時間で手際よく調理ができるようにしている。

    「自分の技術や経験を後輩に伝え、さまざまな制限にも柔軟に対応できる一人前の潜水艦給養員を増やすべく、育成にも励みたいと思います」と、先々のことも考えている木村2曹

    「ただし任務状況によっては、電動器具の使用が制限され、全てが手作業での調理となります」と苦労を語るのは、給養員長の木村2等海曹だ。

     スペースが限られている艦内では、ジャガイモやタマネギなどの常温保存が可能な野菜は、いくつもの穴が開いている食堂内の箱型のいすの中に収納する。それでも長い航海の後半になると新鮮な食材は減っていき、冷凍食品やレトルト食が増えていくのは致し方ないところだ。

    潜水艦で出されるメシはおいしいと評判

    画像: 『たいげい』が誇る、絶品カレーを味わい、英気を養う乗組員たち

    『たいげい』が誇る、絶品カレーを味わい、英気を養う乗組員たち

     食事だけでなく会議室や娯楽室としても使われる科員(隊員)食堂は、艦内の中ほどにある。

     4人掛けのテーブルが4卓あって最大16人が食事でき、旧型の潜水艦に比べれば明るくて広いという。揺れても食器が落ちないよう、可動式の板がせり上がってテーブルに柵ができるのは、艦艇全般の特徴といえよう。

     世界的に見て、厳しい環境から生じるストレスを解消するために海軍の、とりわけ潜水艦で出されるメシはうまいといわれている。

    画像: 食堂のいすは、座面がふたのように開き、中にタマネギやジャガイモなどを保管することができる。貴重なスペースを無駄にしない艦艇ならではの知恵といえる 撮影/星 亘(扶桑社)

    食堂のいすは、座面がふたのように開き、中にタマネギやジャガイモなどを保管することができる。貴重なスペースを無駄にしない艦艇ならではの知恵といえる 撮影/星 亘(扶桑社)

     自衛隊も例外ではなく、海自では“金曜にカレー”が有名だが、あまたある海自カレーの中でも潜水艦のカレーはナンバーワンと評価が高い。もちろん木村2曹のイチ推しメニューもカレー。具材や味付けを工夫して何度食べても飽きがこないように考えながら作っているそうだ。

     また麺類も人気が高く、一番人気の「黒ごま担々まぜそば」には乗組員からリクエストの声が多く寄せられているのだとか。そんな給養員らは、1人でも欠けると作業の負担が大きくなるので、体調管理には人一倍気を配っているという。

    (MAMOR2024年10月号)

    <文/古里学 写真提供/防衛省>

    「隊員食堂」の調理場に潜入!

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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