•  陸上自衛隊の「施設科」とは軍隊における工兵部隊を指す。陣地の構築、地雷などの障害の構成・処理、道路や橋の構築などを行う技術者集団だ。

     勝田駐屯地(茨城県)にある施設学校には、施設科部隊の任務に必要な技術、知識を習得するための教育訓練と部隊運用のための調査・研究を行う唯一の専門教育機関として、年間約1000人が入校する。

     今回は、施設学校の「橋を作る、渡す」任務に関わる教育を紹介しよう。駐屯地の訓練場で行われていたのは、河川に橋を作り、車両や人員を渡す渡河訓練。92式浮橋による「重門橋構築・運航訓練」を“授業参観”した。

    50トンの戦車を積載できる92式浮橋の構築・運航訓練

     陸上自衛隊の主力戦車である90式戦車の重量は約50トン。それを積載または通行できる架橋器材が92式浮橋だ。構成は、浮橋本体である橋間橋節(フロート)と、その両端に接続し車両が陸上から乗り込めるよう接地面の高さを調節できる橋端橋節、橋節を固定し水上を移動させる動力ボートからなる。

     重量のある装備品を搭載した際の浮力を維持するため、フロート3台と橋端橋節2台、動力ボート2隻を1セットとして運用する。

     今回の訓練は、施設学校で教育や研究の支援にあたる施設教導隊の若手隊員に対し、92式浮橋の展開と車両を積載した状態で水上運航の技術向上を図るもの。最初に装備品を積載した運搬用トラックを川べりに近付け荷台を傾斜。

     すると橋節がスライドして水上に投下され、着水した瞬間に自動的に展開していった。

    装備品展開

    画像: 装備品展開

     訓練で使用する橋端橋節2台、橋間橋節3台と動力ボート2隻。それぞれ運搬用のトラックに積載して移動する。

    フロートを投入

    画像: フロートを投入

     運搬用トラックの荷台が傾き、装備品がスライドしていく。隊員はトラックの周囲で配置につき、安全を確認しながら投入する。

    フロートの展開

    画像: フロートの展開

     橋端橋節と橋間橋節は着水の衝撃で自動的に展開。撤収時はクレーンで中心部を引き上げると両端が閉じる。

    全施設科隊員の模範。教導隊による熟練の技

     装備品が着水すると隊員たちは動力ボートやロープを使い手際よく連結。3台のフロートと2台の橋節による約36.5メートルの浮橋を約1時間で架設した。

     続けてフロートの上に車両を積載し、動力ボートで水上を航行。2隻のボートは橋上の隊員の手旗による指示で直進、停止、旋回を繰り返す。その後橋節の連結を外し、展開時の逆の手順でトラックに積載し、訓練は終了。

    架橋班長として部隊を指揮するのは難しかったという柴山2曹。「広い視野で物事を見るよう心掛けています」

     施設教導隊架橋中隊の架橋班長である柴山2等陸曹は「教導隊の隊員は、施設学校の学生の模範にならなくてはいけません。安全かつ正確に、限られた時間で浮橋を構築することが求められます」と話す。

    小隊長として訓練を指揮した中村3等陸尉。「1カ所にとどまる渡河作戦は敵から狙われやすい。迅速な展開・離脱が課題です」

     小隊長の中村3尉もこう訓練を総括した。「今日の出来は70点から80点。確実さは評価できますが、連携や迅速さなど精度を上げていくことが大切です」。

    フロートを接合

    画像: フロートを接合

     展開した橋節をロープで慎重かつ迅速に連結する。橋節の大きさは全長7.5メートル、全幅4メートルある。

    動力ボートの展開

    画像: 動力ボートの展開

     フロートが川の流れで動かないよう動力ボートで支える。動力ボートの船首には、橋を押すためのバンパーが付いている。

    杭を打つ

    画像: 杭を打つ

     車両など重量のある装備品を搭載する際の衝撃でフロートが流されないよう、地面に杭を打ち込み、ロープでつなぎとめる。

    スロープ作製

    画像: スロープ作製

     橋端橋節が陸地と接するサイドはジャッキで高さ調整。さらに土のうを積み、川岸の地面との隙間を調整する。

    車両搭載

    画像: 車両搭載

     構築し終わった橋端橋節にトラックが進出する。河川敷は地面が軟らかいため、車両がスタックしないようマットを敷設する。

    ボート起動、浮橋展開

    画像: ボート起動、浮橋展開

     展開した浮橋を動かす際は手旗で指示をする。単純な旗の動きで2隻の動力ボートをタイミングよく動かすのは熟練の技が必要だ。

    92式浮橋の機動訓練

    画像: 92式浮橋の機動訓練

     対岸に架橋できる場所がない場合、車両を搭載した浮橋ごとボートで移動させる。92式浮橋は渡し船のように使うことができる。

    <文/古里学 撮影/村上淳  写真提供/防衛省>

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    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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