自衛隊の新型航空機をはじめ、航空機に搭載されるミサイルなどの兵装、アビオニクスと総称される航空機に搭載される電子機器類などの開発には、テストパイロットが大きな役割を果たしている。今回は、新型航空機が誕生するまでのロードマップをもとに、テストパイロットの任務を紹介しよう。
防衛省・自衛隊の“装備品開発ロードマップ”を紹介

防衛省・自衛隊の装備品開発ロードマップ(イメージ)
A:構想計画への参加
ユーザーの目線で、現場で航空機を扱うパイロットとして、新型機にどのような性能を持たせたいか、どのように使いたいかなど意見を出し、装備庁や技術幹部らとともに計画案を練る。
B:シミュレーターでの評価

(写真提供/防衛省)
テストパイロットは、シミュレーター自体の製作にも意見を出し、完成後も何度もテストを繰り返す(写真はイメージ)。実機を飛ばすテストフライトの前にも、シミュレーターでテストを模擬する予行練習を行うこともある。
C:モックアップの評価
整備員も参加し、整備用ハッチのサイズや、コックピットや後部座席に乗りこんだ際に作業がしやすいかなど、ユーザー目線で使い勝手を評価する。現在ではコンピュータ上で3Dのシミュレートができるため、実物大の模型(モックアップ)を製作しないことも多い。
D:試験計画の作成
地上で行われる性能試験やテストフライトの計画を作成する。駐機した試作機を使い試験をシミュレートすることも。

(1)XSH-60Kに搭載された機器で各種データを見ながら、次回のテストフライトの計画を練る隊員

(2)機体各所に計測機器が追加されているなど、試験機独自の整備が必要なため、整備項目は多岐にわたる
E:各種飛行試験

(写真提供/防衛省)
飛行試験だけでなく地上での試験も実施して開発を進める。試験には設計に合致しているか評価する「技術試験」と、使用目的に合致するか評価する「実用試験」がある。
F:データの分析・評価
得られた各種のデータを分析、評価して開発につなげる。数値で表せるデータのほか、パイロットの感覚をもとにした「定性データ」も重要な情報。定性データは、パイロットの勘ではなく、明確な基準が設けられている。

(写真提供/防衛省)
航空機が離陸する際の挙動や状態を試験するため、地上からカメラや計測機器類を向けてデータを取得することもある。
G:量産機の飛行試験
開発が完了し、量産機が続々とメーカーから納入される。納入前には自衛隊のテストパイロットが全ての機体を飛ばしてテストを行っている。

飛行試験では、木製の「計測治具」を操縦かんに当て、操縦かんの動く幅をあえて制限してテストを行うことも。
開発初期からテストパイロットも参加する
テストパイロットの仕事は、試作機の影も形もないころから始まっている。どのような航空機を作るか検討する段階から、テストパイロットはユーザーである自衛隊の代表としてさまざまな意見を出す(開発要求A)。「こんな性能が必要だ」、「こんな機能がほしい」というパイロット視点の考えを計画に注入するのである。
テストパイロットは、新機種開発で製作されたシミュレーターを用いた試験や評価も担当(基本設計、試作機製造B)する。航空機開発にも、操縦訓練にも、シミュレーターは不可欠。ITの進化によって、操縦感覚はもとより、コックピットの器材レイアウトなども含め、さまざまな部分でシミュレートすることが可能になっており、その重要性は年々増している。
テストパイロットが一番忙しくなるのは、実機、試作機が出来上がってから。防衛装備庁による「技術試験」と、自衛隊による「実用試験」 では、それぞれの立場で地上試験やテストフライトを重ねるが(飛行試験E)、どちらにもテストパイロットが携わる。
ここで、テストパイロットとともに自衛隊の新装備開発を担う隊員を紹介しよう。それが「技術幹部」だ。技術幹部は、テストパイロットと同様に特別な教育・訓練を受けて、飛行試験理論などを習得し、テストパイロットとともに2人3脚でテストフライトを担当する自衛隊内の技術者である。
技術幹部として岐阜基地(岐阜県)で勤務する志岐1尉。理工学修士を持ち、航空機に搭載する機器の試験などを担当している
「私たち技術幹部は、テストフライトにあたって、目的を達するために必要なデータは何か、そしてそれを取得するためにどんな飛び方をするかなど、テストパイロットとともに検討し、計画を作ります。フライト中は、機体からリアルタイムで伝送されてくるデータをモニタリングしたり、解析したりします」
こう説明するのは、航空自衛隊の技術幹部、志岐1等空尉。「試験ごとにやることは異なるので、毎回ゼロから計画を立てるので大変ですが、誰もやったことのない仕事に関わるので、達成感も大きいですね」と技術幹部として試験に関わる思いを語った。
新機種の開発が終了し、量産機の部隊配備が始まった後も「改良」という形でテストパイロットたちの仕事は続く。さらには、ミサイルや通信機器、情報処理機器、そこで使用するソフトウエアなどなど、航空機に搭載されるさまざまな装備品にも、彼らの手が入っている。
航空機を操縦するだけではなく、会議や書類作成もしなくてはならないテストパイロットたち(飛行試験G)。その双肩には重い責任がのしかかっているのだ。
(MAMOR2024年9月号)
<文/臼井総理 写真/山田耕司(扶桑社、空自隊員・試作機)、星亘(扶桑社、試作機)>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです