• 画像: 韓国海軍が運用するLCAC「ゾルゲ型エアクッション揚陸艇」。アメリカの技術支援をもとに、韓国内で開発・製造された。アメリカ、日本のLCACと同等の性能を持つとされる

    韓国海軍が運用するLCAC「ゾルゲ型エアクッション揚陸艇」。アメリカの技術支援をもとに、韓国内で開発・製造された。アメリカ、日本のLCACと同等の性能を持つとされる

     海上自衛隊に25年以上前から配備されているLCAC。2024年に、持ち前の実力を改めて発揮し、注目を集めた。

     この年の元日に能登半島を襲った地震は海底を隆起させたため、多くの港に艦艇が入れなくなってしまい、さらに土砂崩れなどで陸路もふさがれて、救助隊が被災地に入れないという事態がおきた。

     そこで、空気の力で船体を浮かせて、深度の浅い海でも高速で航行でき、そのまま砂浜へ上陸できるLCACが、多くの救難物資や救助隊員を運び、能登を救ったのだ。

     LCACのような空気の力を利用して浮く乗り物は、「ホバークラフト」と呼ばれる。そこで今回はホバークラフトの歴史や、各国の軍隊での利用状況について紹介しよう。

    イギリスで誕生。旅客用は普及せず、軍用として重宝

     そもそもホバークラフトの元になった技術は19世紀末にイギリスで生まれ、現在の「スカート」を使うタイプのホバークラフトは1950年代に作られた。

    「イギリスはホバークラフトの本家。実用化後はイギリスほか一部の国で旅客用や遊覧用として使われました。日本でも多数購入または建造され、60年代後半から80年代にかけては、あちこちの旅客航路で運航されていました。

     ですが残念ながら次々と廃止され、2023年時点では世界唯一のホバークラフト航路がイギリスにあるだけ。日本では、かつて運航されていた大分空港と大分市を結ぶ路線で、ホバークラフト航路を復活させるべく準備が進められています」

     このように語るのは、軍事フォトジャーナリストであり、世界各国軍のホバークラフトを取材してきた柿谷哲也氏だ。

     ホバークラフトは速度こそ速いものの、燃費が悪く騒音、振動も大きくさらに強風などの悪天候に弱いという欠点をもつため、旅客用として世界中に普及するまでには至らなかった。一方で軍用としては、水陸両用であり通常の船舶より速度も格段に速いという利点から、輸送艇や揚陸艇として活用されている。

    「ロシア軍では、海岸や河岸などへの敵前上陸用にホバークラフトを活用しています。かなり大型のものから、LCACと同クラスのものまで、いくつかのホバークラフトが建造されてきました。こちらは戦うための兵員を輸送する用途です。

     これに対してアメリカ軍、そして自衛隊のLCACは、輸送艦から発進することも想定したタイプで、主に車両や物資を運ぶ目的で使います。もちろん、人員輸送にも使えますが、敵前上陸をするような目的には使われません」

    地震など自然災害の多い日本ではより多くのLCACが必要になる

    画像: ロシア海軍のポモルニク型エアクッション揚陸艦『ズブール』。エアクッション揚陸艦艇では世界最大で、LCACのように輸送艦から発進するのではなく、単独で洋上を高速自力航行して海岸に乗り上げる 写真提供/ロシア国防省

    ロシア海軍のポモルニク型エアクッション揚陸艦『ズブール』。エアクッション揚陸艦艇では世界最大で、LCACのように輸送艦から発進するのではなく、単独で洋上を高速自力航行して海岸に乗り上げる 写真提供/ロシア国防省

     柿谷氏によると、ホバークラフトはアメリカ、ロシア、日本、イギリス、中国のほか、韓国、パキスタン、スウェーデンなどの各国軍、そして沿岸警備隊などで使われているという。

    「沿岸警備隊では、高速で救援にいけるという点で重宝しているようです」

     ところで災害派遣で活躍した自衛隊のLCACを、柿谷氏はどう見たのだろう。

    「東日本大震災のときには、海上にがれきが流出しました。障害物が多い中でLCACを運用するのは大変だったはず。その点、能登では当時の教訓を生かせたのではないでしょうか。平時から上陸地点候補に関する情報収集をし、さらには運用、支援する隊員の能力アップにより、存分にLCACを活用できたと考えます」

     しかし柿谷氏は、今後の自衛隊LCACの活用を考えた場合、現状の6艇では少なすぎると言う。島しょ部の防衛はもちろん、地震など自然災害の多い日本では、災害派遣への備えも必要だからだ。

    「現在アメリカ軍で入れ替えが進んでいる新型のLCACは、耐久性や積載量など、基本性能が向上しています。これが5年後くらいから自衛隊にも導入されるでしょうが、それを機に倍に増やしてはどうでしょうか」

     近年、南西方面の安全保障環境は緊張感を増すばかり。島しょ防衛をはじめ、海に囲まれた日本の守りには欠かせないLCAC。今後さらに生かす道を模索してほしいものだ。

    【柿谷哲也氏】 
    1966年生まれ。軍事専門のフォト・ジャーナリスト。これまでに海上自衛隊のほか、アメリカ海軍、韓国海軍のLCACを取材。著書に『災害で活躍する乗物たち』(サイエンス・アイ新書)などがある

    (MAMOR2024年8月号)
    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

    <文/臼井総理 撮影/村上淳>

    能登を救え!改めて実力を示した自衛隊のLCAC(エルキャック)とは?

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