「防衛装備品」というと、戦車や護衛艦や戦闘機などを思い浮かべるが、国を守る道具は、私たちに身近なモノから、「これは何?」と見ただけでは用途が分からないモノまで、多岐にわたる。
そこで、マモルでは、自衛官が任務を遂行するために、日ごろから使っていて、しかし、私たちの目に触れることが少ない道具を中心に紹介する。
「能書は必ず好筆を用う」という。はたして、国防の志士たちが駆使する道具とは?
隊員が日々使う道具には思いが込められている
自衛官が、任務を遂行するために使われてきた道具たち。一般の人たちも使用するものもあれば、自分たちで使いやすいように加工したものもある。
「国を守る」という強い志を持つ隊員たちが意思を込めて使うだけで、それは立派な「防衛装備品」となる。今回は航空自衛隊で使われている防衛装備品を、それを使う隊員の思いとともに紹介する。
ヘルメット・マスクテスタ
航空ヘルメットの点検整備を行う装置

<SPEC> 幅:約50cm、奥行:約40cm、重さ:約80kg
「パイロットが搭乗前に航空ヘルメットの点検を行う際に使用するヘルメット・マスクテスタ。私はこの道具を使い、パイロットが使用する航空ヘルメットの整備を行っています。この装置は酸素マスクに空気を送りこんで、酸素の漏れがないか確認できたり、ヘルメットの通信機器を作動させて、自分の話す声が正常に聞こえているかなどを点検できます」と語る浦3曹。

ヘルメット・マスクテスタで酸素マスクに空気を送り込み、漏れがないかチェックする浦健太3等空曹
「パイロットが安全なフライトを行う上で欠かせない、航空ヘルメットの点検整備を通じ、航空機を飛ばすスタッフの一員であることを誇りに思っています」
ミシン
ミシンの達人になってパイロットの命を守りたい

「自衛隊にミシンがあるのをご存じない方もいるかもしれませんが、航空自衛隊の修理隊には工業用ミシンがあります。私がミシンで修理するのはパイロットが装着する、耐Gスーツという、過剰なGがパイロットにかかった際に自動的に空気がスーツの中へ送りこまれてパイロットが意識をなくさないようにするための服や救命胴衣などです。
「パイロットの命を守れるようミシン技術をより向上させたい」と岡本貴博3等空曹
いずれもパイロットの命を守る機能が備わった服なのでその機能を損なわないように、複雑な縫製箇所を修繕するときはとくに慎重に任務を行っています」と語る岡本3曹。
セーフティ・ハーネス
空中輸送員が作業の際に使用する“命綱”となる道具
<SPEC> 素材:ナイロン、長さ:約5m、重さ:約3kg
「セーフティ・ハーネスは、C-2などの輸送機への貨物の積み降ろしや人員の搭乗・降機などに関わる作業を行う空中輸送員にとって必要不可欠なアイテムです」と話す稲邉2曹。
「空中輸送員にとってハーネスは命綱。一緒に作業するバディのハーネスが機体に固定されているか、互いに確認し合います」稲邉大介2等空曹
「使用するハーネスの長さは約5メートルあり、航空機の中にいくつかあるタイダウンリングと呼ばれるフックにかけながら移動し、作業します。上空の航空機からドアを開けた状態で物資を投下したり、陸自の空てい部隊の落下傘降下を行ったりする『戦術輸送』を行うので、これがなくては任務を遂行できませんね」
儀じょう用指揮棒
儀式や式典の演奏時だけに使用する特別な指揮棒

<SPEC> 長さ:約57.5cm、重さ:約11g
自衛隊の儀式や式典などで音楽を奏でることを任務としている音楽隊の指揮者が儀じょうを行うときに持つのが儀じょう用指揮棒だ。
竹内2尉は「通常の指揮棒に比べると1.5倍ほどの長さがあるんです。見慣れてない人にとってはだいぶ長いと感じるでしょう。長さの理由は自衛隊の儀じょうでは、音楽隊の演奏員は縦列し、立って演奏します。
通常の指揮棒だと列の後方の隊員は見えづらいのですが、これは長いので、その心配がありません。その長さゆえに当初は扱いにくいと感じたこともありましたが、指揮棒の先までが自分の腕だという感覚で振るようにすると、次第に慣れていきました」
「音楽隊は自衛隊と国民の皆さまとの間をつなぐ懸け橋です」と語る、北部航空音楽隊演奏・企画班長の竹内演2等空尉
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(MAMOR2024年8月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです
<文/魚本拓 写真/星 亘(扶桑社)>