「防衛装備品」というと、戦車や護衛艦や戦闘機などを思い浮かべるが、国を守る道具は、私たちに身近なモノから、「これは何?」と見ただけでは用途が分からないモノまで、多岐にわたる。
そこで、マモルでは、自衛官が任務を遂行するために、日ごろから使っていて、しかし、私たちの目に触れることが少ない道具を中心に紹介する。
「能書は必ず好筆を用う」という。はたして、国防の志士たちが駆使する道具とは?
隊員が日々使う道具には思いが込められている
自衛官が、任務を遂行するために使われてきた道具たち。一般の人たちも使用するものもあれば、自分たちで使いやすいように加工したものもある。
「国を守る」という強い志を持つ隊員たちが意思を込めて使うだけで、それは立派な「防衛装備品」となる。今回は陸上自衛隊で使われている装備品を、それを使う隊員の思いとともに紹介する。
防護服
防護服を着用するときは気合いと覚悟が必要です
化学兵器や生物兵器、放射性物質、核兵器などの「CBRN兵器」に対処する特殊武器防護隊の隊員が装着する防護服
「防護服は毒ガスなどが入らないように外部の空気を遮断する特殊なゴム素材で作られています。有毒物質などが散布された際に除染作業などを行うために着用します。地下鉄サリン事件などでも使用されました。夏はとくに着用するだけで内部はサウナ状態の暑さとなり、訓練後に長靴をひっくり返すとジャーっと流れ出るほどの汗をかくこともあります」と語る清藤2曹。
第1特殊武器防護隊の車両の前で防護服と防護マスクを装着した、清藤圭将2等陸曹
「日ごろからサウナや筋トレなどを欠かさず、いつでもこの防護服が着られるように体力をつけています。着用するときは常に臨戦態勢。気合いと覚悟を持って装着しています」
18式防弾ベスト
旧型より軽く動きやすくなった新型防弾ベスト
銃弾などから隊員の身を守るために着用する「18式防弾ベスト」。 射撃訓練や格闘訓練などで着用するという中原1士は、「この新型の防弾ベストは旧型に比べ軽く、丈が短くなっているため、動きやすくなりました」と話す。
防弾ベストを着用する第1普通科連隊第3中隊の中原瑠美1等陸士
「小銃弾を阻止するセラミックプレートが胸・背部に各1枚入っているため防弾性も高く、軽くなったので任務が遂行しやすいです。実弾を使った訓練では、私に安心感を与えてくれる大切なアイテム。着用した瞬間、『よーし、やるぞ!』と戦闘モードになれます」
油圧式カッター
人命救助をいち早く行うときに便利で多様性のある道具

ハサミとペンチを組み合わせた構造になっていて、油圧式なので小さな力で作動できる
「主に災害時に使用しますが、倒壊家屋などから鉄パイプが露出し、被災者をスムーズに救出できないことがあります。そんなときは、この油圧式カッターの出番。鉄筋などの金属を切断したり、閉じたシャッターをこじ開けて救出口を作るのに役立ちます。重機が到着する前にいち早く人命救助を行う隊員にとって欠かせないアイテムです」と語る吉田2曹。
自衛隊の防災イベントなどで実演を行っている、第1普通科連隊第3中隊小銃分隊長兼文書係吉田誠悟2等陸曹
携帯偽装網
周囲の環境に溶け込み身を隠すための迷彩服
携帯偽装網の生地は、隊員が現場で採取した草木を差し込めるよう、細かい網目状になっている
携帯偽装網は狙撃手が森林などで発見されないよう、カモフラージュのために着用する迷彩服の一種。

携帯偽装網を着用し、草木に紛れる、陸上自衛隊第1普通科連隊の狙撃手(赤線部分)
「狙撃手として、とにかく隠れて任務を遂行している」という狙撃手の隊員は、「演習や訓練の際には、周囲の環境に溶け込むよう、現地に生えている植物を携帯偽装網に加えます。草の生えている向きを意識して付着するのが擬装のコツです。私は最前線で敵への狙撃や偵察を任務とする狙撃手。私が敵に見つかれば味方を危険にさらすことにもなりかねません。そのため、この装備品なくして任務は成り立ちません」
野外電話端末
通信線を延ばしてつなぎ通信装置を開通させる

前線にいる部隊と指揮所との有線通話を可能にする、野外電話端末(写真右)と通信線
「野外電話端末は有事の際に前線部隊と指揮所の通話を開通するために必要な道具です。電波を飛ばすと敵に見つかりやすくなるため、有事の際はこの通信線の電話が重要。人目につかないように通信線を木にからめたり、車両に踏まれて損傷しないように地中に埋めたりして長いときは2~3キロメートルほどつなぎます。
通信線が見つかると敵に指揮所が発見される危険があるので隠しながらいかに長く構成(配線)していけるかが大事。受話器の向こうから『つながりました!』と言われたときはとてもうれしく、達成感があります」と櫻井3曹。
敵に悟られないよう通信線の構成を行っているという、第1普通科連隊本部管理中隊通信小隊の櫻井佑磨3等陸曹
エンジン式削岩機
災害時に壁を破壊し被災者を救出する機械

<SPEC> 長さ:73.2cm、幅:47cm、重さ:約30kg
「エンジン式削岩機は、ガソリンエンジンで動く道具。手動式のレバーを引っ張るとエンジンがかかり、先端に付いているビットと呼ばれる黒い棒が上下に動くことで固いものを粉砕できます。有事においては防御陣地を造る際に地中にある固い岩盤を破砕するのに使用。また、災害時は倒壊家屋の壁やコンクリートなどをピンポイントで粉砕できるので、被災者を素早く救出できる優れた機械です」と語る谷垣2曹。
能登半島地震の人命救助の際にも使用されたという、エンジン式削岩機の整備を行う第1普通科連隊の谷垣泰雅2等陸曹
「国民の命を守るための大事な装備品なので、いつでも使用できるよう、心を込めて丁寧に整備しています」
儀じょう銃
特別儀じょう隊だけが保有する儀礼用の銃

<SPEC> 長さ:約111cm、重さ:約3.9kg、口径:7.62mm
「内閣総理大臣が国賓を日本に迎える際などに行われる『特別儀じょう(注)』で使用する銃が儀じょう銃です」と語る髙井士長。

儀じょう銃を持つ第302保安警務中隊特別儀じょう隊の髙井陸斗陸士長
「儀じょう動作がしやすいように極限まで突起物をなくし、儀じょう用に特化した銃です。持ったその瞬間から背筋が伸び、身が引き締まります」
※注:皇族や内閣総理大臣、政府高官などが国賓を迎える際に行う儀礼のこと。
儀礼刀
特別儀じょう隊の幹部が持つ「魂」といえる道具

<SPEC> 長さ:約91cm(刀:85cm) 重さ:約1.1kg(刀:0.7kg)
内閣総理大臣が国賓を迎える際などに行われる「特別儀じょう」に欠かせない道具が儀礼刀だ。美しく整列した儀じょう隊の前を国賓が通る際に、儀じょう隊の幹部は、この儀礼刀を操るのだ。

儀礼刀の練習を行う、第302保安警務中隊特別儀じょう隊の森山清彦2等陸尉
「儀礼刀を持ってキレのある動作を行うためには、柄の部分を握らずに指に引っ掛けるようにして扱います。儀礼刀は見た目よりも重く、肩の可動域を広げるようにして操る必要があります。そのためには日々の反復練習は欠かせません」と語る森山2尉。
「部隊の前に立つ幹部しか持つことができないため、私にとっては『魂』ともいえる道具です」
※寸法などスペックの記載がないものは公表されていません
(MAMOR2024年8月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです
<文/魚本拓 写真/星 亘(扶桑社)>