
航空自衛隊公式サイトより(https://www.mod.go.jp/asdf/about/ )
旧軍にない軍種として、戦後の日本の空を守ることを目的に誕生した航空自衛隊が2024年で70周年を迎えた。
これからの日本を取り巻く世界の安全保障環境は、これまでの70年とは比較できないほど、スピーディーに、そしてダイナミックに変化していくことが予想される。それに伴って、空自の役割や活動はどのように進化していくのだろうか?
航空軍事記者の関賢太郎氏、元航空幕僚長の井筒俊司氏の2人に話を伺った。
転換点を経て進化。今後に注目したい
【関賢太郎(せきけんたろう)氏】
1981年生まれ。航空軍事評論家・写真家。軍事・航空専門誌などで活躍中。著書に『戦闘機の秘密』(PHP研究所)ほか多数
「航空自衛隊は創設以来、国土防空に特化してきました。特に戦闘機は、アメリカとの協力関係を生かし、常に新鋭機を導入。そのため、防空能力は高く、特に空中戦にかけては世界トップクラスの能力を維持してきました。
70年の歴史における転換点としては、1976年にロシア人将校が日本の空港に強行着陸して亡命した『ベレンコ中尉亡命事件』をきっかけとして、AWACSを導入し、諸外国と比べ多数保有するようになったこと。
そして、80年代以降、対艦ミサイルに注力してきたことが挙げられます。戦闘機に多数のミサイルを搭載し、日本列島に迫る敵艦船を排除するという考え方は、四方を海に囲まれた日本ならではですね。
2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、日本の防衛にも数多くの示唆を与えています。ドローンの活躍に目を奪われがちですが、私は、地上から敵機や敵ミサイルを撃つ地対空ミサイルの重要性に注目しました。
空軍力で数的劣勢にあるウクライナが持ちこたえているのは、まさに地対空ミサイルの力です。空自の高射部隊が装備する高性能地対空ミサイル、ペトリオットの存在にもあらためて着目すべきです。
さて、防衛省は次期戦闘機の開発をイギリス・イタリア両国と共同で進めることを発表しました。近年は戦闘機1機の開発に多額の予算がかかるようになり、もはや1国が単独で開発する時代は終わりました。生産コストを下げ、長く造り続けて技術を継承するためにも、こうした多国間連携は重要です。
将来にわたって日本の空を守り続けられるよう、今後の航空自衛隊にも注目し続けたいと思います」
勇猛果敢(ゆうもうかかん)の精神で、宇宙での活躍も願う
【井筒俊司(いづつしゅんじ)氏】
1986年航空自衛隊入隊。第36代航空幕僚長。2023年3月退職。現在は株式会社アストロスケールで宇宙事業に従事
「航空自衛隊が70周年を迎えるにあたり、在任中に50周年記念行事で接遇の手伝いをしたことを思い起こしました。それから20年、空自は大きな飛躍を遂げました。
冷戦終結後、日本を取り巻く環境は大きく変化し、状況は複雑化しました。国際貢献任務が新たに付与され、AWACSや空中給油機など、私が入隊したころには考えられなかった新しい装備も導入されました。
20年前に今の空自が想像もできなかったように、未来の姿は想像できませんが、今後も、人員を大きく増やすことは望み得ないなか、新たな任務が追加され、日本だけではなく世界、そして宇宙を舞台に幅広い活動が求められていくでしょう。
しかし、装備が変わり、技術が進歩しても、空自の隊員1人ひとりがもつDNA、特に『新しいものへ果敢にチャレンジする精神』は引き継がれていくと確信しています。
例えば、無人機の活用、サイバー・電磁波分野の防衛、そして宇宙分野への進出。特に、宇宙は航空分野よりさらに進歩が早い世界です。航空が日進月歩なら、宇宙は分進秒歩といったところでしょうか。防衛省はもちろんのこと、産学官が協調して、公共財である宇宙を安定利用するために努力し続けてほしいですね。
ところで、空自は、陸・海自衛隊とは少し違う性質を持っています。それは『空の警察』でもあるということ。陸においては警察、海においては海上保安庁という警察力がありますが、両役割を担いながら空を守るのは空自だけ。
これからも、日本を守るために全力を尽くし、国民から信頼される航空自衛隊であってほしいと考えます」
(MAMOR2024年7月号)
<文/臼井総理 写真提供/防衛省>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです