•  病院や街の薬局などで私たちも日常的にお世話になっている薬剤師。自衛隊にも、自衛官であり国家資格を持つ薬剤師でもある「薬剤官」がいる。薬剤官は隊員の健康管理、防疫および衛生資材などの補給整備を行う「衛生」という職種に属している。

     その任務は多岐にわたり、自衛隊内の病院はもちろん基地や駐屯地、被災地や派遣先の海外、はたまた有事の際には第一線へも進出する。マモルでは、国を守る自衛官の体を守る薬剤官のマルチ・プレイヤーぶりに焦点を当ててみた。

    衛生の隊員としてキャリアアップする薬剤官

    画像: 薬剤科幹部候補生として採用されると、初めに陸・海・空各自衛隊の幹部候補生学校に入校し、幹部自衛官としての基礎を学ぶ

    薬剤科幹部候補生として採用されると、初めに陸・海・空各自衛隊の幹部候補生学校に入校し、幹部自衛官としての基礎を学ぶ

     薬剤師と自衛官の2つの顔を持つ「薬剤官」。どんな人が薬剤官になり、どのような教育と訓練を受けるのだろうか?そして薬剤官はどのような経験を積み重ねていくのか?入隊後のキャリア形成について調べてみた。

    幹部候補生学校、部隊を経て自衛隊中央病院で実務研修

    薬剤官は幹部候補生学校を修了後、自衛隊中央病院で調剤などの現場実習を行う。その後は部隊などで実任務に就くが、さまざまな研修や実習などに参加し、自衛隊の薬剤官として幅広い知識と技術を身につける

     薬剤官の採用は、大学の薬学部などを卒業し薬剤師の国家資格を取得した28歳未満の者が対象で、自衛官の採用試験に合格する必要がある。採用数は陸・海・空自衛隊合わせて年間20~30人程度の狭き門だ。

     このほか防衛省・自衛隊には、不定期だが特定の分野の有資格者、経験者のキャリア採用制度があり、薬剤師の採用実績もある。薬剤官の区分は部隊の指揮官や指揮官を補佐する幹部自衛官で、合格者は各自衛隊の幹部候補生学校に入校。陸自は約39週、海自は約1年、空自は約34週にわたり幹部自衛官に必要な知識、技能を習得する。

    画像: 定期的に自衛官としての訓練も行う。衛生の隊員として傷病者搬送などの実務を学ぶ

    定期的に自衛官としての訓練も行う。衛生の隊員として傷病者搬送などの実務を学ぶ

     幹部候補生学校を修了後、陸自は約13週間、空自は約3カ月間、部隊や自衛隊病院に配置され実務を担当する。その後約1年間、自衛隊病院の中核・自衛隊中央病院での薬剤実務研修で臨床薬学の講義と実習を受ける。

    画像: 医官の指示を受け、調剤を行う薬剤官。隊員への服薬指導など経験を積み重ねていく

    医官の指示を受け、調剤を行う薬剤官。隊員への服薬指導など経験を積み重ねていく

     なお海自は、幹部候補生学校修了後に約5カ月間、船乗りの心構えや国際感覚を養う遠洋練習航海に参加し、その後、約7カ月間の部隊勤務などを経て陸・空各自衛隊と同じように自衛隊中央病院で約1年間の薬剤実務研修を受ける。その後は各地の部隊などに赴任し実務を担当する。

    さまざまな職務をこなすため異動や研修機会も多い

    画像: 2020年3月、新型コロナウイルス拡大防止の災害派遣で、クルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス号』にて医薬品管理を行う薬剤官

    2020年3月、新型コロナウイルス拡大防止の災害派遣で、クルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス号』にて医薬品管理を行う薬剤官

     薬剤官は1954年の防衛庁設置当時から配置されている。これまで紹介をした自衛隊病院などでの実務のほか、衛生の幹部自衛官として部下を持ち、各部隊の運用に携わり、予算要求や関係各所との交渉などを担当することもある。

    国際支援では、医官や看護官などと同道し、現地での医療支援や医薬品管理などを担当。派遣隊員の健康管理なども同時に担当する

     そして短期間で幹部としての知識・経験を高めるため、薬剤官は定期的な異動があるが、研究所勤務や海外派遣など大きく任務が変わる場合は、教育・研修で新たな知見を会得する。薬剤師としての職能を持ったまま異動を重ね、幅広い業務に対応できるようになるのも、薬剤官の職務の特徴といえよう。

    自衛隊の衛生任務遂行の重要な柱である薬剤官

    安増部員は自衛隊の衛生施策などを担当。「薬剤官の総数は約250人と少数精鋭です」

     最後に防衛省人事教育局の薬剤官として自衛隊の衛生をサポートする安増孝太防衛部員は薬剤官の重要性をこう話す。

    「自衛隊の迅速で的確な任務遂行のためには、常日ごろから隊員が健康であることが絶対条件です。

     自衛隊の衛生は、平時は隊員の心身の健康管理や診療、医薬品や医療機器などの衛生資材の補給・管理、医療設備の整備などを実施し、有事、災害派遣や国際平和協力活動では医療と衛生資材の提供、傷病者の搬送などを行います。

     衛生任務は医官、看護官、薬剤官など多職種の人材が集まるチーム医療が基本。そのため薬剤官の任務には、一般の人がイメージしやすい調剤や医薬品の提供といった仕事に加え、さまざまなプラスαがあるのです。薬剤や医療に関する専門的な知見を有している薬剤官は自衛隊の衛生を支える重要な柱です」

    <文/古里学 撮影/増元幸司 写真提供/防衛省>

    (MAMOR2024年7月号)

    マルチに闘う自衛隊薬剤官

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