•  小銃は、入隊した陸上自衛官1人に1丁が貸与されるミニマムな火器の1つだ。

     防衛装備品がどれだけ進化しても、最後に国土と国民を守るのは近接戦闘といわれている。そのときに威力を発揮する小銃の最新モデルが2020年に登場し、高性能ぶりが話題になっている。そこで、日本の小銃の歴史を振り返ってみよう。

    500年近い変革期を持つ日本の小銃ヒストリー

     教科書でも習うように、1543年にポルトガルから種子島に伝来し、そこから日本中に伝播した火縄銃。ここから日本の小銃の歴史が始まり、機構などの仕組みがさまざまな進化を続けてきた。

     戦略アナリスト、かのよしのり氏に監修をいただいき、本記事では1543年の登場から、1930年ころまでの小銃を紹介する。

    1543〜1870年ころ:火縄式

     火縄で火薬に点火する「火縄銃」。戦国時代に日本へと伝わった、日本における小銃の先祖だ。

    火縄銃(日本)

    画像: 火縄銃(日本)

    <SPEC>全長:約990mm 重量:約4kg

    大阪・堺で江戸時代後期に生産された蔦谷喜八郎作の火縄銃。同地の小銃は細めの銃身が特徴といわれている

    発砲のタイミングをコントロールできるように

    画像: S字形の金具に火縄を挟んで発射。火縄がむき出しのため雨に弱く、火縄に点火するための種火を持ち歩く必要もあった

    S字形の金具に火縄を挟んで発射。火縄がむき出しのため雨に弱く、火縄に点火するための種火を持ち歩く必要もあった

     1543年にポルトガルから種子島に伝来し、島の刀鍛冶らがこれを複製。その後、滋賀・国友や大阪・堺などで生産された火縄銃。

     火の付いた縄を引き金と連動した火挟みに付け、引き金を引くとバネ仕掛けで火薬に着火し発砲する仕組み。

     それまでの火器は、火種を直接火薬に押しつける方法で点火していたため発砲のタイミングもコントロールしづらかった。火縄銃の登場で命中精度や射程も向上し、任意のタイミングで発射できるように。

    火縄銃の仕組み

    画像: 火縄銃の仕組み

    1:銃口から火薬と弾を込める

    2:火皿に点火薬となる火薬(口薬)を入れる

    3:火ぶたを閉じて点火した火縄を金具に挟む

    4:発射の際は火ぶたを開け、狙いを定める

    5:引き金をひく

    1800年ころ〜1850年ころ:フリントロック式

     火縄銃を改良したのが、火打ち石の要領で火薬に点火する方式だ。

    ゲベール銃(オランダ)

    画像: ゲベール銃(オランダ)

    <SPEC>全長:約1500mm 重量:約3.8kg

    フリントロック式のゲベール銃。引き金をひくと火打ち石が当たり金(フリズン)とこすれて火花が散り、火薬に引火して弾丸が発射される

    火打ち石の要領で火薬に点火 射撃間隔を短縮

     17世紀初頭、火薬と弾丸を銃口から詰める入れ方は火縄銃と同じだが、種火を持ち歩く必要がなく、火打ち石の要領で、火薬に点火できる「フリントロック式」のゲベール銃が誕生。

     火縄銃と違い火ぶたの開閉が必要なく、射撃間隔を短縮できる利点があった。

    1800年ころ〜1900年ころ:雷管式

     雨に弱く、暴発もあった火縄銃。火薬への点火方法が改良されたのが雷管式だ。

    ミニエー銃(オランダ)

    画像: ミニエー銃(オランダ)

    <SPEC>全長:約1230mm 重量:約3.8kg

    1848年、フランス軍のミニエー大尉によって開発された雷管式の小銃。日本には慶応年間(1865~68年)に輸入され江戸幕府などが採用した

    雷管の発明によって暴発リスクが減少

    画像: 撃鉄を起こし引き金をひくと雷管が発火。火門(銃身に開けられた火薬の通路)を通って口薬が爆発し弾薬が発射される

    撃鉄を起こし引き金をひくと雷管が発火。火門(銃身に開けられた火薬の通路)を通って口薬が爆発し弾薬が発射される

     19世紀に入ると、たたくことで発火する火薬を使った発火法が考案され、この火薬を詰めた金属製の「雷管」が発明される。

     その後、この仕組みを取り入れた「雷管式」の小銃が誕生した。発火が確実に伝火されるため雨に弱い火縄式の難点が解消され、暴発のリスクも減少。安全に扱えるようになった。

    1860年代〜1900年ころ:後込め式

     銃口から銃弾を装てんするため時間のかかる「先込め式」の弱点解消のため、開発されたのが手元で銃弾を込める「後込め式」だ。

    ウエストリー・リチャーズ銃(イギリス)

    画像: ウエストリー・リチャーズ銃(イギリス)

    <SPEC>全長:約1020mm 重量:約3.8kg

    イギリスの工業都市バーミンガムで誕生。先込め式に比べ複雑な構造だが弾込めの速さなど利便性の高さから世界中に広く普及した小銃

    手元で銃弾を込める「後込め式」

    遊底(銃の基部にある)後端の取っ手を持ち上げ、薬室に実包を入れて発射。発射後は空になった薬きょうを取り出す

     19世紀半ばころに発射用の火薬、雷管を収める容器「薬きょう」が実用化され、弾丸の形も命中率を上げ飛距離を伸ばすため円すい形に進化。

     この薬きょうと弾丸が一体化した「実包」が発明され、小銃も内部に「薬室」と呼ばれる実包を入れる装てん部が設けられた「後込め式」が登場した。銃口を手前に向け直し、長い棒で弾丸・火薬を押し込む作業が不要で素早く装てんできるのが利点だ。

     後込め式の銃としては1866年にイギリスで開発された「スナイドル銃」が有名で、写真のウエストリー・リチャーズ銃も後込め式の代表的な小銃だ。

    1836年〜:ボルトアクション式

     ボルトハンドルと呼ばれる取っ手を持ち上げ、引く、戻す、下げる操作で弾丸の装てんと、空になった薬きょうを排出する排きょうを行う方式。

    18年式村田銃(日本)

    画像: 18年式村田銃(日本)

    <SPEC>全長:約1280mm 重量:約4.1kg

    旧陸軍の村田経芳が開発した日本初の国産軍用小銃・13年式(注)村田銃を改良。日清戦争(1894 〜95年)時に主力小銃として使われた

    (注)◯年式の数字は、明治何年に制式採用されたかを示している

    22年式村田連発銃(日本)

    画像: 22年式村田連発銃(日本)

    <SPEC>全長:約1210mm 重量:約4kg

    18年式村田銃を改良した旧日本軍の小銃で日露戦争(1904〜05年)ころに使われた。銃身の下部に8発の弾丸が入る弾倉を備えている

    38式歩兵銃(日本)

    画像: 38式歩兵銃(日本)

    <SPEC>全長:約1280mm 重量:約3.7kg

    旧日本軍が1905(明治38)年に制式採用した小銃。太平洋戦争の終盤まで主力銃として使用された。5発の弾丸が入る弾倉を備えている

    弾倉は5発の弾丸が入る。指で押すとバネ式でへこむ構造になっている

    99式短小銃(日本)

    画像: 99式短小銃(日本)

    <SPEC>全長:約1260mm 重量:約3.8kg

    38式歩兵銃に代わり、1939(昭和14)年から45年まで使用された小銃。38式の6.5ミリから、7.7ミリに弾丸が拡大し威力が向上した

    ボルトアクションで射撃精度が向上

    99式の名称は神武天皇即位を起源とした暦「皇紀」の2599年に採用されたことが由来になっている

     ボルトアクション式の小銃は1836年に初めて実用化された。構造がシンプルで命中率が高いのが特徴だ。

     例えばハンドガンであれば、引き金をひいた際に戻る撃鉄(弾丸をたたいて発射する部分)の衝撃が大きくぶれやすい。

     これに対し、ボルトアクションは引き金をひくと撃鉄が前進して雷管をたたくシンプルな動作のため、ブレが少ない。1発ごとに操作が必要で連射に向かないが、現在でも射撃速度より精度を要求される狙撃銃や競技銃はボルトアクション式を採用しているものが多い。

    ボルトアクション銃の仕組み

    画像: ボルトアクション銃の仕組み

    1:ボルトハンドルを90度回転させて薬室を開け、その中に弾丸を入れる

    2:再度、ハンドルを回転させ、かんぬき扉の仕掛けのようにハンドルを回して閉めて、引き金をひいて発射する

    写真/本人提供

    【戦略アナリスト かのよしのり氏】
    1950年生まれ。戦略アナリスト。著作に『銃大全』(SBクリエイティブ刊)など

    (MAMOR2024年6月号)

    <文/臼井総理 撮影(特記を除く)/山川修一(扶桑社) イラスト/ナーブエイト>

    自衛隊の小銃がすごい!

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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