•  自衛隊には国を守るために、小銃からミサイルまで、さまざまな“飛び道具”がある。

     どれほど道具が高性能でも、敵に当たらなければ用を成さない。そこで、必要なのが隊員による射撃訓練ださらにその射撃訓練に必要なのが標的。

     一口に標的と言っても、陸地に設置する・走らせる、海に浮かべる・航行させる、空を飛ばすなど、さまざまな標的がある。

     それがどの射撃装備品のための標的なのか、どのような工夫が凝らされているのか、今回は戦闘機の射撃訓練で使われる、代表的な3つの標的を紹介する。

    水上標的(空):地上を狙う戦闘機の標的

    JAQ-1

    画像: 収納時のJAQ-1。戦闘機に搭載し、訓練海域に投下して射撃訓練を行う

    収納時のJAQ-1。戦闘機に搭載し、訓練海域に投下して射撃訓練を行う

    画像: 帆を展開し、水上に浮遊するJAQ-1。この約4.8メートル四方の標的に爆弾を投下する

    帆を展開し、水上に浮遊するJAQ-1。この約4.8メートル四方の標的に爆弾を投下する

    <SPEC>全長:約4.8m 全幅:約4.8m 全高:約3.4m(展張時)

    JAQ-2

    画像: 収納時のJAQ-2。射撃訓練の際は、ヘリコプターに搭載し、訓練海域に投下して使用する

    収納時のJAQ-2。射撃訓練の際は、ヘリコプターに搭載し、訓練海域に投下して使用する

    画像: 空中から投下中に展開され浮遊するJAQ-2。戦闘機は約6メートル四方の標的めがけて爆弾を投下する

    空中から投下中に展開され浮遊するJAQ-2。戦闘機は約6メートル四方の標的めがけて爆弾を投下する

    <SPEC>全長:約6.2m 全幅:6m 全高:5.1m(展開時) 重量:約265kg

     戦闘機の機関砲射撃、爆弾の投下訓練などで、水上に敷設して使用する標的。地上に設置した標的を狙う訓練は、実施できる射爆撃場が限られているため、各基地から射場までの移動に非常に手間と時間がかかるという課題があった。それを解決するため開発されたのが水上標的である。

     これはF-2戦闘機に搭載して洋上に投下、着水後にガス圧で開いて水上に浮かび、8時間以上浮遊することができる。

     水上標的は旧式のJAQ−1に加え、新型のJAQ−2の2タイプを使用。訓練では標的を投下する航空機を含む2~4機の航空機が使用される。洋上の安全を確認して標的を投下、正しく展開したかを確認した後、訓練が行われる。

    洋上に敷設して爆弾を投下します

    【大萱結介1等空尉】
    飛行班員としてF-2に搭乗・操縦している

    【小堀悟志1等空曹】
    武器弾薬員として機関砲やミサイルなどの整備を実施

    「訓練では、標的を搭載した航空機が先に訓練空域に進出し洋上の安全を確認して標的を投下、その後、訓練機が訓練爆弾や20ミリ訓練弾などによる射撃を行います。

     洋上では地上と違って地形を参考にできないこと、また標的が海流で流されるため地上に設置するよりも狙うのが難しくなります」

    空対空用小型標的(空):敵ミサイルを撃つ戦闘機のミサイルの標的

    画像: 空対空用小型標的(空):敵ミサイルを撃つ戦闘機のミサイルの標的

    <SPEC>全長:3.55m 全幅:1.2m 全高:0.38m 最高速度:約860km/h 航続時間:約15分

     戦闘機から発射して、敵航空機や敵ミサイルを迎撃するミサイルの射撃訓練に使用される標的。

    画像: 上空を飛行する空対空用小型標的(イメージ)。敵航空機や敵ミサイルの軌道を再現し、実戦に近い訓練を可能にする

    上空を飛行する空対空用小型標的(イメージ)。敵航空機や敵ミサイルの軌道を再現し、実戦に近い訓練を可能にする

     えい航型の標的では動きが再現できない、複雑な軌道で飛行する敵ミサイルや戦闘機などへの射撃訓練のために開発された。空対空用小型標的は、敵ミサイルや戦闘機を模擬するのに十分な旋回性能や最高速度などを備え、かつコストが低く抑えられている。

     2009年より試作機の試験が始まり、14年より配備が開始された。F−15戦闘機に搭載し投下して使用する。最高速度は時速約860キロメートル、約15分以上航行でき、4つの飛行パターンをシミュレートすることができる。

    訓練を行うF-2戦闘機には、種々のミサイル・爆弾を搭載できる

    訓練では実弾を使用します

    【松浦翔矢2等空尉】
    飛行班員として戦闘機を操縦。パイロットの教官として、後輩育成にも携わっている

    「標的を使う訓練は実弾を扱うため、とても責任が重く失敗が許されません。空対空用小型標的の運用には自衛隊内の資格が必要なので、有資格者から標的に関する知識や各種操作の教育を受け、実務訓練を行います」

    航空機模擬標的(空):敵航空機を撃つ戦闘機のミサイルの標的

    画像: 航空機模擬標的(空):敵航空機を撃つ戦闘機のミサイルの標的

    <SPEC>全長:3.65m 全幅:約2m 全高:0.92m 最高速度:約980km/h 航続時間:約15分

     戦闘機から発射して、敵航空機や敵ミサイルを迎撃するミサイルの射撃訓練に使用される標的。2000年から部隊に配備され、運用が開始された。

     F-2、F-15戦闘機に搭載し、上空で投下する。最高速度は時速約980キロメートルで、約15分以上航行でき、数種類の飛行パターンを再現できる。各種ミサイルの飛行パターンを模擬することにより、より実戦に近い状況下での訓練が実施可能になる。

    画像: 標的を使用した訓練では戦闘機が搭載したミサイルで射撃を行う

    標的を使用した訓練では戦闘機が搭載したミサイルで射撃を行う

     また、射撃評価装置と送信装置を搭載しているので、遠隔で命中判定を確認することができる。訓練終了後は標的自身のプログラムにより、エンジンを停止し、降下する。

    訓練内容を細部まで共有

     松浦翔矢2等空尉は航空機模擬標的についてこう話す。

    「訓練前にはブリーフィングを行い、目的や細部認識の統一を図り、フライト中に意思疎通が不明確にならないように留意しています。訓練当日は、その日の気象、飛行情報の確認や、トラブルの際の手順など、訓練における注意事項を最終確認します」

    (MAMOR 2024年5月号)

    <文/古里学 写真/防衛省提供>

    自衛隊射撃訓練の標的にロック・オン!

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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