自衛隊には国を守るために、小銃からミサイルまで、さまざまな“飛び道具”がある。どれほど道具が高性能でも、敵に当たらなければ用を成さない。そこで、必要なのが隊員による射撃訓練だ。
さらにその射撃訓練に必要なのが、標的。陸・海・空各自衛隊では、それぞれどのような標的を使っているのか?
一口に標的と言っても、陸地に設置する・走らせる、海に浮かべる・航行させる、空を飛ばすなど、さまざまな標的がある。それがどの射撃装備品のための標的なのか、どのような工夫が凝らされているのか、今回は4つの標的を紹介する。
無線誘導標的機(陸):敵航空機を撃ち落とす機関銃の標的
<SPEC>全長:約1m 全幅:約2m 全高:約0.5m
敵航空機を射撃する12.7ミリ重機関銃の訓練で標的機として使用されるプロペラ機。機体は胴体と左右主翼と3分割でき、訓練時には組み立てて使用。
レシプロエンジンを搭載し、地上から操縦手が無線でリモートコントロールして飛行させる。主翼の形が大きな三角形で、明るい赤色に着色されており、離れた位置を飛行していても目視することができる。
胴体は繊維強化プラスチック製、主翼は発泡スチロール製なので、着水しても水上に浮かぶ。着弾による損傷部分を部品交換すれば簡単に補修・再利用が可能である。無線誘導標的機の配備は1998年で、静内駐屯地(北海道)に配備されている。
遠隔で多彩な飛行を再現
【柴垣学陸曹長】
各種標的機の飛行操縦や飛行管制などを行っている
「不具合や故障などが生じないよう点検・整備を厳重に実施する点は、ほかの標的機と同じです。
射撃部隊からは、世界で使用されている小型無人航空機や自爆型無人航空機など、それぞれに応じた飛び方の再現を要請されるので、そうした要望に応じた飛行をできるように操縦技術の向上に務めています」
射撃標的(陸・海・空):小銃や拳銃の標的
小銃や拳銃などの射撃において陸・海・空各自衛隊で使用されている射撃標的。紙や木製ボードなどに円と数字が描かれた的を狙って射撃を行う。
拳銃用や小銃用など、火器や訓練の目的に応じてさまざまな射撃標的が使用されている。小銃を使用した射撃訓練の場合、さまざまな姿勢で射撃位置から狙い射撃する。
射撃後は、命中した場所に応じて加点され、各々の成績に反映される。わずかな照準のズレや銃のぶれによって着弾点が大きく変わるため、いかに安定して構えることができるかが重要となる。
対空射撃用標的(FB型)(陸):高速で飛ぶ敵ミサイルを撃ち落とすミサイルの標的
<SPEC>全長:約4m 全幅:約1m 全高:約1m
通称「ファイター・ボンバー(FB)」と呼ばれるミサイルタイプの標的機。事前に入力されたプログラムにより自律飛行が可能で、ミサイルの巡航速度に近いスピードで飛行し、迎撃用のミサイルなどの射撃訓練用に使用される。
射弾審査(命中判定)機能を備えているため、直接着弾しなくても命中判定を行うことができる。戦後まもなく日本の民間企業で開発された「ファイター・ボンバー(FB)」は「対空射撃用標的(UAV型)」と同様の運用が可能で、2020年から配備されている。
敵の戦闘機・ミサイルの飛行を再現します
【横井力2等陸尉】
飛行班長として標的機の飛行統制や教育・訓練に務めている
「他国の戦闘爆撃機や巡航ミサイルなどの飛び方を再現するなど、射撃部隊が要望する実戦的飛行コースを実現させるため、飛行コースの作成や発射時間の調整など、事前に入念に準備を行います。
標的艦艇(海):艦艇の大砲・機関砲などの標的
標的艦は、護衛艦などに搭載している魚雷や大砲、機関砲、機関銃などの射撃訓練の標的に、除籍となった実物の艦艇などを使用するものであり、貴重な訓練機会となっている。
自衛隊では、港内で艦艇の出入港を支援するえい船などの小型船舶を標的艦にすることが多いが、護衛艦を標的艦にすることもある。訓練の約1カ月前から入念な計画を立て、数日前に射撃を行う海域まで標的艦をえい航させる。艦体は、視認性の向上と射撃後の損傷具合を確認しやすくするため、あえて一部を黄色に塗装している。
射撃訓練では、まず機関銃による射撃や標的艦の至近距離に着弾させるように大砲を撃つなど、標的艦の損傷が小さい射撃から行われ、機関砲による射撃、複数艦で同時に大砲を命中させる射撃と、徐々に損傷が大きい射撃へと移行。標的艦の沈没後は、哀悼の意を表すため黙とうなどの追悼行事を行う。
標的艦を使う訓練は実戦さながらの射撃が経験できるため、保有している火器類がどれほどの破壊力、攻撃力を有しているのか隊員自身が実感でき、以後の任務において貴重な経験となる。
艦艇への実射は非常に貴重
【髙畑康博2等海佐】
大砲、ミサイル、機関銃など、護衛艦における射撃関連の訓練指導や部内規則の制定・改定などを行う
「標的艦を使用する訓練は、頻繁に実施できないため、参加すること自体が初めてという隊員が多くなります。貴重な機会なので、内容が満足するものであるかどうか、実施部隊の安全面に不安がないかなど、事前にシミュレーションを行うなど、入念に準備を行います」
(MAMOR 2024年5月号)
<文/古里学 写真/防衛省提供、鈴木教雄>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです