自衛隊には国を守るために、小銃からミサイルまで、さまざまな“飛び道具”がある。どれほど道具が高性能でも、敵に当たらなければ用を成さない。そこで、必要なのが隊員による射撃訓練だ。
さらにその射撃訓練に必要なのが、標的。一口に標的と言っても、陸地に設置する・走らせる、海に浮かべる・航行させる、空を飛ばすなど、さまざまな標的がある。
それがどの射撃装備品のための標的なのか、どのような工夫が凝らされているのか、今回は陸上自衛隊と海上自衛隊で使われている3つの標的を見てみよう。
高速標的機(陸・海):敵航空機や敵ミサイルを撃ち落とすミサイルや大砲の標的
<SPEC>全長:約4m 全幅:約2m 全高:約1m
飛来する敵航空機や敵ミサイルなどを撃ち落とす迎撃用ミサイルの標的えい航機材として陸上・海上自衛隊で使用されているのが高速標的機だ。
陸上自衛隊の81式短距離地対空誘導弾や93式近距離地対空誘導弾、87式自走高射機関砲、海上自衛隊のミサイルや大砲などの射撃訓練に使われる。高速標的機は、地上や艦上から無線で誘導されながらミサイルと同様に飛行、迎撃ミサイルが近距離を通過することで迎撃できたかどうかが判断できる射弾審査(命中判定)機能を備えている。
また地上や艦上からの無線が途切れても、ある程度の自律飛行の後、パラシュートで安全に降下することが可能だ。
訓練では、高速標的機により標的をえい航し、射撃訓練を行う。終了後は機体内に格納されたパラシュートを開いて海上に着水、回収して再利用する。陸自では静内駐屯地(北海道)などに配備され、海上自衛隊では訓練支援艦に搭載されている。
細部まで入念に調整しています
【松永美孝1等海尉】
訓練支援艦『くろべ』で航空標的の運用を統括する
「海上自衛隊では、高速標的機は艦艇のミサイルや大砲の射撃のほか、艦艇のレーダーが照準を合わせる標的としても使用しています。実戦的かつ安全に飛行させるために、飛行プログラムの調整や各システムやセンサー類のチェックなど、細部まで気を引き締めて運用しています」
低速標的機(陸):敵航空機を撃ち落とす機関砲の標的
<SPEC>全長:約4m 全幅:約4m 全高:約1m
主に敵の航空機を地上から撃つ機関砲(87式自走高射機関砲など)の射撃訓練の標的機として使用する。
低速標的機本体は全長約4メートルのエンジンによって飛行するプロペラ機で、機体後部から150メートルほど延ばしたワイヤーで模擬目標をえい航、射撃部隊はそれを標的とする。
標的には、射弾審査(命中判定)機能を備えた自動計測器が搭載されているため、訓練終了後は遠隔操作で落下傘を開き着水、回収する。低速標的機は1996年から採用され、前出の第101無人標的機隊のほかに八戸駐屯地(青森県)の第303無線誘導機隊、飯塚駐屯地(福岡県)の第304無線誘導機隊に配備されている。
使用後は回収します
【亀山朋弘3等陸尉】
標的機の組立整備、回収の統制などの補佐を行っている
「低速標的機には着水しても浮き上がる装備があり、回収後は整備・点検をして再使用に備えます。また不具合や問題点があったときはその原因を追究し、次の訓練時に反映するようにしています。
機体はもちろんですが、射撃の命中判定を正確にしなければならないので、命中に関わる機器の点検も怠らないようにしています」
対空射撃用標的(UAV型)(陸):敵航空機を撃ち落とすミサイルの標的
<SPEC>全長:約3m 全幅:約3m 全高:約1m
「UAV」とは「無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle)」の略称。対空射撃用標的(UAV型)は高射部隊が使用する敵ミサイルや航空機などを撃ち落とす射撃訓練時に使用されるプロペラ機で、2020年から配備されている。地上からの遠隔操作ではなく、事前に入力されたプログラムにより自律飛行が可能になっている。
運用は4人で行い、レーダー操作や飛行状況の監視などは主操作員が、射撃部隊への情報提供は副操作員が、電波の送受信状況の監視はレーダーオペレーターが行う。
飛行状況はGPSや、カメラでリアルタイムに確認でき、飛行プログラムが終了したときに事前に指定されたポイントで海上にパラシュート降下、また異常発生時には緊急着水できるよう安全機能も装備されている。
飛行のプログラミングも行います
【高橋真人2等陸曹】
管制装置の整備や飛行コースの作成、プログラム入力などを行う
「UAV型は低速標的機と外形は似ていますが、一回りほど小さくなっています。最高速度や落下傘による着水など機能も似通っていますが、訓練前には通常の組み立て・点検だけでなく、自律飛行ができるので飛行コースの作成、プログラミング入力が必要となります。
また機体自体に直接着弾させるので、使用後は廃棄し、一部の部品は再利用しています」
(MAMOR 2024年5月号)
<文/古里学 写真/防衛省提供、鈴木教雄>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです