よりやりがいのある仕事を求めて転職するのが当たり前になったいま、民間企業から自衛隊に転職するケースも、珍しくないようだ。
ただ、自衛隊を転職先と考えた場合、一般企業を選ぶ際と同様に、任務内容だけではなく「福利厚生」も気になるところだ。自分のライフスタイルに合った働き方ができるのか? 充実した私生活があって、初めて仕事にやりがいを感じるのではないだろうか。
また、全く経験のない自衛隊に転職しても自分に務まるだろうかと不安を覚えるかもしれない。しかし、自衛隊には盤石の教育体制が整っている。“落ちこぼれをつくらない教育”ともいわれ、分かるまで、できるまで、命を預け合う先輩や仲間が、親身になって指導し、教えてくれるのが、自衛隊の教育なのだ。
そこで、自衛隊に用意されている主な福利厚生や、キャリア支援制度について説明しよう。
自衛隊の手厚い福利厚生を見逃すな!
福利厚生など隊員生活のサポート制度が充実
自衛官は有事に備え、階級が曹・士で20代の独身自衛官は、基本的には、基地・駐屯地内にある隊員用の居住区域や艦艇などの「営内」で生活することが法律で決められている。
基地・駐屯地によって違いはあるが、コンビニや銀行のATM、食堂、喫茶店、クリーニング店、体育館、図書室など、生活を充実させるための機能が備わっている。課業が終了した後に、休日は午前8時以降に外出することが可能。また、営内生活者であれば、衣食住に関わる料金は、基本的に無料とされている。
なお、階級が2曹以上で30歳以上の隊員か、階級が尉官以上の幹部自衛官、または既婚者は、基地・駐屯地の外に住むことができる。その場合、1K相当の単身用から3DK相当の世帯用まである宿舎が整備されていて、相場と比べ低価格での居住が可能だ。宿舎に入居せずに民間のアパートなどを借りる場合には、住居手当が支給される。
勤務は週休2日制で、自衛隊で「年次休暇」と呼ばれる有給休暇は、月に2日とることができる。夏季や年末年始の特別休暇があるのはもちろん、育児や介護などのための特別休暇も完備されている。
例えば、女性自衛官の出産時には、産休・育休を含め約3年間、休業可能なのに加え、男性自衛官にも「配偶者の出産特別休暇」や「育児参加のための特別休暇」などの制度がある。さらに、出産前には、不妊治療や妊産婦の保健指導、健康診査のための特別休暇などがあり、出産後は、子どもが病気になった際の看護のための特別休暇の制度まである。
乳幼児を預ける必要がある場合には、全国に計8カ所の基地や駐屯地近傍に設置された託児所を利用できる。災害派遣などの要員になった場合は「緊急登庁支援制度」により一時的に駐屯地などに子どもを預けることも可能だ。また、配偶者や子ども、自身の父母、配偶者の父母の介護をする必要があるときには、介護休暇を取得することもできる。
フレックスタイム制度の導入や在宅勤務もある!
そのほかにも、結婚や近親者に不幸があった際など、それぞれのライフイベントに応じた休暇・休業の制度も。なかでも珍しいのが、「配偶者同行休業」制度。自衛官の配偶者(民間人でも可)が海外赴任を行う場合、子どもを含めて家族で同行し、最大で3年間、休業できる制度だ。
さらに自衛隊では、政府が主導する「働き方改革」を実現するためのさまざまな制度を整備している。早朝出勤や遅い時間帯の出勤、フレックスタイム制度が導入されているので、子育てなど、各隊員の家庭の事情に合わせた勤務形態をとることができる。
コロナ禍で環境整備が進められたテレワーク=在宅勤務を実施する自衛官も。主に事務職を担う自衛官が、職場と同じ情報システム環境で任務を遂行している。
自衛隊ではこのように、福利厚生など隊員の生活のサポート制度が驚くほど充実している。ワークライフバランスを実現するための諸制度の整備も日々、進められているのだ。
自衛隊の教育体制がキミをレベルアップ!
入隊から退官後までキャリア形成を支援
自衛隊ではどのルートで入隊したとしても、誰もがまずは基礎教育を受ける。自衛官として必要な知識や技術、体力、精神、集団行動などを約3~5カ月の寮生活によって身に付ける教育訓練が行われるのだ。
その後、各隊員の希望をもとに、適性検査や作業検査などの結果と併せ、総合的な評価によって職種が決められる。これ以降、自衛官は階級に応じた教育と各専門分野の職種に応じた教育を受けることになる。
自衛官候補生や一般曹候補生として入隊した自衛官のキャリアアップという点で最初のステップとなるのは、「士」から「曹」の階級への昇任だ。
任期制隊員である士から非任期制隊員である曹へ昇任すると、部下となる士の指揮などを行う立場としての教育を受ける。幹部候補生として入隊し、3尉以上となった幹部自衛官は、部隊の管理者として教育を受ける。
こうして、各階級の自衛官として求められる行動規範や指揮の要諦などを学びながら、自分の専門職種のさらなるスキルアップを目指す。教育機関での学習と部隊でのOJT(現場での実践による教育)を何度も往復し、学習と実践を繰り返す。
例えば、一般曹候補生として海自に入隊した場合、約4カ月の基礎教育を経た後、各職種の部隊へと配属。そこから、より技能を高めるため、隊員に対して必要な技能を習得させるための教育訓練などを行う機関である術科学校に入校。そこで約3~12カ月の教育を修了してから約4カ月間の部隊勤務を経験。次に海曹への昇任を目指す海曹予定者課程に入り、約3カ月間、海曹として必要な素養を身に付ける。
より専門性に特化した教育システムも
また、各階級、各職種に応じた資格を取得することでスキルアップしていく。自衛隊では、各任務に必要とされる各種自動車の運転免許や無線通信士、測量士、調理師免許などの資格を取得するための教育が受けられる。
さらに、自衛隊では、より専門性に特化した教育システムがある。例えば、各自衛隊では、それぞれの航空部隊のパイロットを養成するための教育課程や、海自の潜水艦課程、陸自の空てい部隊の養成課程など、多種多様な教育ルートが用意されている。
その一方、各自衛隊共通の学校として、高級幹部を養成する統合幕僚学校などもある。そのほかに、語学の教育課程もあり、陸自では基礎英語課程や普通英語課程などで、海自でも外国語の基礎課程や留学生課程などで外国語教育を受けられる。
定年退職後のキャリアサポートも充実している。国防のための精強さが求められる自衛官は、50歳代という若年での定年制となっている。そこで、退職後の就職を援護するため、大型車両の操縦訓練などの技能訓練や業務管理教育、企業でのインターンシップ、各種通信教育などを、退官前の隊員に行っている。
自衛隊ではこのように、入隊から退官後まで、まさに至れり尽くせりの教育体系があり、各隊員の生涯を通じたキャリア形成をバックアップしているのだ。
働きながら予備自衛官という手もある!
保有資格・技能を活かし自衛隊の後方支援に従事
陸上自衛隊には、普段は社会人や学生として生活しながら、有事の際に自衛官として活動する「予備自衛官等制度」がある。
現職の自衛官と一緒に現場で任務につく「即応予備自衛官制度」と、部隊が出動した際の駐屯地の警備や補給、通訳などの後方支援の任務につく「予備自衛官制度」、予備自衛官に任用されるために教育訓練を受ける「予備自衛官補制度」がそれだ。予備自衛官補の募集の「一般」コースでは、18歳以上52歳未満であれば誰でも応募が可能。
各種専門技術のある人を募集する「技能」コースでは、18歳以上で、保有する技能によって53~55歳未満の人が対象となる。
医療や語学、情報処理、通信、電気、土木建築、整備、法務などに関わる技能資格のある人が、自衛官として働けるこの制度。興味のある人は陸自のホームページを要チェックだ。
(MAMOR2024年4月号)
<文/魚本拓 写真提供/防衛省>
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