2024年1月1日16時10分。最大震度7の巨大地震が石川県の能登半島を襲った。
発災直後には、航空自衛隊千歳基地のF-15戦闘機などが被災地の偵察のために発進。その後、石川県知事からの災害派遣要請を受け、本格的に災害派遣活動を開始し、翌2日に防衛省・自衛隊は統合任務部隊を編成、最大で約1万4000人態勢をもって、被災地で救難・支援活動を行った。2月2日には統合任務部隊を解散。
マモルでは、その32日間に自衛隊がなにをしたかを記録した。
前編となる今回は、2024年1月1日~1月14日の自衛隊の活動を紹介する。
災害派遣部隊の活動実績
能登半島地震の発生により、自衛隊では陸・海・空各自衛隊が1つになって災害派遣活動を行う、統合任務部隊(注1)を編成した。これは、東日本大震災、熊本地震に次いで、大規模地震災害では3例目の編成となる。
被災地は道路の寸断などで、報道関係者が立ち入れない場所などもあって、テレビなどではあまり目にすることができなかった活動なども含めて、自衛隊員たちが行った活動を発災日から日にちを追って紹介する。
(注1)有事や大規模な災害などの際に陸・海・空各自衛隊の部隊を統合して編成される部隊
2024年1月1日:石川県の能登半島に最大震度7の地震発生
16時10分、能登半島地震が発生。発災直後、すぐさま航空自衛隊(以下、空自)の戦闘機8機が緊急発進し被災地の状況を司令部へ伝えた。
16時45分、石川県知事から、陸上自衛隊(以下、陸自)第10師団長に、珠洲市、輪島市、七尾市、志賀町、穴水町、能登町に対する災害派遣要請があり、自衛隊は同時刻受理。
17時30分以降、陸自東北方面航空隊、中部方面航空隊などの航空機が発進し被災地の様子を映像で伝達。また、海上自衛隊(以下、海自)の艦船が毛布、紙おむつ、ミルクなどの救援物資を搭載し舞鶴基地から被災地へ向けて随時出港した。
さらに、陸自第1ヘリコプター団、第3飛行隊、海自第23航空隊、第2航空群、第4航空群、空自航空救難団などが出動し、被災地の情報収集、人員輸送などを行った。
一方、被災地に所在する空自輪島分屯基地の隊員たちが避難を要する住人約1000人を受け入れ、夜を徹して水や食料、毛布などを配った。また、倒壊家屋から生存者の救助を行った。
1月2日:発災翌日は未明から人命救助や警察・消防の人員輸送を実施
1時46分、空自輪島分屯基地の隊員が基地付近で倒壊したビルに閉じ込められていた被災者3人を救助。陸自中部方面航空隊は輸送ヘリコプターCH-47で警察の広域応援部隊約200人を空自小松基地から輪島分屯基地まで輸送。
陸自第14普通科連隊が被災者を20人救助するほか、穴水町、七尾市において給水支援をスタートさせた。
また、海自の護衛艦『あさぎり』は消防の広域応援部隊約40人の輸送を実施。空自小松救難隊は孤立した地域の被災者約50人を輪島市内の中学校へと救出した。
また、海自の艦艇『はやぶさ』、『ありあけ』、『はつしま』、『おおすみ』などが情報収集や救援物資、毛布、重機、ポリタンクを輸送。
またこの日、陸自中部方面総監を長とする統合任務部隊が、陸・海・空の隊員、約1万人態勢で編成された。
1月3日:隊員を2000人に増強して生活支援活動を開始
未明から各地で懸命な捜索活動が開始された。1時47分、空自の人員捜索犬4頭による捜索活動を実施。陸自第14普通科連隊、空自新潟救難隊などが被災者を救助し病院へ搬送したほか、陸自第35普通科連隊は孤立した地域の被災者を航空機や車両で搬送した。
海自の護衛艦『あさぎり』に搭載された救難ヘリコプターSH-60が消防の広域応援部隊約40人を珠洲市の野々江総合公園へ輸送するほか、パンや水などの物資輸送も実施した。
また、陸自中部方面航空隊、海自の護衛艦『すずなみ』に搭載されたSH-60が毛布、ポリタンクなどを輸送。陸自第14普通科連隊、第35普通科連隊、空自第6航空団、高射教導隊が、珠洲市と志賀町、能登町、穴水町、七尾市でそれぞれ給水活動を行った。
一方で陸自第372施設中隊、第382施設中隊は地崩れや地割れで通行困難になった県道のがれき撤去や段差の修復を実施。
また、この日より岸田総理大臣からの指示を踏まえ、自衛隊は陸・海・空から1個連隊約800人規模の隊員を投入し、被災者のニーズに寄り添った生活支援活動を開始。
1月4日:避難先となった公民館や小学校で給食支援を開始
被災地は断水による深刻な水不足に陥り、2時45分から陸・空の隊員による給水支援を実施。また、陸自第10飛行隊、海自の護衛艦『ありあけ』に搭載されたSH-60、空自航空救難団、小松救難隊などが妊婦、病人、高齢者などの搬送を実施。
陸自第35普通科連隊などは輪島市内で多数の被災者救助を行った。また、中部方面航空隊や第36普通科連隊は被災者へ物資を緊急輸送したほか、第10普通科連隊、海自『ありあけ』、『あさぎり』に搭載されているSH-60による、水、食料、生理用品、簡易トイレなどの物資輸送を実施。
さらに、空自第6航空団が七尾市などで給食支援を行った。また、この日、富山県知事からの災害派遣要請を受け、陸自中部方面後方支援隊は翌日より氷見市内で給食支援を開始した。
1月5日:自衛隊の医官らが病院と避難所で医療支援を実施
陸自第14普通科連隊は珠洲市の道の駅「すず塩田村」周辺で生き埋めになっていた被災者5人を捜索し発見した。
また、空自は人員捜索犬を12頭に増やして捜索活動を実施。陸自中部方面航空隊、空自小松救難隊などは孤立した地域の被災者を捜索・搬送した。
またこの日、空自第6航空団が医官などを送り込み、輪島市内の病院や仮設救護所での医療支援を実施した。
さらに、陸自中部方面航空隊は輪島分屯基地へ消防官約50人の輸送を実施。一方、海自の『ありあけ』、『すずなみ』搭載のSH-60は毛布や簡易トイレなどの輸送を行った。
1月6日:避難所などでの入浴などの支援活動が広がり始める
陸自第4施設団が県道にある巨石の除去を行うほか、第372施設中隊が珠洲市の用水路復旧のためにがれき撤去を行った。
また、陸自第10飛行隊が輪島消防ヘリポートから高洲山へ消防官と軽油180リットルを輸送。海自のエアクッション艇LCACは輪島市の大川浜へNTTの車両2台を揚陸。
また、陸自中部方面航空隊や海自の『すずなみ』など搭載のSH-60は、簡易トイレなどの物資を輸送。早朝から陸・空の部隊による給水・給食支援が行われた。
この日、珠洲市や七尾市の小学校で陸自第13後方支援隊、海自舞鶴地方隊による入浴支援を開始。
1月7日:輪島市や珠洲市で道路の修復やがれきの撤去が行われる
陸自第6施設群が土砂で通行できなくなった輪島市内の道路の復旧作業を行い、第10施設大隊は能登町の内浦総合運動公園の土砂やがれきの撤去を実施。
また、空自小松救難隊や新潟救難隊が被災者などの輸送を行った。
さらに、陸自第33普通科連隊の車両4両により輪島市内への物資輸送を行うほか、海自の護衛艦『せとぎり』に搭載されているSH-60が輪島市門前町総合運動公園などに物資輸送を行った。
1月8日:NHK職員や消防隊員、消防車両などの輸送を実施
陸自中部方面航空隊は輪島分屯基地のレーダーサイトにNHK職員を、珠洲市へ消防隊員を輸送。
また、海自の護衛艦『さわぎり』に搭載されているSH-60や空自入間ヘリコプター空輸隊などが妊婦を含む被災者などの搬送を実施。陸自第10特科連隊、海自の『すずなみ』、『せとぎり』に搭載されているSH-60、空自第23警戒隊などが食料、水、毛布、燃料などの物資輸送を行った。
空自第3輸送航空隊は大型輸送機C-2により、入間基地から小松基地へ消防車両4両の空輸を実施。
1月9日:即応予備自衛官(注2)が被災地に出動し、生活支援活動を開始
空自入間ヘリコプター空輸隊がCH-47を投入し輪島港から患者約30人を福井空港に搬送。
また、空自航空救難団、陸自中部方面航空隊などが医療従事者や患者の搬送を実施。また、海自の護衛艦『さわぎり』、『すずなみ』に搭載されているSH-60などが小学校のグラウンドなどへ物資輸送を行った。
空自の高射隊などが広範囲にわたる給水支援を実施。海自の『せんだい』などによる給食支援、陸自第14後方支援隊などによる入浴支援が行われた。
この日より、即応予備自衛官による初となる被災地での生活支援活動も開始。また、富山県知事からの災害派遣撤収要請を受け、富山県での災害派遣活動を終了。
(注2)普段は社会人や学生として職業や学業などに従事し、有事などの際は防衛招集命令などを受けて自衛官となる非常勤の特別職国家公務員
1月10日:医師や看護師の資格を持つ予備自衛官が支援部隊に合流
大規模火災の起こった輪島市朝市地域で陸自第10特科連隊、空自第23警戒隊などが警察・消防と共同で行方不明者の捜索を実施。また、陸自中部方面航空隊、空自入間ヘリコプター空輸隊が避難者や患者を搬送。
陸自第3特科隊、海自の『さわぎり』、『せとぎり』、『あさぎり』に搭載されているSH-60などが小学校グラウンドや体育館などへ物資輸送を実施。陸自第10施設大隊、第402施設中隊などが人命救助や生活支援物資輸送のためのがれき除去を行った。
また、陸・海・空の多数の部隊が給水支援、給食支援、入浴支援を各地で実施。この日、医師や看護師の資格を持つ予備自衛官が災害派遣活動に合流した。
1月11日:道路修復や生活支援の場を拡大して実施
空自航空総隊隷下部隊が名古屋空港や輪島港へ約20人の患者輸送を実施。陸自中部方面航空隊が輪島市の孤立地域の公民館で巡回診療を行った。
海自の掃海艇『あいしま』がゴムボートで輪島市の孤立地域へ上陸して物資を輸送。
陸自第4施設団などが珠洲市で、がれきの撤去を実施。陸自第10師団司令部付隊などが給水支援を行い、空自第7航空団などが給食支援を実施。海自の舞鶴地方隊などが入浴支援を実施した。
1月12日:能登空港の仮復旧により空自大型輸送機の運用を開始
空自第401飛行隊と第403飛行隊が重機の輸送のため、大型輸送機C-2、C-130で能登空港に着陸。また、第1航空団と第7航空団、中部航空警戒管制団がドローンにより、土砂崩れの起きた輪島市にある高洲山の被害状況を調査した。
また、海自の『あさぎり』に搭載されているSH-60や空自入間ヘリコプター空輸隊などが物資輸送を実施。陸自第10特科連隊は即応予備自衛官とともに食料などの物資輸送を行った。また、海自の艦艇『ひうち』、空自第6航空団などが給水支援を実施。
また、陸自第14後方支援隊、空自第7航空団などが給食支援を、陸自西部方面後方支援隊などが入浴支援を行った。
1月13日:医師や看護師の資格を持つ予備自衛官が巡回診療を開始
陸自第14普通科連隊、空自第23警戒隊などが珠洲市役所や輪島市内の病院などへ患者や被災者などの人員輸送を実施した。
また、陸自中部方面後方支援隊が穴水地方合同庁舎から輪島市の三井公民館へ、第10特科連隊、第33普通科連隊などが輪島市内の小学校や中学校などへ物資輸送を行った。
雪が降り積もるなか、陸自第35普通科連隊、第10施設大隊などはがれきの撤去などに従事した。この日から孤立集落の医療ニーズに応えるため、医師や看護師の資格を持つ予備自衛官が、孤立地域での巡回診療を開始した。
1月14日:PFI船を活用して被災者の一時休養施設などを開設
陸自中部方面航空隊が被災者約100人を2次避難させるために搬送した。また、輪島市と七尾市などをつなぐ国道249号線の修復を行うため海自の輸送艦『おおすみ』搭載のLCACで重機などを輪島市深見海岸へ揚陸した。
同日、防衛省がPFI方式(注3)で契約している民間船舶フェリー『はくおう』などを七尾港に派遣。陸自東部方面隊のPFI船舶支援隊が石川県と協同して、被災者のための一時休養施設として『はくおう』などの運用を開始した。
(注3)国が民間企業の資金、能力を活用する行政手法。防衛省は普段は民間の会社が所有、維持、管理、運航する民間船舶フェリー『はくおう』、『ナッチャンworld』を災害派遣などで優先的に運航サービスが提供される契約を締結した
1月15日:避難者などの人員輸送を空自が航空機で実施
空自航空救難団が輪島港から避難者約20人の輸送を実施。また、海自の護衛艦『ゆうだち』、『せとぎり』に搭載のSH-60などが空自輪島分屯基地へ物資輸送を行った。
陸自第35普通科連隊は輪島市にある諸岡公民館の破損した屋根を補修するため、ブルーシートを張った。また、継続して陸自第372施設中隊などが土砂・がれきの除去を実施。
さらに、空自第15高射隊などが給水支援を行い、空自第3移動警戒隊などが給食支援を、陸自第13後方支援隊などが入浴支援を行った。
1月16日:衛生隊や予備自衛官が衛生支援活動を実施
感染症の感染が危惧される避難所などにおいて、陸自中部方面衛生隊や第10後方支援衛生隊、予備自衛官などが、珠洲市、輪島市、能登町、穴水町、七尾市で被災者への医療や防疫を行う衛生支援を実施した。
また、空自第23警戒隊が能登空港へ被災者の2次避難のための輸送を行った。陸自第35普通科連隊などが輪島市内の集会所の屋根をブルーシートで補修する作業に従事。
また、この日も陸・海・空多数の部隊による、給水支援、給食支援、入浴支援が行われた。
1月17日:在日アメリカ軍のヘリコプターが被災者物資輸送支援に参加
被災地から生活環境の整った場所へ避難する2次避難を支援するため、陸自中部方面航空隊、第10飛行隊、空自入間ヘリコプター空輸隊、航空救難団、第23警戒隊、第6航空団が避難者の輸送を実施。
また、陸自第10飛行隊が宝立山と高洲山へ消防隊員2人と物資の輸送を行った。さらにこの日は、在日アメリカ軍が多用途ヘリコプターで被災者への支援物資、カップラーメンや紙おむつなどを能登空港まで輸送した。
(MAMOR2024年5月号)
<文/魚本拓 写真提供/防衛省>
※当記事は2024年3月6日時点における内閣官房・防衛省・自衛隊のホームページなどの情報をもとに編集しています