•  わが国の防衛体制は、近年、中国の海洋進出や北朝鮮のミサイル発射実験などを念頭に、日本の南西地域での自衛隊の活動を増強する方針が進んでいる。

     これに伴い部隊の新設や新装備の導入が進み、補給や輸送に関わる体制も変化の時を迎えた。新時代に対応する自衛隊の補給と輸送の取り組みを紹介しよう。

    自衛隊の物流を支える各種補給処

    画像: 陸自関東補給処の自動倉庫。納品された物品は納入時期や製造元が記されたタグを付けて管理の効率を上げている

    陸自関東補給処の自動倉庫。納品された物品は納入時期や製造元が記されたタグを付けて管理の効率を上げている

     自衛隊の活動に必要な物品の調達、保管、整備、供給を行うのが各自衛隊の補給処。たとえ最新鋭の装備品でも小さな部品が1つ欠けただけで正常に稼働することはできない。補給処は自衛隊の縁の下の力持ちだ。

     陸上自衛隊は北海道、東北、関東、関西、九州に5つの補給処がある。霞ヶ浦駐屯地(茨城県)にある関東補給処は約8万品目、400万点の物品を管理し、自動倉庫を持つ。

     自動倉庫は在庫数や保管場所などをデータで管理し、物品を指定すると1つひとつを機械がピックアップ。

    画像: 空自第4補給処で物品の搬出作業を行う隊員。物品を基地など配送先ごとに仕分けする 撮影/荒井健

    空自第4補給処で物品の搬出作業を行う隊員。物品を基地など配送先ごとに仕分けする 撮影/荒井健

     無人のカーゴで運ばれ作業者の元に届く仕組み。戦車や装甲車を扱う火器車両部など担当装備品で部署が分かれているのも特徴だ。

    海自と空自では特徴ある装備品も

     海上自衛隊には横須賀基地(神奈川県)の艦船補給処と航空補給処(千葉県)の2カ所の補給処がある。

     それぞれ海自が所有する艦艇および航空機の搭載装備品の調達、補給、管理などを行っている。

    画像: ガソリン、軽油、灯油などの燃料はドラム缶で保管。とり違わぬよう種類ごとに目印を付けて管理する

    ガソリン、軽油、灯油などの燃料はドラム缶で保管。とり違わぬよう種類ごとに目印を付けて管理する

     航空自衛隊の補給処は岐阜基地(岐阜県)の第2補給処、入間基地(埼玉県)の第3、4補給処の3カ所。

     最大規模の第4補給処で扱っているのは約29万品目で、パイロット育成用の教材の部品や、滑走路上で十分に制動できなくなった航空機を止めるために使うネット式のバリアなど、空自でしか見られない各種物品も扱っている。

    陸上自衛隊の補給・物流教育がすごい!

    画像: 夜間に野外洗濯セットを設置する訓練。敵の目から隠すため偽装網で装備を覆い実施 撮影/荒井健

    夜間に野外洗濯セットを設置する訓練。敵の目から隠すため偽装網で装備を覆い実施 撮影/荒井健

     陸自では物品の補給・管理を「需品科」が担当。この需品科の隊員を教育しているのは、松戸駐屯地(千葉県)にある陸上自衛隊需品学校だ。衣食住にまつわる全てのことを教えている。

     その科目は多彩で、食に関しては栄養、衛生や調理、食事の礼儀作法までカリキュラムに入っている。

    需品学校の教官・高田允耶1等陸尉は「年間約900人が需品学校で衣食住に関わる教育を受けています」と話す

     また浄水セットや洗濯セットなどは夜間に野外で運用することも多いため、実際の状況を再現して演習、現場での即戦力となるよう教育。落下傘の整備、補修、それを使った空中投下、各種燃料の積み込みなども需品学校ならではの実習だ。

     課程を修了した隊員は、全国5つの補給処などに配属される。衣食住に深く関わる職種のため、災害派遣も多い。

    危険な重量物を移送する技量を育てる輸送学校

    画像: 輸送の教育では積載のノウハウに加えて安全な固定法なども学ぶ 撮影/荒井健

    輸送の教育では積載のノウハウに加えて安全な固定法なども学ぶ 撮影/荒井健

     自衛隊の活動範囲が広範囲におよび、外国軍との共同訓練などが増えているのに合わせ、物流の一翼を担う「輸送科」の重要性が増している。

     自衛隊の装備品は重量がある上に弾薬など危険物も多く、自衛隊における輸送のプロを養成しているのが朝霞駐屯地(東京都)にある輸送学校だ。

    輸送学校の教官・東淑子1等陸尉は「民間の物流企業でも研修し、時代の変化に順応すべく活動しています」と話す

     教育課程は座学と輸送車両などを使った実務研修、加えて幹部は模擬的な状況を想定し地図上で試行する図上演習などの教育訓練にも参加し、輸送計画の立案なども学ぶ。

     実習もトレーラー、鉄道コンテナ、艦艇などさまざまな輸送手段に対して行われる。教育では最新技術を学ばせ、広い視野から輸送任務を達成できる隊員を育成中だ。

    (MAMOR2024年3月号)

    <文/古里学 写真提供/防衛省(特記を除く)>

    物流クライシス2024 日本は乗り越えられるか?

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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