•  わが国の防衛体制は、近年、中国の海洋進出や北朝鮮のミサイル発射実験などを念頭に、日本の南西地域での自衛隊の活動を増強する方針が進んでいる。

     これに伴い部隊の新設や新装備の導入が進み、補給や輸送に関わる体制も変化の時を迎えた。新時代に対応する陸上自衛隊の補給と輸送の取り組みを紹介しよう。

    大規模演習で行う兵站(へいたん)の訓練

    画像: 73式特大型セミトレーラは通行可能な道路も限られる。そのため、事前の経路設定をした上で訓練する 撮影/長尾浩之

    73式特大型セミトレーラは通行可能な道路も限られる。そのため、事前の経路設定をした上で訓練する 撮影/長尾浩之

     輸送や補給など兵站(戦闘を行う部隊に対して、物資や食料の補給、武器や器材の整備、人員の救急搬送や補充などを行い支援すること)に関して、自衛隊はどのような訓練を行っているのだろうか。

     例えば、北海道千歳市の東千歳駐屯地に所在する陸上自衛隊第7師団は、戦車や装甲車など機動性の高い装備品を持つ部隊で、全国の陸自の中でも部隊を素早く展開させる力が求められている。そのため、普段は駐屯地や演習場の中で運用されている装備品を輸送する「長距離機動訓練」が行われている。

     これは東千歳駐屯地から厚岸郡と野付郡にまたがる矢臼別演習場までの約400キロメートルを2夜3日(注)で行う訓練。

     戦車などが公道を自走し、トレーラーや鉄道、フェリーなども活用して行われる。

    (注)連続で3日間訓練などをする際は、交代で仮眠はとっても宿泊しないので「2夜3日」という

    大規模演習の一環として後方支援の訓練も実施

    画像: 陸路で作戦展開地である日出生台演習場に向かう軽装甲機動車などの陸自車両。高速道路での移動ではサービスエリアで給油も実施した

    陸路で作戦展開地である日出生台演習場に向かう軽装甲機動車などの陸自車両。高速道路での移動ではサービスエリアで給油も実施した

     各種器材など物資の輸送や補給に関する訓練はほかにもある。

     陸・海・空3自衛隊合同で戦闘訓練などを行う「自衛隊統合演習」や、陸自の全部隊が参加する陸上自衛隊演習(陸演)などで兵站の訓練を実施。

     2021年9月から11月にかけて行われた陸演は南西諸島に敵が侵攻した想定で実施され、全国各地から陸自隊員約1万2000人が九州の日出生台演習場(大分県)に移動する機動展開訓練を行った。

     兵站分野では作戦遂行のために必要な補給品を集積、こん包の手順確認や作業時間の確認、実際に作戦地域に届ける輸送訓練などが行われた。

    息の合った調整で車両を搭載

    画像: 隊員の誘導で73式特大型セミトレーラの荷台へ上がる120MSP。停車位置を細かく修正し、搭載 撮影/長尾浩之

    隊員の誘導で73式特大型セミトレーラの荷台へ上がる120MSP。停車位置を細かく修正し、搭載 撮影/長尾浩之

     戦車などの無限軌道車で舗装路を走る場合、路面と履帯を傷めぬようにゴム製パッドなどを装着する必要があるため時間を要する。また、無限軌道車の多くは速度も遅く、例えば96式自走120ミリ迫撃砲(120MSP)の最高時速は約50キロメートルだ。

     そこで迅速に移動する際は大型トレーラーに積み込み輸送することになるが、120MSPの車幅は約3メートル。それを積載する73式特大型セミトレーラの荷台の幅は3.29メートルで、余裕は約30センチメートルしかない。

     搭載方法は、まずトレーラーの後部にスロープを設置し、それに対し車両が真っすぐになるように位置を調整。その後、操縦手が誘導役の隊員の指示で荷台の上まで自走させる。わずかなズレで落下する危険もあるため、正確な幅調整が求められる。

     車載は全員の息を合わせた隊員の連携が重要なのだ。

    衣食を支える兵站装備品

    画像: 野外での任務を想定し、訓練も屋外で実施。装備品の展開から撤収までひと通りの訓練を行い精度を高める

    野外での任務を想定し、訓練も屋外で実施。装備品の展開から撤収までひと通りの訓練を行い精度を高める

     陸上自衛隊の隊員が活動する場は野外が多い。そこで野外でも任務がスムーズに遂行できるよう、陸自には衣食住に関するさまざまな装備品が配備されている。

     その特徴は、さまざまな機能がコンパクトにセットされ、使いやすくて頑丈、機動性に富んでいること。また短時間で大量の処理が可能であること。さらに電源やきれいな水などが制限される環境でも機能すること。

     多様で困難なニーズに対応するべく開発、改良された装備品の数々だが、これらを現場で手際よく運用するために、隊員たちは日夜訓練を重ねている。

    野外炊具1号:炊飯、焼・煮・炒・揚げ物ができる調理用装備品

    画像: 野外炊具1号の近くに天幕(テント)を設置し、食材の下ごしらえを行う陸自隊員 撮影/村上淳

    野外炊具1号の近くに天幕(テント)を設置し、食材の下ごしらえを行う陸自隊員 撮影/村上淳

     6個のかまど、発電機、野外冷蔵庫、調理器具などがセットになった野外炊飯用の装備品。これ1つでご飯やみそ汁はもちろん、焼き魚、唐揚げや茶わん蒸しなどさまざまなメニューの調理が可能。

     回転式のカッターは、野菜類の輪切り、千切り、短冊切り、大根おろしなどができる。

    画像: 【SPEC】全幅:約2.3m 全長:約4.6m 全高:約2.0m

    【SPEC】全幅:約2.3m 全長:約4.6m 全高:約2.0m

     同時に約200人分の主菜と副菜を作ることができ、炊飯だけなら1回で約300人分をまかなえる。車両でけん引して演習場などへ運搬し使用する。

    浄水セット:さまざまな不純物をろ過して飲料水にする

    画像: 浄水をした水は、かがみもちのような形をした貯水タンクに保存。2基で約10トンの貯蔵が可能だ

    浄水をした水は、かがみもちのような形をした貯水タンクに保存。2基で約10トンの貯蔵が可能だ

     河川などからポンプで取水した水(不純水)に圧力をかけ、細菌や化学物質、不純物などをろ過して毎時約3.5トンの飲める水(純水)が作れる装置。

    「逆浸透型」と「逆浸透2型」がある。2型は海水の浄水が可能で、淡水は1日で約3万5000人分、海水だと約1万5000人分の浄水が可能だ。

    画像: 【SPEC】揚程(水を汲み上げられる高さ):約18m 揚水量:約150ℓ/分 浄水能力:約3.5t/h

    【SPEC】揚程(水を汲み上げられる高さ):約18m 揚水量:約150ℓ/分 浄水能力:約3.5t/h

     3トン半トラックに車載できるほか、分割して輸送機やヘリコプターでも運搬できるため、災害派遣などでも活躍する装置だ。

    野外入浴セット:1日に1200人が入浴可能な“移動式浴場”

    画像: 入浴セットの設置から完了までは約6時間。大人が座って肩まで漬かれる深さのある浴槽は、約45分でお湯が満たされる

    入浴セットの設置から完了までは約6時間。大人が座って肩まで漬かれる深さのある浴槽は、約45分でお湯が満たされる

     3トン半トラックでけん引する野外入浴セットは移動式の浴場だ。

     浴槽、シャワースタンド2台、1万リットルの貯水タンク2台、野外湯沸かし器、浴槽を覆う天幕(テント)などが1セット。1度に約30人が利用できる。

    画像: 【SPEC】湯量:5.4t/h 湯温度調整範囲:15~75℃ 最大入浴可能人数:約1200人/日

    【SPEC】湯量:5.4t/h 湯温度調整範囲:15~75℃ 最大入浴可能人数:約1200人/日

     基地・駐屯地を長期間離れた際、野外活動する隊員の疲労回復と士気高揚効果が目的だが、災害派遣の現場では、避難所などで暮らす被災者の生活を支援する装備として使用される。

    野外洗濯セット:被服の汚れから発症する疾病を防止する

    画像: 野外洗濯セットの形状はボックス型で、作業をする際には側面のパネルが開き、これが屋根代わりになる

    野外洗濯セットの形状はボックス型で、作業をする際には側面のパネルが開き、これが屋根代わりになる

     屋外演習の現場では戦闘服や作業服などの汚れはつきものだが、そのままにしておくと感染症や皮膚病の原因に。

     この移動式洗濯装置は民生品の全自動洗濯機4台と乾燥機、揚水ポンプや発電機が搭載され、1時間に作業服約40着を洗濯、乾燥できる。

    画像: 【SPEC】洗濯機(洗濯量:作業服約40着/h) 乾燥機(乾燥量:作業服約40着/h) 貯水タンク:約1万ℓ

    【SPEC】洗濯機(洗濯量:作業服約40着/h) 乾燥機(乾燥量:作業服約40着/h) 貯水タンク:約1万ℓ

     かつては洗濯機をOD色(濃い緑色)に塗装していたが、現在は白色のまま使われている。また初期型では組み立て式乾燥室で洗濯物を乾燥させていた。

    (MAMOR2024年3月号)

    <文/古里学 写真提供/防衛省(特記を除く)>

    物流クライシス2024 日本は乗り越えられるか?

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