自衛隊には、指揮官を補佐する「副官」という任務がある。
「副官」とは、軍隊において司令官などの指揮官を補佐する将校(自衛隊でいう幹部)のことを指し、主に事務的な仕事を担うとされている。副官の具体的な業務は規定されておらず、部隊の本部、総務部署などに属する形をとっていることが多いが、直接の上司は指揮官本人のみであり、指揮官の指揮統制に従って動く。
防衛省・自衛隊には、さまざまな「副官」ポジションがある。日本の全省庁の中で防衛省にしかいないという「大臣・副大臣副官」のほか、海上自衛隊自衛艦隊司令官と陸上自衛隊陸上総隊司令官、それぞれの副官をご紹介しよう。
防衛副大臣の副官:政治の世界と自衛隊を結ぶ役目
「ほかの省庁では大臣・副大臣に秘書官が付きますが、防衛省では自衛官の副官も付くと知り、何ができるのだろうと最初は戸惑いました」と語る戸井田3佐。
業務は副大臣業務の補佐。主にスケジュールの調整、視察の同行などで、その点はほかの副官と変わりない。
「副大臣には政治家としての活動もあります。議員事務所との調整を行い、副大臣をお支えするのが、ほかの副官と大きく異なる点ですね」
副大臣副官として得られる経験については、「自衛官の価値観だけでは円滑に進めることができない仕事を経験することで自分の世界が広がりました。今後も自衛官としての常識にとらわれず、防衛力が何のためにあるのかを考えながら任務にまい進したい」と話す。
【防衛副大臣の副官 戸井田尚3等空佐】
防衛省大臣官房秘書課副大臣室所属の副大臣副官。京都府出身。特技は情報通信。過去には任務で政府専用機に乗っていたことも
陸上総隊司令官の副官:司令官の思考環境を整えるのが務め
副官の任務を一言で表すと「司令官の思考環境の整備」と話す重丸1尉。副官になって気付いた点をこう語る。
「副官は司令官をお支えするイメージでしたが、私自身が急速に育てていただいている感じですね」
幅広い視野と多角的な視点から陸自や防衛のことを学べる点は想像どおりだったが、それ以上に学ぶものが大きいという。
「自分がこれまで触れたことのない分野についても内容を掌握しておかねばなりません。人事や兵站(へいたん)、法務、報道にまで関係してくるので大変です」
任務上一番うれしいのは、司令官の「ありがとう」の一言だと言う重丸1尉。
「言われたときは冷静に対応しますが、内心はガッツポーズしたいくらいです」
【重丸太一1等陸尉】
陸上総隊司令官・竹本竜司陸将の副官。職種は普通科cで第1空挺団などで勤務。貴重な修養の機会と考え副官の打診を受けたという
自衛艦隊司令官の副官:指揮官を直接いさめるのも任務
「副官はモール(飾緒)を着けて式典に出たり、スケジュールの管理をするのがメインと考えていましたが、それらは業務の一端でしかなく、物心両面から指揮官の意思決定の助けとなる環境を整えるのが任務の本質。副官自ら考えて行動することが求められる点に苦労しました」と語る佐藤3佐。
これまで経験した中では、司令官の海外出張に随行したのが印象的だったという。
「アメリカをはじめ多数の将官が集まる場に参加でき、ハイレベルな内容に触れられたと同時に、各国の副官たちと友人になれました」
司令官からは、副官は指揮官の分身であると教えられたと語る佐藤3佐。
「齋藤海将から、指揮官に『それはダメです』と言うのも副官の役目と言われ、それが心に残っています」
【佐藤壮真3等海佐】
自衛艦隊司令官・齋藤聡海将の副官。前任地は幹部候補生学校で服務指導を担当。執事のような緻密さと夫婦のような愛情を併せ持つ副官が理想
(MAMOR2024年2月号)
<文/臼井総理 撮影/星 亘 写真提供/防衛省>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです